珈琲店から夢は咲く 第2話「カフェ鈴木」
カフェ。それは文学や写真、絵画、映像作品など、様々な芸術作品が生まれてきた場所。仕事で疲れた身体と心を休める場所でもある。
この『珈琲店から夢は咲く』では、クリエイターの卵である夢咲すずがカフェに行って創作のインスピレーションを受け、その様子やカフェを紹介していく。
創作活動をしている人、カフェが好きな人、そして偶然この記事を目にしてくれたそこのあなたにも、少しでも「面白い」「参考になる」「自分も行ってみたい」と思っていただけたならば光栄である。
厚木市にある謎の入口
ここは神奈川県厚木市。特急ロマンスカーも停まる本厚木の駅前にやってきた。
駅前はとても賑やかだ。大きなビルや商業施設、そしてたくさんの人々が行き交う商店街。都会という言葉がとても似合う、そんな本厚木の駅から程近い場所に今回の目的地はある。
住宅やビルに囲まれた公園の前に佇む、少し怪しげな雰囲気の入口。本当にここで合っているのだろうか……?
そんなことを考えていると、暗い入口から人が出てきた。
「どうぞ」
どうやらここで間違いないようだ。安心した私は導かれるままに、暗い店内へと入る。
今回訪れたのはカフェ鈴木。窓のない店内は暗く、とても心地よい。非日常を感じるような世界観。まるで秘密基地のようだ。少年心が揺さぶられる、そんな素敵な雰囲気のお店で今回はエスプレッソをいただくことにする。
カフェ鈴木のエスプレッソゼリー
今回注文したメニューは、エスプレッソゼリー。このお店の大人気メニューらしい。やはり初めて訪れるお店ではおすすめのメニューをいただくのがいいだろう。
しかし、気になるのは『賞味期限30秒』というキャッチコピー。一体どんなゼリーなのだろうか。
店内の雰囲気が良すぎてお冷も素敵に見える。
見惚れていると、目の前に美味しそうなバニラアイスが置かれた。さあ、ここからが見せ場だ。
真っ白なアイスに黒いエスプレッソが注がれていく。そう、これにてエスプレッソゼリーの完成なのだ。
「時間が経つと冷えて固まりますが、柔らかいうちからお召し上がりください」
言われたとおりに、早速スプーンを入れる。
エスプレッソはまだ液体だった。冷たく優しいクリーミーなバニラアイスに深い苦味のエスプレッソが溶け込んでいる。とても美味しい。
この調子で2口目を食べようとスプーンを入れたとき、異変に気がついた。
固まっている。さっきまで液体だったエスプレッソが液体とゼリー状の中間みたいな状態になっている。とても不思議な感覚だ。
『賞味期限30秒』
ようやくこの意味を理解した。アイスに冷やされて徐々にエスプレッソが固まっていく、その経過を舌で楽しむことができる。それはわずか30秒間。他ではなかなか味わえないだろう。
それ故、エスプレッソはアイスと混ざりそうで混ざらない。白と黒のコントラストが魅惑的だ。そしてつぶあんもとても良いアクセント。
思わず釘付けになってしまった私には、じっくり写真を撮っている余裕など無かった。後日、記事を書くときに写真が無さすぎて頭を抱えることになったのは言うまでもない。しかし、それほど惹きつけるものがあるということだ。
エスプレッソゼリーを食べ終わった私のもとに、口直しの薄切りケーキと小さなカップに入ったコーヒーが運ばれてきた。エスプレッソゼリーを注文するとセットで付いてくるようだ。サービスが最高すぎる。
コーヒーは苦味と深みが強く、とても美味しい。お店の雰囲気と合っていて素敵だ。
私がコーヒーを飲んでいるそばで、マスターと常連客が話をしていた。盗み聞きは趣味ではないので話の内容は全く覚えていないが、とにかく楽しそうに話していたのは覚えている。私もカフェのマスターと仲良くなってみたいものだ。
そういえば私の父は地元のカフェのマスターや店員に友達や知り合いが多かったなぁ、そんなことをふと思い出す。
そもそも、私のカフェ好きは父から影響を受けたものだ。私が高校生だった頃、休日にはよく父に連れられてカフェに行っていた。コーヒーを飲みながらいろんな話をしたのをよく覚えている。思えば、私が夢を追いかけるために神奈川県に行きたいと父に初めて打ち明けたのもカフェだった。無謀な私の夢を認めてくれた父。夢の種を植えたのはそこだったのだと、そんなことを思い出す。
他にもいろいろと思い出したことがあるが、もし父がこれを読んでいたらと思うと少し恥ずかしいのでこの辺にしておこう。とにかく、大事なことを思い出せた気がする。
「ありがとうございました、また来ます」
こんなことを口にしたのは初めてかもしれない。ぜひまた行きたいと、心からそう思える素敵なカフェだった。次は1人ではなく、誰かと一緒に訪れたい。
『珈琲店から夢は咲く』は隔週または毎週火曜日に更新。次回も神奈川県のカフェを訪れて、1杯のコーヒーから1%のひらめきを得たいと思う。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは、またお会いしましょう。
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