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【小説】#8:安倍公房『砂の女』

タイトル:砂の女
著者:安倍公房
読了日:12/31


あらすじ

ある八月の日、学校教師をしている男は休暇を利用して昆虫採集をしに出かけた。
新種の昆虫を見つけようと砂丘地帯にやってきたが、そこの部落の老人と出会い泊めてもらうことになる。
その家は高い砂の崖の下にあり、縄梯子を利用しなければ登り降りができないくらいだった。
その家には一人の女が住んでおり、家が砂で押しつぶされてしまわないように毎日砂掻きに追われていた。
次の日、男が目覚めると縄梯子が取り外されており、砂の崖の下に閉じ込められてしまった。
何度も脱出を試みるが失敗。
そんな日々が続いて3ヶ月が経つと、鴉を捕らえるために《希望》と名付けた罠が幸運にも砂の特性を生かした水を蓄える装置として機能することがわかる。
また、女の子宮外妊娠の影響で縄梯子が取り付けられ男は逃亡の機会を得るものの、明日にでも考えればいいと砂の穴の中に残るのであった。
安倍公房を世界に知らしめたきっかけとなった本作品。
世界で20ヶ国以上の言語に翻訳された世界的な近代日本文学の傑作。


感想

まず、この作品はどんでん返しのような展開はないため普通にネタバレしても問題ない類の作品かと思われますので、バンバン内容に触れます。
嫌な方はこれより下は読むのを避けていただけると幸いです。
率直な感想としては「語彙力半端ねぇ」です。薄ーい感想ですみません。笑
聞いたこともない単語、言い回しがぽんぽん出てくるのでなかなか捗らず、読むのにかなり時間がかかってしまいました。
また、これまで自分はミステリ・ホラーばかり読んでいたので、こういった純文学の中の現代文学(前衛文学)はほぼ読んだことがなかったというのも影響しているかと思われます。
ページ数は270弱と少ない方ですが、読み進めるのはなかなか大変かもしれませんね。
さて、そろそろ内容に触れていきましょう。
結局男は部落から逃亡せず残りました。部落における生活と現代社会における生活の本質は何ら変わらないということ、砂の女は妻とは違い避妊器具なしで性行できること、《希望》がうまく貯水機能を果たすということを部落の人間に知らせたいことなど様々な理由があるでしょう。
特に生活面では「労働」に対する「反復」ということの普遍性に気づいたことが重要でしょう。
砂を掻くことと、出勤し仕事をこなし帰宅する毎日が結局は反復という言葉に帰納的にたどり着いてしまう。
平凡な社会生活から解放され自由を追い求めていた男が目の前の不自由に迫られたとき、「本当の自由とは何なのか?」について改めて考えさせられる。
幾分か哲学的な問かとも思われるが、高度経済成長期を過ごした作者が日本の労働社会に対してある種一石を投じるような、皮肉のこもった表現も見受けられる。208pからの男と女のやりとりが顕著だろう。
とにかく、世界観がぶっ飛んでいるため興味を持って読んだ作品ではあるが、初めての純文学・現代文学読書経験になってよかった。


余談

この本を手に取ったのは感想部分でも少し触れましたが、世界観が面白そうだったからというのが一つです。
大学の書籍部でたまたま目に入り手に取って、内容をチラッと見た感じ「何じゃこりゃ」と思い購入を即決しました。
また、もう一つ理由があってそれは1ページ目の『罪がなければ、逃げる楽しみもない』というフレーズでした。
「なんか、カッケェ!!」って感じざるを得ない一文にハートがっしり掴まれてしまいました。
この一文は作品を読み終わってから意味がわかります。
砂の穴の中の生活に順応し、自分が社会に取って欠けても何ら問題のない部品に過ぎなかったことを自覚したことで、罪の意識も消え失せた男にとってはもはや逃げる意味もないということでしょう。
もう、俺社会に出て労働したくねぇよ...
全然話は変わりますが、少々古い作品ともあり言葉遣いが難しいのですがそれもそのはず、故安倍公房さんは東大の医学部卒なんですね。
うひゃー頭上がんねぇわぁ。
「壁」という作品では芥川賞を、この「砂の女」ではフランスの最優秀外国文学賞を、他にも様々な賞を受賞されていらっしゃるそうです。
機会があればまた他の作品にも目を通してみたいなと思いました!

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