社会をすぐに変えることは難しい。でも、小さな行動が、私たちの望む未来を引き寄せる。|♯わたしたちの緊急避妊薬 vol.12
毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズを公開します。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。
※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。
家族との性の話は、なんとなくタブーに感じていた。
――生い立ちのなかで、性に関する話をできる環境にありましたか?
みのりさん:姉が二人いますが、両親を含めて家族と性について話すことはほとんどなかったです。「生理がきた」ぐらいの報告はしていましたが、たとえば性行為についての話はしたことがありません。関係が悪いわけではなく、お互い気まずいというか、性に関する話はなんとなくタブーという雰囲気がありました。
――学校や、友人間ではいかがでしたか?
みのりさん:友人とはそれほど抵抗感なく話せていました。ただ、自分の実体験に基づくような踏み込んだ話ではなく、生理になったとか、生理の重さとか、PMSの話題が多かったです。性教育や、こういうことに気をつけないといけない、という具体的な話はあまりなかったと思います。
「悩んでいるのは私だけ」。その事実が、不安な気持ちに拍車をかけた。
――緊急避妊薬を飲むに至った経緯を教えてください。
みのりさん:初めてお付き合いをしたのが18歳の時で、私は大学生でした。当時の私は中学校で教わる程度の性知識しか持っていなかったんですね。避妊に関しても、相手はきっと正しい知識があると思い込んでいて、具体的にどういう行為が妊娠につながるのかわからなかったんです。
“膣内で射精したら妊娠する可能性がある”という認識はあったのですが、その時はコンドームをつけずに性行為をしたんです。あとから不安になって調べたら、避妊をせずに挿入するだけでも妊娠する可能性があると初めて知って、緊急避妊薬を服用することにしました。
ーーその時の気持ちを教えてください。
みのりさん:夜だったので、時間がとても気になりました。朝がくるまでまだ何時間もあって、早く対処したいのに動けない。しかも、相手からは「妊娠している可能性は限りなく0に近いやろ」と言われ、悩んでいるのは私だけだと突き付けられているようでした。どうしようもない焦燥感と、苛立ちがないまぜになった気持ちだったと思います。
ーー病院での様子はいかがでしたか?
みのりさん:流れ作業みたいな感じで、会話はあまりなかったです。来院した経緯を説明して、その後実家に帰る必要があったので、副作用で吐いたりしたら困ると思い、質問したら、「そんなことはなってから考えたらいい」と言われました。その時は、吐き気止めの薬を処方してもらえることを知らなかった*ので、同じやりとりを数回繰り返したのですが、埒が明かないと思い、諦めて病院を出ました。結局、家族に気づかれないように吐いたことを覚えています。
経験を誰かと共有する。小さなことでも、積み重なれば、社会を変えるうねりになる。
ーーその後、行動の変化はありましたか?
みのりさん:ソウレッジさんをはじめ、性教育に取り組む団体を知って、性についての学びを継続していることだと思います。また、性行為に対する気持ちにも変化がありました。緊急避妊薬を服用したことで、“妊娠したら困る相手と性行為をしたくない”それぐらい重要なことなんだなと感じて、付き合うことや性行為をすることへのハードルが、自分の中で高くなりました。
ーーどのような思いでこの取材を受けてくださいましたか?また、メッセージがあればお願いします。
みのりさん:協力する方法は寄付などいろいろあると思うんですけど、やっぱり私一人の力は小さくてもどかしく感じていました。自分の経験を話すことが、無力な自分や、社会に対するやり場のない気持ちや憤りを緩和させ、「ちゃんと行動しているよ」と、結果的に自分自身の安心材料となり、エンパワーメントすることにもつながったと思います。
こういった性に関する話は、なかなか言いだしにくいことも多いと思います。でも、話してみると、似たような経験をしている人は意外とたくさんいるなと感じたので、話せるようであれば、思い切って話してみると、楽になることもあるかなと個人的には思います。
――ありがとうございました。
インタビュー/高山 秋帆
文/中村 恵