必要な人が必要な時にアクセスできる環境を。マレーシアと日本で異なる、認識の差|♯わたしたちの緊急避妊薬 vol.8
毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズを公開します。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。
※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。
ジェンダーや多様性の問題を知った学生時代
ーー生い立ちの中で、性に関する話はできる環境でしたか?
花菜さん:私の両親は小学生の時離婚をして母方の両親と母、私という家族構成です。母との関係はかなり良好で、友達のようでした。とはいえ、性に関することは何となく避けてしまっていたような気がします。仲が良いだけに少し恥ずかしい気持ちがあったこと、また、ひとり親なので一人っ子の私がしっかりして、心配をかけないようにしなくちゃと思っていました。
ーー学校の友人や恋人とはいかがでしたか?
花菜さん:中学、高校では付き合っている人たちの話や、誰がどこまで進んでいるかみたいな話を友達としていました。大学では、ジェンダーや多様性について話せる友人ができたこともあり、これまでもやもやしていたことが自分だけの問題ではなかったこと、反対に自分の知らなかった性に関する問題を友人との会話を通じて身近なこと、自分ごととして捉えられるようになりました。
恋人とは特に決め事などはしていませんでしたが、避妊なしでの性行為にはリスクを感じていたため、話さずとも避妊は必須という認識でした。その他の性に関する悩みごとなどは、恋人とは積極的には話していませんでした。
日本とマレーシアで感じた“緊急避妊薬の違い”
ーー緊急避妊薬を飲むのに至った経緯についてお聞かせください。
花菜さん:1人目の出産の時に、産後うつになったんです。日本から海外(マレーシア)の引越しも重なって、メンタル的に厳しい状況でした。ようやく回復してきたタイミングで性行為があったのですが、「また産後うつになったらどうしよう」、「上の子や生まれて来る赤ちゃんに悪影響になるのでは」と日に日に不安が募り、とても怖くなりました。
当時(2017年)マレーシアでは、ドラッグストアで緊急避妊薬が千円程で買えたため、夫と相談した後、すぐ薬局に買いに行きました。
ーーどうやって緊急避妊薬の手に入れ方を知ったんですか。
花菜さん:あまり覚えていないのですが、インターネットだと思います。現地の友達は多くはなく、必死に調べた記憶もないのでおそらくスマホで検索して簡単に情報が出てきたのだと思います。詳しく思い出せないくらい、緊急避妊薬へのアクセスは簡単で、ハードルだと感じたことはありませんでした。薬局では女性の薬剤師さんに相談し、注意事項を聞いた後その場ですぐに処方してもらいました。
その後、日本に帰ってきてからもう一度緊急避妊薬を飲む必要があると思う時がありました。
同じようにインターネットで調べたのですが、土地勘のない地域で、ネット上のレビューを見ながら初診の産婦人科を探すのは、とても心理的な負担がありました。都心に住んでいる訳ではないので、急いで受診するためにしょうがなく選んだ病院に行ったことを覚えています。
ーー入口から違いがあったのですね。処方時はいかがでしたか?
花菜さん:担当下さった産婦人科医の方は、すごく冷たい態度での診察だったのを覚えています。ただ、赤ちゃんの誕生をサポートする産科なので、そういう対応や考えも当然あるのだとは思います。また、負担は金銭面でもかなりあったように思います。診察料と緊急避妊薬で結構な額のお金を使いました。
ーー当時、違いを知った時にどのようなことを感じましたか?
花菜さん:日本とマレーシアの違いを知って、日本では緊急避妊薬の必要性がすごく低く認識されていることを実感しました。万が一、今後緊急避妊薬が必要というタイミングがあっても、日本で経験した入手までの手間や心理的・金銭的負担を考えると、アクセスするのを諦めてしまうかもしれないと思っています。
マレーシアでは緊急避妊薬を販売する薬剤師さんが、飲む人の副作用やリスク、また薬の効果を高めるためにといったニュアンスで注意事項の説明をしてくれたことを覚えています。他の薬と同じように、必要な人が自分の身体のために飲むということが、販売者も利用者にも浸透しているのだなと感じました。
一方で日本では、病院に電話し、平日の診療時間に受付し、初診表を書き、と様々なステップが必要になります。
医師にいろいろ聞かれている時にも、「このやり取りは必要なのかな」と思う一方、産科の医師にこんなことに時間を使わせてしまって申し訳ないという気持ちもありました。他の国では必要な人が必要なタイミングで簡単に手に入る緊急避妊薬を、わざわざ医師の時間をとって、事務的に聞かなければいけないであろう項目を聞いて。産科の医師もこんなやり取りをしても無駄だなと思っているのではとも感じ、なんだか罰を受けているような気もしました。
他にも選択肢があることを知ってほしい
ーーマレーシアと日本での経験から、今感じていることを教えていただけますか?
花菜さん:日本は少子化だから、とにかく子どもを産めばいいという風潮になっているのではないかと思います。産んだ後に子どもが育つ家庭環境や金銭的状況などすべて無視して、とにかく妊娠したら産めと言われているように感じます。
また、緊急避妊薬自体に何か先入観があったり、そもそも飲むべきではないとか、女性ひとり一人の健康やライフステージを考えるということ以外の感情論のようなものが日本では優先されがちな気がします。
特に私は結婚しているので、そういった風潮の中で初診の産科の医師に「子どもを何人産んでもいいですよね?」、「なぜ緊急避妊薬を使うのですか?」と聞かれることがとても不安でした。個人としてどういった人生、キャリア設計をするのか、どんな家族構成にするのかといったことに関して、見えない圧力で選択肢を狭めるような今の日本の制度や風潮はすごく息苦しいと感じます。
ーーどんな思いでこの取材を受けてくれましたか?
花菜さん:私にとって最初の緊急避妊薬との関わりがマレーシアだったことで、副作用やリスクはもちろん理解しつつも緊急避妊薬とは良い意味で他の頭痛薬などと同じように「必要な薬」で、使うことに抵抗を感じる必要ないと思っていました。そのため日本では緊急避妊薬を手に入れづらいと思っている人の方が多いことに、納得がいっていないです。本当に必要な人が、必要な時に心も身体も金銭面でもなるべく負担なく、身近なセーフティーネットとして緊急避妊薬が使えるということを、何かある前に早いうちから知識として多くの男性女性に知ってほしいです。この記事が、その認知を助ける何かになればと思います。
ーーありがとうございました。
インタビュー/辻奈由巳
文/小谷真以花