ポーター、台風、ゆづり葉
「業界の成長率が、その企業の勝ち負けに大きく影響します。」
ビジネススクールやモノの本では80年代から語られる事。ポーター先生の5Forcesで必ずある話。でもこういうの読み始める時の読者や、こと社会人学生は皆思う。
「分かるけど、今から業界は選べないわ。」
だからこそ、転職する時の業界選びは超重要。伸びる業界に行かなければならない。回るお金が大きい業界も良さそう。そんな基準で見ていくと、ある疑問に当たる。
「高い賃金をもらいたいのか?」
そりゃそうです。こちとら子どもは3人だ。4年で3人だから大学入学が始まる2034-2038年あたりの教育費がえげつない。だから、高い賃金の職を優先的に見れば、どうだろう。
基本的に、雇用者に対する雇用主は「賃金払うから言うこと聞け」という考え方だ。当然、高い賃金にはより「言うこと聞け」が求められる。加えて伸びている業界、お金がたくさん回る業界は、会社が社員にマウントしているケースが多い事も分かってきた。働き方改革とか言い出して結構動きがあるような雰囲気なのに実状これだから、今までどんなだったんだろう?!今朝(9/9早朝は関東を記録的暴風の台風が襲った)、いつもの満員電車に輪をかけて満員な電車に、行き着くまでのホームや改札も満員、電車の開通を待つ駅前コーヒーショップも全て満員でなお、そこにいる人たちはより早く会社を目指すという、非人間的な通勤事情を享受してしまうのは、「言うことを聞け」という被雇用者の呪縛が強くあるからの様に見える。「うちはそんな事ないですよー」と言っていても、程度の問題だと思う。「台風の朝の出社は任意で!」と言うところは出てきても「今日は雨だから子ども送ってくる家庭は無理せずゆっくりね!」と積極的にアナウンスする会社は聞いたことない。会社の言う事と個人の事情は多くの場合トレードオフになり、たいてい賃金が発生している分、個人が負ける。
この関係でいる以上、お金がたくさん回っている(=会社の都合が強い)、伸びている業界で(=既に買い手市場)、有利な転職活動をするにはかなり個人のパワーが必要。そしてその果てに就いた仕事は、自分のやりたい事とどれだけ整合しているのかと言えば、疑問符が付きそうだ。
となると、今の市場規模は大きくないが、今後資金が流入する可能性、今は伸びてないがその可能性がある業界、そしてさらにはその業界で成長する可能性がある会社を見つけ、自分の価値観と擦り合わせていくしかない。ぶっちゃけここまで可能性の話を重ねるくらいなら、自分で起業したほうが早い。とは言いながら起業できるだけの器量が無い私の場合、たまたま各条件を満たしそうなリディラバを見つける事が出来た事は、普通にラッキーであった。
今までの他のnoteで触れていない条件で言えば、まず市場の成長可能性。分かりやすいところでは、2019年度から休眠預金500億が社会課題解決の用途に流入する予定。その他にも、震災以降は社会的投資分野には資金流入が続いていおり(投資サイドも一過性に終わらせないマインドが過去の震災より強い)、日本でもKIBOWのようなVCがインパクト投資を行なっている。一方で「社会的」という言葉はあまりに抽象度が高く分かりにくい。分かりにくさゆえに誰も積極的に理解してこなかったし、お金も入って来なかった。大原則、分からないものにお金は集まらない。そこが今ゆっくりと整理されつつあって、具体的なお金の動きが出てきている。この「これから始まる」感を2019年当初に捉える事が出来たのは一つ目の巡り合わせであった。
業界、というくくりで言うと、更に訳が分からなくなる。実際にリディラバは今年で10年目、社員は20名に満たないが、事業部は4つある。極端な話、分かりやすい業界であれば、事業部は当面一つで良いのだ。理解されにくい業界区分であるからこそ、顧客ごとには分かりやすい言い方ができる形で事業展開しないと、売れないしシェアを押さえきれない(ex.教育旅行事業は当初修学旅行の代替だったが、だんだん社会科見学、課外活動の代替になり、今は探究学習のコンテンツに入ろうとしているが、中身はほぼ同じで分かりやすく言い方と体裁を変えただけ)。しかも会社の理念は「社会の無関心の打破」。当然無関心層からのマネタイズは直接はムリで、工夫を重ねなければならない。リディラバの特徴は、この抽象度の高い業界区分を10年にわたってキープし続けている事だ。ポーター先生の言説を借りれば、
1.参入障壁は高く(そもそも業界全体を捉えきれない)
2.代替サービスは少なく(部分的・単発では可能でも、次々に継続するインセンティブが無い)
3.売り手は困窮していて(解決されない社会課題まじ多い)
4.ガチの競合は出てきにくい(ex.教育旅行事業は、教育事業でもあるし、旅行事業でもある。業界定義が分かりにくいから、意識的に参入してくる競合は極少数)
5.あとは買い手の潜在需要を掘り起こすだけ(無関心の打破をマネタイズ?!ってどうすんねん)
という仕立てである。
ここでのポイントは、まず分かりにくいという事。分かりやすい事は一見ポジティブに見えるが、それは売りやすいから。そういう商材は「誰でも」売りやすいので、レッドオーシャン確定だ。この分かりにくい事を分かりやすくするスキルを固有の強みとして磨けば(もしくは既にあれば)、他のプレイヤーは入りにくい。今リディラバ ではこれを構造化スキルと呼んでいるが、社会問題自体に対してのみでなく、事業や事業間連携においても構造化していければ、強みはより強固になると思う(一方で構造化スキルは時間が経てばキャッチアップされる種類のものだが)。そして、無関心を打破するという、一見マネタイズとは破綻した(でも正しい)理念。楠木健先生が説くように「一見非合理に見えて、全体として合理的」という優れた戦略の条件を満たしているような気がする。その上で次なるポイントは全体として合理的なのかどうかだが、それは外から見ていたのでは分からない。分かれば模倣されるからね。
で、中に入ってみる事にしたのが、2019年2月。この時分かっていたのは、実際にリディラバは大型案件を受注して拡大しており、更に拡大していこうという意思があるという事。それを引き起こす原理が少しでも分かればという気持ちでプロボノが始まった。そして端的に言って、リディラバの中は「すごくエモかった」。この詳細は表現し切れないし、逆に表現し切るとダメなんだろう。
ここまで考えていると、後の判断は結構些末になってくる。たちまち目減りする月収、薄くなる福利厚生。確かに色々ないのは痛いし、あった方がいい。でもそれ以上に、私がリディラバから家族へ持って帰れるものは多くあると感じた。子どもたちに課題設定力を付ける声かけが日常的にできるかもしれない。世の社会課題の現場を誰より目にする事ができるだろう。それによって、子どもたちがその世界に目を向けた時、焦らず寛容に送り出せるかもしれない。新たな事業の可能性を見出すセンスが、より鋭敏に身につくだろう。それは今、子どもたちが繰り返す些細な発見に、実際的な価値を置くスキルなのかも知れない。確実に、今までにないネットワークも手に入る。私を媒介して、子どもたちがつながる世界が広くあるなんて、親としては幸せな事だ。狭量な私が私なりに、背伸びして背伸びして掻き集めた経験を、ゆづり葉の様に、するりと子どもたちの糧に組み入れる。そんな事が出来たなら、少なくとも10年後は私にとって笑って見ている世界になる。
企業が成長する可能性に賭けて、そこで自分の力をもう少しちゃんと使って、自分が意義あると感じたことに対してきちんとコミットし、稼げるようになること。自分の生きる姿を示せ。と父に言われた覚えは全くないが、そうするものなのだと思う。そうできることは幸せなのかもしれない。
などと考えると、私にとってリディラバを選ぶ人生はひどく現実的なのである。
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