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『イシューからはじめよ』を読んで:問いの質を上げるということ
はじめに
安宅和人氏の『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』を読んだ。この本は「本当に価値のある仕事とは何か?」を突き詰め、そのための思考法を体系的にまとめた一冊だ。
日々、事業や部門の方向性について考える事が多い。ただし、日常業務の中で、情報の整理や企画の精度に課題を感じることも多かった。デザイン思考を学んできたこともあり、仮説と検証を繰り返すことの重要性は理解しているが、この本はさらにその「前段階」に立ち返り、「そもそも何を考えるべきか?」を徹底的に問う内容だった。
以下、本書の要点と、それを読んで考えたこと、そして実践にどうつなげていくかについてまとめる。
要約|価値のある仕事は「イシュー設定」で決まる
本書の主張を端的にまとめると、「生産性を上げるためには、まず価値のあるイシュー(論点)を見極めよ」ということだ。著者は、知的生産をする上で重要なのは「答えを出すこと」ではなく、「どの問いを考えるか」の段階で8割決まると言う。まさに段取り八分。古から語り継がれてきて定着している思考法の強さ、ここに極まれり。
本書では、価値あるイシューを見極めるための条件として、以下の2つを提示している。
本質的な選択肢であること(考える価値があるか)
答えを出せる可能性があること(答えが出せる見込みがあるか)
つまり、どんなに精度の高い分析やデザインをしても、そもそも的外れな問題を解こうとしているなら意味がない。逆に、適切なイシューを設定すれば、必要なアウトプットの方向性が明確になり、思考と行動の無駄を大幅に減らせる。
本書ではこの「イシューを見極める力」を高めるために、
イシューの分解と整理
価値あるイシューの見極め方
知的生産のプロセスとしての「仮説ドリブン思考」 といった具体的な手法を解説している。
特に、データを収集する前に仮説を立て、そこから必要な情報を取得しにいくというアプローチは、日々の仕事でも応用しやすいと感じた。
よく「閃き」と表現される事象には2種類あると思っていて、何の根拠もない「思いつき」と、これまでの経験や知見が脳内で高速循環し最も確率の高い方向性を予測した「仮説」の2つ。これが混同されているのが結構多い。
読んで考えたこと|「風呂敷を広げる」から「価値ある論点を絞る」へ
これまでの自分の仕事の進め方を振り返ると、どうしても「風呂敷を広げすぎる」傾向があったと気づいた。
ブランディングの仕事では、世の中の潮流や消費者のインサイト、競合の動向など、多くの要素を考慮する必要がある。そのため、「この情報も必要かもしれない」「この視点も捨てがたい」と、つい検討項目を増やしてしまいがちだった。
しかし、本書を読んで改めて思ったのは、「情報を集める前に、考えるべきイシューを絞る」ことの重要性だ。
例えば、新しいブランド戦略を考える際にも、
「このブランドが抱える本質的な課題は何か?」
「解決すべき優先順位の高い論点は何か?」
「どの仮説を検証すれば、インパクトの大きい答えにたどり着けるか?」 といった問いを先に整理することで、余計な情報に振り回されることなく、的確なアイデア出しができるようになる。
また、「貯蓄も大事だけど、体験価値にお金を使うことに価値を感じる」という自分の考え方とも重なった。限られたリソースの中で何に投資すべきかを考えるのは、ビジネスでもプライベートでも同じ。「どの体験が自分にとって価値があるか?」という視点で選択をすることも、広義のイシュー選定なのだと思う。
これからの行動|「問いの質を上げる」ために
本書を読んで、「もっと日常の業務に落とし込める」と感じたポイントがいくつかある。特に、今後意識したいのは以下の3つだ。
イシューを見極める時間を確保する
何かを考え始める前に、「そもそも何を解くべきか?」を整理する時間を意識的に取る。
仮説ドリブンの思考を徹底する
「まず仮説を立てる → 必要な情報を集める → 仮説を検証する」という流れをルーチン化する。
チームでの議論にも活用する
会議で「この議題のイシューは何か?」を先に明確にし、論点をズラさず議論できるようにする。
これまで「情報を集めること」に力を入れてきたが、今後は「適切な問いを立てること」にフォーカスを移していこうと思う。
おわりに
『イシューからはじめよ』は、単なる仕事術の本ではなく、「限られた時間と労力をどう使うか?」という本質的な問いを投げかける一冊だった。
風呂敷を広げるのが得意だからこそ、「何を考えるべきか?」を見極める力を鍛えることが、次のステップになる。読んで終わりではなく、実践を積み重ねながら、自分の思考の質を磨いていきたい。