“正しい知識”と“自分を守る選択肢”に、誰でもアクセスできる社会であってほしい。|♯わたしたちの緊急避妊薬vol.10
毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズを公開します。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。
※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。
隠すようなことではない。でも、父親との会話はなんとなく性の話は避けていた。
ーー生い立ちのなかで、性に関する話をできる環境にありましたか?
彩香さん:母と妹とは、性についてそれなりにオープンに会話できる関係でした。具体的な話というよりは、性暴力や性的虐待などのニュースを見た時にどう思うかや中年以降の性事情、社会問題について話をしていました。
ただ、そういった話は、父がいないタイミングですることが多かったように思います。あまり深く考えたことはないのですが“異性と話すべきではない”という潜在意識が私の中にあったように思います。
ーー友人関係においてはいかがでしたか?
彩香さん:一部の親しい人とは話していました。社会的なことよりも、自分自身のことや、付き合っている人のことについての話が多かったです。
性行為は、二人あってのこと。どちらか一方だけが責任を負うのはおかしい。
ーー緊急避妊薬を飲んだきっかけを教えてください。
彩香さん:オンラインで知り合った人と、お互い同意の上で性行為をしました。もちろんコンドームはつけていたんですけど、外れてしまって。心配になったので、私から「緊急避妊薬を飲みたい」と伝えました。
ーー当時の心境はいかがでしたか?
彩香さん:お付き合いしている人ではなかったので、もし妊娠しても、産むという選択は絶対にできないと思いました。かといって中絶もしたくないので、妊娠しては困ると思い緊急避妊薬を飲みました。病院では特に指導や注意などもなく、滞りなく処方してもらいました。
ーーお相手の反応はいかがでしたか?
彩香さん:コンドームが外れていたとわかった時は、ちょっと心配そうではありましたけど、深刻さはなかったですね。緊急避妊薬の費用を割り勘にしてほしいと私が伝えた時も、「そっちが勝手に飲みたいだけでしょ? 大丈夫でしょ?」みたいな感じだったので、「でも二人でしたことだから、私だけが責任を負うのはおかしい」という話をした覚えがあります。
私はもともと、思っていることをなかなか言えない方なんです。ただ、自分がしっかりと学び、得た知識に関しては「それはおかしいよ。間違っているよ」と言えると思っています。
それに、恋人ではない不特定多数の人との性行為は、やっぱりリスクがあるので、自分で知識を得て自分を守らないとっていう思いがありました。その意識は看護師になる前からあったと思います。
個人の権利を守り、安全に性と付き合うための正しい知識。必要としている人に届いてほしい。
ーーその後、行動の変化はありましたか?
彩香さん:特に変わったことはありませんでした。きちんとコンドームをしていたけれど、外れてしまうというのは、仕方ないことかなと。だから、特に反省もなかったと思います。
ーーどのような思いでこの取材を受けてくださいましたか?
彩香さん:私は、以前から日本の性教育には問題があると感じていました。性感染症の蔓延や性暴力、若年層での人工妊娠中絶件数の増加など、知識があれば回避できることもあると思います。でも今の日本の教育では、身体の仕組みや生命の大切さばかりがフォーカスされていて、本当に必要な知識が、その知識を必要としている人、特に若い人に届いていない気がします。
学問としての性教育ではなく、性に対する全人的な価値観、倫理観なども含めた、抜本的な意識の改善が必要だと私は考えています。そのためには、子どもだけでなく、大人や行政・医療機関にも働きかけていくことが重要です。私個人での発信力は小さいけれど、こういった活動に精力的に取り組まれているソウレッジさんと一緒に声を上げることができて、とても嬉しくおもっています。
私には、お付き合いした男性だけでなく、セフレ関係の人もいましたし、人よりも性に奔放なタイプで、色々アブノーマルなこともしてきたと思います。でも性知識があったから、辛い思いや危険な目に遭わずにすみました。緊急避妊薬も含め、正しい知識を持つことは、安全に性を楽しむための最初の一歩です。性に関する話をタブー視せず“自分の性との向き合い方を考えることができる”そういう社会になればいいなと思います。
インタビュー/高山 秋帆
文/中村 恵