珈琲店から夢は咲く 第8話「カフェクラウディア」
カフェ。それは文学や写真、絵画、映像作品など、様々な芸術作品が生まれてきた場所。仕事で疲れた身体と心を休める場所でもある。
この『珈琲店から夢は咲く』では、クリエイターの卵である夢咲すずがカフェに行って創作のインスピレーションを受け、その様子やカフェを紹介していく。
創作活動をしている人、カフェが好きな人、そして偶然この記事を目にしてくれたそこのあなたにも、少しでも「面白い」「参考になる」「自分も行ってみたい」と思っていただけたならば光栄である。
小田原の自家焙煎珈琲店
ここは神奈川県小田原市。目線の先、遠くの方にそびえ立つ小田原城。かつては東海道最大の宿場町として栄えたとされる、そんな小田原の駅前にやってきた。
現在では新幹線や箱根登山線などが発着し、多くの観光客が訪れる街でもある。神奈川県にはこのように歴史ある街が数多く存在している。学生時代は歴史の授業が好きだった私にとっては、神奈川県全体がまるでテーマパークのように感じる。
小田原駅の東口から北に向かって歩く。ここには東通り商店街という、どこか懐かしさを感じるような商店街がある。撮影日は日曜日の夕方だったので人通りはまばらだったが、平日の夜は仕事帰りのサラリーマンなどで賑わうのだろうか。そんな想像をしながら歩く。
東通り商店街を抜け、そのまま北東を目指して歩く。大雄山線の緑町駅付近を通り過ぎてもう少し北の方へ。郵便局の近く、高架下の手前に今回の目的地はある。
今回訪れたのはカフェクラウディア。赤い看板が目を引くこのお店では、自家焙煎珈琲のほかにトーストやサンドイッチ、シフォンケーキやパフェなどを提供しているようだ。
さて、普段ならコーヒーとフードメニューを注文して食レポをするところだが、今回は少し趣向を変えてお送りする。星の数ほどあるカフェや喫茶店の中で、今回このカフェクラウディアを選んだのには理由がある。
2杯のコーヒー
今回注文したのは、コーヒー2杯。このカフェクラウディアには同一豆異焙煎2種飲み比べというメニューがあるのだ。このカフェ巡りの企画を通してコーヒーについての知識を深めたいと考えている私にはうってつけだ。
しかし、今の私はまだまだ素人同然。豆の種類が違えば味も違うことはわかるが、焙煎の度合いによって味はどこまで変わるものなのか想像がつかない。
今回はエチオピア モカ イルガチャフィー ベレカG1の中煎りと深煎りを注文した。初めての飲み比べなのでわくわくする一方、味の違いがわからなかったらどうしようという不安も感じている。
「左が深煎り、右が中煎りです。」
マスターがそう言うまで、私にはどっちが深煎りなのかもわかっていなかった。色が明るい方が浅煎りで、暗い方が深煎り。コーヒーの常識を学ぶことができた。
そして2杯のコーヒーが完成した。白いソーサーの方が中煎り、黒いソーサーの方が深煎りだ。
写真を撮影してnoteに掲載していいかを確認すると、快く許可していただけた上に、撮影しやすいように説明書きのカードや元のコーヒー豆などの配置を工夫してくれた。ここまでしていただけるなんて感謝しかない。
中煎りのコーヒーを飲む。酸味が強く甘みもあってすっきりとした味わいだ。とても飲みやすくて美味しい。
続けて深煎りのコーヒーも飲む。こちらは苦味が強く、深みの中に酸味や甘みも少し感じる。こちらもとても美味しい。
確かに違う。焙煎の度合いによってこんなにも違いが出るものなのか。
コーヒーの世界
驚いている私を見て、マスターは何かを理解したかのように表情を変えてこう言った。
「コーヒーの味の違い、苦味があるか酸味があるかを決めるのは焙煎です。」
どうやらマスターは私を素人だと見抜いたようだ。そして話を続けた。
「同じ豆でも長時間焙煎して深煎りにするほど色が暗くなって、苦味も出てくる。酸味が強くなることは無いわけです。その反対で、浅煎りの豆は酸味が活きる。苦くなることは無いです。」
今まで焙煎の度合いなど意識したことが無かった。しかし焙煎こそがコーヒーの味を大きく左右する重要な要素だった。これはコーヒーの世界では常識だと、このとき初めて知った。
「モカは甘くて酸っぱいコーヒーだと思っている人が多いでしょう?あれも正確には間違いです。」
私の中の古い常識を塗り替わった、その直後にさらにもうひとつの古い常識が砕け散った。
「そもそもモカっていうのはエチオピアとイエメンの通称なんですけどね。これらの豆はフルーティーな酸味と香りが特徴なので、それが一番よく活きる焙煎度合いにしようとすると浅煎りや中煎りになるんです。その白い方がまさにそうです。」
「黒い方は深煎りにすることで、酸味や香りを残しつつ苦味を加えたものです。これ以上深煎りにすると酸味も香りも無くなって個性の無い味になってしまいます。」
そのコーヒー豆の持つ良さを活かすために焙煎の度合いを変える。だからモカは酸っぱいコーヒーだと思っている人が多い。これは私には初耳の情報だった。
最後にマスターはこう言った。
「美味しいコーヒーに一番重要な要素、それは酸味です。苦いコーヒーもいいけれど、本当に美味しいコーヒーは苦味の中に酸味がちゃんと活きている。」
他にもいろいろ話してくださったが、素人の私が文章に起こすことでニュアンスが変わってしまうとマスターやお店に迷惑がかかってしまうので、ここでは確実に書けることだけを書くことにした。
コーヒー豆を買う
コーヒーの知識を深めるためにこのお店を訪れたわけだが、その判断は大正解だった。おかげで私がド素人だったことも、酸味こそがコーヒーにおいてとても重要な要素であることも学ぶことができた。
さて、今回このお店を選んだ理由はもうひとつある。そう、ここではコーヒー豆を買うことができる。
どの豆を買おうか悩んでいると、初めてならブレンドではない中深煎りの豆を買うといい、とマスターがおすすめしてくれた。
ということで、今回はグァテマラの中深煎りを購入。コーヒーの知識の基本を教えてくれたことなどを感謝して、お店を後にした。
コーヒーを淹れてみる
帰宅。自宅のある川崎市も神奈川県だが、小田原からはかなりの距離があるため疲労感がとてつもない。今すぐ布団に飛び込んで眠りたいところだが、せっかくコーヒー豆を購入したことだしコーヒーを飲むことにしよう。
これが購入したグァテマラのコーヒー豆だ。とても良い香りがする。
借りものの電動コーヒーミルで豆を挽く。調べたところによると、市販のコーヒードリッパーを使う場合は中挽きが良いとのことだったので、中挽きに設定した。後はボタンを押すだけで自動的に中挽きにしてくれる。とても便利だ。
買ったばかりのコーヒードリッパーをサーバーにセットしてお湯を注ぐ。最初は少量のお湯を注いで蒸らす。20秒ほど待ったら、続けてお湯を数回に分けて注いでいく。
事前にお湯を入れて温めておいたコーヒーカップに淹れたてのコーヒーを注ぐ。
完成。人生初の本格的に淹れたコーヒーだ。なんだか感動してきたが、コーヒーが冷めてしまう前に一口飲もう。
美味しい。とても自分で淹れたとは思えないほど美味しい。比較するのは少し申し訳ないが、今まで飲んでいたスーパーで買ったドリップコーヒーよりも断然美味しい。
しかし、まだまだカフェの美味しさには程遠い。何が違う?豆は同じだ。なら考えられる理由はひとつ。淹れ方だ。何事も経験を積んでレベルアップしていかなければプロにはなれない。当然だ。
夢咲音楽館プライベートカフェ化計画、つまり自分が満足する味のコーヒーが淹れられるようになればそれでいいわけだが、自分の満足する味というのはすなわち他人に振舞えるレベルの味だ。
やるべきことは決まり、材料も揃った。あとはやるべきことを実行に移すのみ。これまで8つのカフェや喫茶店を巡って、1杯のコーヒーから1%のひらめきを得てきた。そろそろ、私なりの答えというものを出すべき段階に来たのかもしれない。
『珈琲店から夢は咲く』は隔週または毎週火曜日に更新。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは、またお会いしましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?