Oh! マイ ゴッド
【これは、劇団「かんから館」が、2004年2月に上演した演劇の台本です】
〈登場人物〉
正太
窮太郎
ハルノウララ
伊耶那岐
伊耶那美
バベル博士
ワトソン
小池梅之介
1
溶明。
おんぼろアパートの一室。(築四十年強)
四畳半ぐらいの、狭くて汚い部屋。
中央にコタツ。下手にテレビ。上手に玄関。
二人のいかにもさえない男(一人は家主、二十代後半。もう一人は年齢不詳)が座って、みかんを食べている。
おおみそか。
紅白歌合戦を見ている。
男 ‥‥正ちゃん。
家主(正ちゃん) ん? 何だい、キューちゃん?
男(キューちゃん) やっぱり‥‥今年は紅組だね。
正ちゃん え? ‥‥白組だよ。
キューちゃん えっ? どうして?
正ちゃん そんなの、あたりまえじゃん。
キューちゃん そんなことないよ、天童よしみがかわいかったから、紅組だよ。
正ちゃん ううん、山本譲二とサブちゃんがかっこいいから、白組。
キューちゃん 正ちゃん、ちょっと耳と目と頭、腐ってんじゃないの?
正ちゃん キューちゃんこそ、応援合戦のふんどし太鼓の時、トイレ行ってたじゃん。
キューちゃん もう! 絶対、紅組!
正ちゃん 断然、白組!
キューちゃん 紅組ったら紅組!
正ちゃん 白組ったら白組なの!
キューちゃん 紅組、紅組、紅組、紅組、紅組!
正ちゃん 白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組!
キューちゃん 紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組、紅組!
正ちゃん 白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組、白組!
キューちゃん (立ち上がって叫ぶ)がんばれー! あーかーぐーみー!
正ちゃん (立ち上がって絶叫)フレー! フレー! しーろーぐーみー!
隣人の声 こら、うるさい!
沈黙。
にらみ合う二人。
テレビの音だけが流れている。
キューちゃん ‥‥ハァ、ハァ‥‥正ちゃんも、けっこうしつこいね。
正ちゃん ‥‥ハァ、ハァ‥‥キューちゃんこそ。
しばしの沈黙。
キューちゃん ‥‥何か、賭ける?
正ちゃん ‥‥いいよ。
キューちゃん ‥‥ほんとにいいんだね?
正ちゃん ‥‥ああ、男に二言はない。
キューちゃん ‥‥よし! じゃあ‥‥
正ちゃん じゃあ?
二人、室内を見回す。
めぼしい物は何もない。
二人顔を見合わす。
二人と みかん。
気まずい沈黙。
やがて、二人、元の位置に戻り、みかんを食べ始める。
キューちゃん ‥‥あんまり、意味なかったね。
正ちゃん ‥‥うん。
キューちゃん ‥‥ひょっとしたら、全く意味ないね。
正ちゃん ああ、そうだね。
キューちゃん やめよっか?
正ちゃん うん。
二人、テレビを見ながら、黙々とみかんを食べる。
キューちゃん ‥‥正ちゃん。
正ちゃん 何だい、キューちゃん?
キューちゃん ‥‥いや、別に。
正ちゃん 何だよ?
キューちゃん ‥‥‥。
正ちゃん おい、何だよ? ‥‥変なやつだな。
キューちゃん ‥‥正ちゃん。‥‥今年も‥‥あれだね。
正ちゃん え?
キューちゃん やっぱり、二人ぼっちだね。
正ちゃん え‥‥ああ。そうだね。
キューちゃん 初詣とか行かないの?
正ちゃん うーん、めんどくさいしなあ。‥‥それに、キューちゃんと一緒に行くわけにはいかないだろ?
キューちゃん ‥‥ああ、それはそうだけど。‥‥一緒に行く彼女とかいないの?
正ちゃん あのね‥‥それはキューちゃんが一番よーくわかってるでしょ?
キューちゃん あ。
正ちゃん ね。
キューちゃん う‥‥。
正ちゃん ?
キューちゃん ううう‥‥。
正ちゃん ??
キューちゃん うわーん!(泣く!)
正ちゃん き、キューちゃん!
キューちゃん わあーん、わあーん。
正ちゃん おい、どうしたんだよ?
キューちゃん みんな、みんな、ボクが悪いんだあー!
正ちゃん え?
キューちゃん ボクなんかがいるから、正ちゃんはダメなんだあー!
正ちゃん キューちゃん!
キューちゃん 正ちゃん、うう‥‥、正ちゃん、ごめんよー。ごめんよー。わあーん。
正ちゃん キューちゃん、そんなことは‥‥
キューちゃん え‥‥そんなことは?
正ちゃん そんなことは‥‥
キューちゃん そんなことは?
正ちゃん ‥‥ちょっと、あるかな?
キューちゃん う‥‥。やっぱり、やっぱりそうなんだあ‥‥。うわーん。うわーん。うわーん。
正ちゃん キューちゃん。‥‥そんなこと言われると、僕まで泣きたくなるじゃないか。
キューちゃん うわーん。正ちゃんは悪くないよ。ボクが悪いんだよー。うわーん。
正ちゃん えーん。えーん。そんなことないよー。僕は悪くないんだよー。えーん。
二人、抱き合って泣き出す。
キューちゃん うわーん。違うよー。全部、ボクが悪いんだー。うわーん。
正ちゃん えーん、そんなことないよー。全部、キューちゃん が悪いんだー。えーん。
キューちゃん 違うよー。ボクのせいだよー。
正ちゃん そんなことないよー。キューちゃんのせいだよー。
キューちゃん ボクのせいだよー。
正ちゃん キューちゃんのせいだよー。
二人 ん?(一瞬の間。お互いに顔を見合わす。)
二人 わーん。(えーん。)
二人、しばらく泣き続ける。
正ちゃん あ!
キューちゃん え?
正ちゃん 結果発表だ!
キューちゃん 野鳥の会だ!
二人とも、そそくさと、定位置に戻る。
キューちゃん 紅組、紅組、紅組。
正ちゃん 白組、白組、白組、白組。
キューちゃん 紅組、紅組、紅組、紅組、紅組。
正ちゃん 白組、白組、白組、白組、白組、白組。
二人 あっ!
一瞬の間。
二人 ひとーつ。ふたーつ。みーっつ。よーっつ。いつーつ。むーっつ。ななーつ。やーっつ。ここのつー。
突然、暗転。
二人 あ!
一時の沈黙。
キューちゃん どう、どうしたの?
正ちゃん 停電だ。
キューちゃん 停電?
正ちゃん うん、たぶん。
キューちゃん ど、どうしよう?
正ちゃん どうしようって‥‥。
キューちゃん だって、紅組が‥‥。
正ちゃん え?
キューちゃん どっちが勝ったか、わかんないじゃない。
正ちゃん ああ‥‥そうだね。
キューちゃん もうちょっとだったのに‥‥。
正ちゃん うん‥‥。‥‥でも、仕方ないよ。
キューちゃん え?
正ちゃん いつもこうなんだ。‥‥肝心な時には、いつもこうなっちゃうんだ。
キューちゃん え‥‥。
正ちゃん ま、そういう星の下に生まれたのさ。ハハハ‥‥。(寂しく笑う)
キューちゃん そ、それって‥‥ひょっとして‥‥
正ちゃん え?
キューちゃん やっぱり、ボクのせい?
正ちゃん いや‥‥だからさ‥‥
キューちゃん そうなんだ。やっぱりボクがいるからダメなんだ。う、う、う、うあー‥‥
正ちゃん わあー!
キューちゃん え? どうしたの、正ちゃん?
正ちゃん 何か踏んだ。
キューちゃん え?
正ちゃん ‥‥なんか、グニャグニャする。
キューちゃん え‥‥。
正ちゃん ‥‥なんか、グチョグチョする。
キューちゃん え‥‥。
正ちゃん ‥‥ちょっと、なま暖かい。
キューちゃん え‥‥。
正ちゃん ‥‥プーンと臭いがする。
キューちゃん し、正ちゃん‥‥それ、ひょっとして
正ちゃん え‥‥もしかして。
キューちゃん それって、もしかして、う・ん‥‥。
正ちゃん みかんだ! ‥‥キューちゃん、僕、みかん踏んじゃったよ。
キューちゃん あ、みかん。みかんね。‥‥なーんだ。
正ちゃん なーんだ、って? ‥‥わあ、もうネチョネチョで気持ち悪いよー。‥‥えーと、確か、懐中電灯があったはずだけど‥‥。
キューちゃん 懐中電灯? 懐中電灯ね。‥‥それって、どこにあるの?
正ちゃん えーっと、どこだっけなあ?
キューちゃん ねぇ、どこ?
正ちゃん 冷蔵庫の上かなあ‥‥。
キューちゃん 冷蔵庫? ‥‥冷蔵庫、冷蔵庫‥‥暗くてわかんないよ。
正ちゃん いや、待てよ。本棚の中だったかもしれない。
キューちゃん もう! どっちなの?
正ちゃん いや、机の上だったかもしれない。
キューちゃん もう! 正ちゃん探してよ!
正ちゃん ダメだよ。部屋中、ベトベトになっちゃうよ。
キューちゃん もう!
正ちゃん うーん‥‥。
キューちゃん ‥‥‥。
しばしの沈黙。
ブザーの音。
二人 !
再びブザーの音。
キューちゃん ‥‥誰だろ?
正ちゃん ‥‥さあ?
またまたブザーの音。
正ちゃん は、はーい。‥‥どなたですか?
何も答えない。
ブザーの音。
怪奇音楽。
正ちゃん ‥‥キ、キューちゃん、出てよ。
キューちゃん え? 正ちゃんが出たら?
正ちゃん だって、僕、足が‥‥。
キューちゃん えー!
さらにブザーの音。
正ちゃん ほら!
キューちゃん もう!
キューちゃん、歩いて行き、ドアを開ける。
顔の下から懐中電灯を点けた男が立っている。
二人 わ‥‥うわあー!(座り込む)
男 悔い改めなさい。
二人 え?
男 悔い改めなさい。
男、背中から、「悔い改めなさい。」と書いたプラカードを取り出して、掲げる。
二人 へ?
男 神は見ておられます。
二人 へ?
男、プラカードを裏返す。
すると、そこには「神は見ておられます。」と書かれてある。
男 神は見ておられます。
正ちゃん ‥‥あのう‥‥何のご用でしょうか?
男 あなたは、初詣に行こうとしていたでしょう?
正ちゃん え? ‥‥いや、僕は、別に‥‥
男 いいえ、分かっています。あなたは初詣に行こうとしていた。これといった信仰心もなく、ただ因習という俗悪な習慣に基づいて、いかがわしい邪教に身をゆだねようとしていたのです。
正ちゃん だから、僕は‥‥
男 悔い改めなさい。今からでも遅くはありません。全てを主はお見通しです。あなたの一挙手一投足、心の内までも神は見ておられるのです。そして、やがて訪れる審判の日にあなたに幸いのあらんがために。
正ちゃん だから‥‥僕は、初詣には行きませんから。
男 神は見ておられます!
正ちゃん だから‥‥もう!
キューちゃん ‥‥小池さんじゃない?
正ちゃん え?
キューちゃん そうだよ。小池さんだよ!
正ちゃん え‥‥ああ、そういえば。
キューちゃん だろ?
正ちゃん ああ‥‥なーんだ、そっかー。
男 何をごちゃごちゃ言っているのです。悔い改めるのですか?
正ちゃん 小池さん! 驚かさないで下さいよ。
男 え。
正ちゃん 小池さんなんでしょ? ね、小池さん。
男 わ、私は、そ、そんな者では‥‥。
正ちゃん こーいけさん!
男 わー!
男、走り去る。
正ちゃん 行っちゃった。
キューちゃん うん。
正ちゃん 何だったんだろうね?
キューちゃん さあ?
電気がつく。
二人 ついた!
テレビから除夜の鐘。
二人、テレビを見る。
二人 あーあ。
キューちゃん もう、終わってるよ。
正ちゃん そうだね。
キューちゃん ニュースでやらないかな?
正ちゃん 何を?
キューちゃん 紅白の結果。
正ちゃん そんなの見たことある?
キューちゃん うーん‥‥ない、かな?
正ちゃん だろ?
キューちゃん じゃあ、どうすんだよ? このまま一生わかんないわけ?
正ちゃん かもね。
キューちゃん いやだー! そんなのいやだよー! わあー!(地団駄踏んで叫ぶ)
突然、暗転。
二人 あ!
正ちゃん ‥‥まただ。
キューちゃん うん。
正ちゃん もう‥‥どうしよう?
キューちゃん どうしようって‥‥真っ暗けで、どうしようもないよ。
正ちゃん そうだけど‥‥。
二人 あ。‥‥かいちゅうでんとう。
キューちゃん ‥‥正ちゃん、どうしてさっき探しておかなかったんだよ?
正ちゃん そんなこと言ったって、キューちゃんが、紅白で大騒ぎしてたじゃん。
キューちゃん それは‥‥そうだけど。
正ちゃん だろ?
しばしの沈黙。
正ちゃん ‥‥もう少ししたらつくんじゃない?
キューちゃん かな?
正ちゃん きっとつくよ。‥‥だから、あんまり動かない方がいい。
キューちゃん え?
正ちゃん むやみに動くと、エネルギーを消耗するだけだ。
キューちゃん へ?
正ちゃん だから、こういう時は、抱き合って、暖め合うんだ。
キューちゃん え‥‥。
正ちゃん さあ、キューちゃん。(手をさしのべる)
キューちゃん え‥‥し、正ちゃん‥‥。
正ちゃん さあ! 暖め合おう!
キューちゃん それって‥‥なんか、違うんじゃ‥‥。
正ちゃん さあ!
キューちゃん ひ、ひー!
ドアが開く。
きらびやかな光。
音楽。(薔薇は美しく散る)
二人の男装の女性が、踊り、歌いながら室内に入ってく る。
二人の女性 ♪草むらに名も知れず
咲いている花ならば
ただ風を受けながら
そよいでいればいいけれど
私はバラの運命に生まれた
華やかに激しく生きろと生まれた
バラはバラは気高く咲いて
バラはバラは美しく散る
電気がつく。
正ちゃん ‥‥‥。‥‥あ、あなたたちは?
二人の女性 オスカール! アンドレー!
正ちゃん ‥‥‥。ひ、ひょっとして‥‥。
二人の女性 あけましておめでとうございます。
正ちゃん へ?
二人の女性 本年もよろしくお願い申し上げます。
正ちゃん は、はあ‥‥。
伊耶那岐(アンドレ) あ、申し遅れました。
伊耶那美(オスカル) 私たち、今日、二〇三号室に引っ越してきたんです。
伊耶那岐 伊耶 那岐と申します。
伊耶那美 伊耶 那美と申します。
伊耶那岐・伊耶那美 末永くごひいきのほどを。
正ちゃん は、はあ‥‥。よろしく。
伊耶那岐 それで、これ。
と、包みを取り出す。
伊耶那美 つまらないものですが。
伊耶那岐、正ちゃんに包みを渡す。
正ちゃん、包みを眺める。
正ちゃん お・そ・ばですか‥‥。
伊耶那岐・伊耶那美 はい。
伊耶那岐 まあ、引っ越しそばということで。
伊耶那美 まあ、年越しそばでもいいんですけど。
正ちゃん あ、そっか、いわゆる一石二鳥ですね。
伊耶那岐・伊耶那美 一そば二そばです。
正ちゃん ?
全員 ハハハハハハハハ。
しらけた沈黙。
伊耶那岐 それでは、どうもお邪魔しました。
伊耶那美 夜分、お騒がせしました。
正ちゃん いえいえ、こちらこそ何のおかまいもしませんで。
伊耶那美 では、失礼します。
伊耶那美が走り去る。
伊耶那岐 オスカール!
伊耶那岐が後を追う。
伊耶那美の声 アンドレー!
しばしの沈黙。
正ちゃん ‥‥何だろ? あれ?
キューちゃん さあ?
しばしの沈黙。
正ちゃん、ふと、手に持っているそばを見る。
正ちゃん あ。
キューちゃん え?
正ちゃん そう言えば。
キューちゃん そう言えば?
正ちゃん、正座する。
正ちゃん 明けましておめでとうございます。
キューちゃんもあわてて正座する。
キューちゃん ございます。
正ちゃん 今年もよろしくお願いします。
キューちゃん お願いします。
キューちゃん って‥‥。
正ちゃん ん?
キューちゃん ほんとにいいの?
正ちゃん え?
キューちゃん 今年もよろしくって‥‥。
正ちゃん え?
キューちゃん だからさ、ボクなんかとよろしくしてていいわけ?
正ちゃん あ‥‥そっか。
キューちゃん だろ?
正ちゃん うーん。‥‥ま、いいんじゃない?
キューちゃん え?
正ちゃん だって、キューちゃん、行くとこないだろ?
キューちゃん ‥‥それは、そうだけど。
正ちゃん じゃ、いいじゃん。
キューちゃん でも、それじゃ正ちゃん、今年も浮かばれないよ。
正ちゃん、急に背中を向ける。
正ちゃん フフフフフ、ハハハハハ。仕方ないよ。そういう星の下に生まれたのさ。
キューちゃん 正ちゃん。‥‥でも。
正ちゃん 水臭いことを言うんじゃないぜ。旅は道連れ、世は情けさ。
キューちゃん しょうちゃーん!(感動)
正ちゃん さてと。
キューちゃん ‥‥‥。
正ちゃん 寝ようか。
キューちゃん え?
正ちゃん さ、夜も更けた。邪魔する者はもう誰もいない。ベッドに入って冷えた身体を暖めよう。
キューちゃん え。
正ちゃん さあ、キューちゃん!
キューちゃん え゛!
正ちゃん さあ!
キューちゃん ひ、ひー!
突然ドアが開いて、瓶底メガネの女が走り込んでくる。
女は正ちゃんに体当たり。
女のバッグから荷物が飛び散る。
女 キャー!
正ちゃん うわっ!
女 大丈夫ですか? 急いでいたもので。‥‥あ、コンタクト、コンタクトが‥‥。
女、コンタクトレンズを探すしぐさ。
女 コンタクト? 僕も一緒に探しますよ。‥‥コンタクト、コンタクト、コンタクト。‥‥コンタクト、コンタクト、コンタクト。
女、部屋中をはいつくばって、コンタクトを探すしぐさ。
女 (正ちゃんに)ほら、あなたも探して!
正ちゃん え?
女 (正ちゃんに)ほら!
正ちゃん あ、はい。‥‥コンタクト、コンタクト。
女、正ちゃん、コンタクトを探すしぐさ。
キューちゃん コンタクトって‥‥メガネじゃん。
女 うるさいわね! 外野は黙ってんの!
キューちゃん ‥‥え?
正ちゃん えっ? えっ!(思わず硬直)
女 コンタクト、コンタクト‥‥あ、あった! ‥‥ありがとう! ‥‥いや、僕が悪いんだから。‥‥いいえ、私がちゃんと前を見てなかったから。‥‥それじゃ、失礼します。‥‥え、どこへ行くの?‥‥急がないと遅刻しちゃうから。‥‥あ、待って。せめてお名前を。‥‥いや、名乗るほどの者じゃござんせん。‥‥ああ、あなた、お待ちになって?!
女、ドアを開けて、走り去る。
正ちゃん・キューちゃん ‥‥‥。
キューちゃん ‥‥今の、何?
正ちゃん ‥‥さあ?
キューちゃん それにしても、どうして?
正ちゃん さあ?
再び、女がドアを開けて入ってくる。
正ちゃん・キューちゃん あ。
女 きりーつ! 礼! 着席!‥‥おはよう! 今日は、みんなにグッドニュースがある。何だと思う?
正ちゃん・キューちゃん ‥‥‥。
女 自習! 先生の結婚! 空襲警報! 校長が死んだ!
正ちゃん・キューちゃん ‥‥‥。
女 ブ、ブー。みんな、勘が悪いぞ!
正ちゃん・キューちゃん ‥‥‥。
女 転校生!
正ちゃん・キューちゃん ‥‥‥。
女 ピポピポピポーン! そうだ! このクラスに素敵な新しい仲間が加わるんだ。‥‥紹介しよう! ハルノウララさんだ!
女、ドアの外に出て、再びすぐに戻ってくる。
女 みなさん、こんにちわ。東京の墨田区からリハウスしてきましたハルノウララです。ウランちゃんって呼んで下さいね。ウフ。‥‥ウランちゃーん! ‥‥はい、あなたも!
正ちゃん え?
女 はい、せえーの、ウランちゃーん!
正ちゃん ウランちゃーん!
女 (キューちゃんに)ほら、あなたも!
キューちゃん えっ!
女 ほら、いくわよ。いち、にの、さん、ウランちゃーん!
正ちゃん・キューちゃん ウランちゃーん!
女 さあ、ハルノさんの席はどこがいいかな? おっ、槇原が腸捻転で死んだ後の大原の隣の席が空いてるな。大原、その机の上の花を捨ててくれ。さあ、ハルノさん、あそこに座りなさい。‥‥こんにちわ。ウランです。よろしくね。ウフc‥‥僕は大原正太で、あ! き、君はさっきのコンタクト女! ‥‥あ、あなたは、さっきの!
ドラマチックな音楽!
照明変わる。
ロマンチックな音楽。
女、手紙を取り出す。
女 一目出会ったその日から恋の花咲くこともある‥‥。
運命の女神のいたずらで、私とあなたを出会ったのですね。
あなたと私は、生まれてくる前から、こうして結ばれる運命だったのです。
ああ、変しい変しい正太さん。あなたの名前を呼ぶだけで、私の心はときめきます。ああ、変しい変しい正太さん、あなたの顔を見るだけで、私の目はつぶれそうです。ああ、変しい変しい正太さん、あなたの唇を見つめるだけで‥‥キャー! 恥ずかしいー!
女、ドアを開けて走り去って行く。
照明、戻る。
正ちゃん・キューちゃん ???
正ちゃん な‥‥
キューちゃん ?
正ちゃん な‥‥
キューちゃん ?
正ちゃん なんじゃこりゃー!
正ちゃん、頭を抱える。
キューちゃん、正ちゃんの肩をたたく。
キューちゃん まあ‥‥。
正ちゃん ん?
キューちゃん まあ、よかったんじゃないの?
正ちゃん え?
キューちゃん 彼女ができた、ということで。
正ちゃん か、彼女?
キューちゃん うん。
正ちゃん 彼女!?
キューちゃん ああ。
正ちゃん なんじゃそりゃー!
正ちゃん、頭を抱える。
隣の声 うるさい!
キューちゃん ‥‥まあ、こいつは春から縁起がいいわい、ということで‥‥。
正ちゃん 全然よくない。
キューちゃん 今年は、ひょっとしたら、いい年になるかもよ。
正ちゃん ならない。
キューちゃん どうして?
正ちゃん だって、あんなの通り魔じゃん。
キューちゃん 通り魔でも、何でも、今まで、全然もてなかったんだからさ。それに比べたら、一歩前進だよ。‥‥この一歩は小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩だ。
正ちゃん 一歩前進、二歩後退。
キューちゃん 正ちゃんは、いつもそういう風に悲観的に考えるのがよくないんだよ。♪一日一歩三日で三歩。‥‥人生、もっと前向きに考えなくっちゃ。
正ちゃん 言っちゃ悪いけど、キューちゃんにはそういうことを言われたくないね。
キューちゃん うっ。
正ちゃん だろ?
キューちゃん ‥‥ううっ、そうなんだ。みんなボクが悪いんだ。‥‥だから、だから、せめて正ちゃんを励まそうって‥‥少しでも幸せになってほしいって‥‥。
正ちゃん おい、泣くなよ。キューちゃんの気持ちはわかってるって。
キューちゃん ううっ‥‥でも‥‥。
正ちゃん あ!
キューちゃん え?
正ちゃん それにしても、さっきの子、どうしてキューちゃんの声が聞こえたんだろ?
キューちゃん そうだ。まるで、ボクが見えてるみたいだった。
正ちゃん なんでだろ?
キューちゃん なんでだろ?
正ちゃん うーん。
キューちゃん うーん。
男の声 うーん。
ドアを開けて、虫取り網を持った男と女が入ってく る。
男 うーん。
女 先生。
先生(男) 臭う。臭うぞ、ワトソン君。
ワトソン (女)臭いますか? 先生。
先生 確かに臭い。臭いぞ、ワトソン君。
ワトソン 臭いですか? 先生。
先生 センサーの数値は?
ワトソン、怪しげな機械を取り出す。
ワトソン 七二・四六です。先生。
先生 やはり‥‥おるな。間違いない。
ワトソン おりますか? 先生。
先生 ワトソン君。
ワトソン はい。先生。
先生 これを持っとれ。
先生、ワトソンに網を渡す。
ワトソン はい。‥‥いよいよですね。先生。
先生、部屋の中に手をかざす。
先生 ハアー! ハアー!
ワトソン 何か、何か見えますか? 先生。
先生 ちょっと黙っとれ。ワトソン君。
ワトソン はい。先生。
先生 ハアー! ハアー! ハアー!
ワトソン ‥‥‥。
先生 ハアー! ハアー! ハアー!
ワトソン ‥‥‥。
先生 見える。見えるぞ。ワトソン君。
ワトソン 見えますか? 先生。
先生 体長約一六〇センチメートル‥‥中肉‥‥人間の姿をしておる。‥‥女? ‥‥いや、男じゃな。
キューちゃん ‥‥しょ、正ちゃん!
正ちゃん キューちゃん!
キューちゃん ど、どうしよう!
先生 出でよ、悪霊! このバベル博士の手にかかって、逃げおおせた者はおらんのだ。わしに会うたが年貢の納め時。素直にあきらめて姿を現さばよし。さもなくば‥‥。
キューちゃん さもなくば?
バベル博士(先生) さもなくば!
ワトソン 月に代わってお仕置きよ!
キューちゃん・正ちゃん(顔を見合わせて) へ?
バベル博士 さあ、今なら、懺悔の言葉を聞き、成仏の道も探してやろう。それとも無駄に逆らって無間地獄へ墜ちるを選ぶか? 道は二つに一つ! さあ、どうする? さあ! さあ! さあ!
キューちゃん、バベル博士の前に、駆け寄り、はいつくばる。
キューちゃん わたくし、この部屋で貧乏神を務めさせていただいております窮太郎と申します。窮太郎の「窮」は、「窮すれば通ず」「窮鼠猫を噛む」の「窮」でございます。この部屋の住人、大原正太さんにとりついて、かれこれ七年になります。おかげで、正太さんは、お金もなく、恋人もなく、運もなく、おみくじを引けば大凶、うらないをすれば天中殺、とご迷惑をおかけ通しではございますが、行く当てのない私の身を憐れんで下さり、ご厚意に甘えて同居させていただいている者でございます。
ハベル博士、あらぬ方向を見ている。
バベル博士 さあ、あきらめて出でよ! 悪霊!
キューちゃん え? だから、私が貧乏神の窮太郎です。
バベル博士 ‥‥うーぬ、往生際の悪い奴だな。このバベル博士に逆らうとは、いい根性をしておるわ。
キューちゃん だからボクが‥‥
バベル博士 そこまでしらを切るというのなら、こっちにも考えがあるぞ。‥‥ワトソン君!(と、手を出す)
ワトソン はい! 先生!(と、網を渡す)
バベル博士 ハアー! 厄神消滅、悪霊退散、エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、清めたまえ、祓いたまえ?。カーッ!
しばしの沈黙。
バベル博士 臭う、臭うぞ。ワトソン君。
ワトソン 臭いますか? 先生。
バベル博士 ほれ、甘酸っぱいような、腐ったような臭いがするじゃろう? ワトソン君。
ワトソン はい、先生。そう言えば、甘酸っぱいような腐ったような臭いが‥‥。
バベル博士 これは、小物じゃな。貧相な邪気じゃ。
キューちゃん 貧相で悪かったね。
バベル博士 ハアー! ‥‥そこだ!
と、こたつの上のミカンに網をかぶせる。
バベル博士 ワトソン君!
ワトソン はい、先生!
ワトソン、網を調べに行く。
バベル博士 どうじゃ?
ワトソン ‥‥はい、甘酸っぱくて、腐りかけた‥‥ミカンが。
バベル博士 何? ミカンとな? ‥‥おのれ、小物の分際で変わり身を使うとは‥‥。
キューちゃん 変わり身って‥‥ミカンはミカンだよ。
バベル博士 しかし、このバベル博士に、そんな小技が通用すると思うなよ。‥‥ハアー! ‥‥そこだ!
バベル博士、正ちゃんに網をかぶせる。
正ちゃん うわっ!
バベル博士 かかったな! ワトソン君!
ワトソン はい、先生!
ワトソン、網を調べに行く。
バベル博士 どうじゃ?
ワトソン 人間‥‥のようです。
バベル博士 フフフフ、苦しまぎれに人間に姿を変えたか。きゃつらがよく使う手じゃ。
正ちゃん な、何をするんですか! ボクは正真正銘の人間ですよ。
バベル博士 この期に及んで往生際の悪いやつじゃ。わしの霊力で、おのれの正体を現せてみせるわ。‥‥ハアー! 厄神消滅、悪霊退散、エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、清めたまえ、祓いたまえ?。
キューちゃん 正ちゃんに何すんだよ!
バベル博士 カーッ!
キューちゃん、正ちゃんの網をはずす。
バベル博士 うぬ、このバベル博士の縛りを解くとは、なかなかに侮れぬやつ!
正ちゃん だから言ってるでしょ? ボクは普通の人間だってば。
ワトソンの持っている機械が、ピコンピコンと鳴り 出す。
ワトソン 先生! カラータイマーが!
バベル博士 くそう、わしとしたことが‥‥。思いの外に手こずってしまったわい。‥‥ワトソン君!
ワトソン はい。先生。
バベル博士 引き上げるぞ。
ワトソン はい、先生。
バベル博士 今日のところはこのくらいにしてやるが、今度会う時には、必ずやお前の正体を明らかにして、退治してやるからな。忘れるでないぞ! ‥‥ワトソン 君。
ワトソン はい、先生。
バベル博士 行くぞ。
ワトソン はい、先生。
バベル博士 シュワッ!
バベル博士とワトソン、去る。
しばしの沈黙。
キューちゃん 正ちゃん、大丈夫?
正ちゃん うん。
キューちゃん 何なんだろうね?
正ちゃん 何なんだろう?
キューちゃん それにしても‥‥。
正ちゃん ん?
キューちゃん さっきから、変な人ばっか来るね。
正ちゃん そうだね。
キューちゃん なんでだろ?
正ちゃん なんでだろ?
キューちゃん あ‥‥もしかして‥‥やっぱりボクのせい?
正ちゃん ‥‥‥。
キューちゃん ううっ‥‥やっぱりそうなんだ。
正ちゃん ‥‥‥。
キューちゃん うわ?ん。みんなボクが悪いんだあ?。
正ちゃん ‥‥キューちゃん 。
キューちゃん え?
正ちゃん キューちゃんのせいかどうか、わかんないけどさ。
キューちゃん うん。
正ちゃん 新年早々こんなんじゃ‥‥今年もダメみたいだね、やっぱ。
キューちゃん ‥‥うん、そうだね。‥‥ごめんね。
正ちゃん いいって。慣れてるから。
キューちゃん ほんとにごめんね。
正ちゃん いいって。
キューちゃん ごめんね。
正ちゃん いいって。
音楽。
溶暗。
2
溶明。
音楽「春の海」が鳴っている。
正ちゃんとキューちゃんが向かい合って正座してい る。
正ちゃん 明けまして
正ちゃん・キューちゃん おめでとうございます。
キューちゃん 本年も
正ちゃん・キューちゃん よろしくお願い申し上げます。
間。
キューちゃん と、こう挨拶をすると、気分が改まるよね。
正ちゃん かな?
キューちゃん なんだか、身が引き締まるよね。
正ちゃん かな?
キューちゃん ‥‥‥。正ちゃん。せっかくのお正月なんだから、もっとポジティブに考えようよ!
正ちゃん ポジティブねぇ‥‥。キューちゃんにそんなこと言われてもねぇ‥‥。
キューちゃん うっ‥‥。
正ちゃん じゃあさ、キューちゃん、年賀状来てた?
キューちゃん ‥‥来てない。
正ちゃん カレンダー飾った?
キューちゃん ‥‥飾ってない。
正ちゃん おせちある?
キューちゃん ‥‥ない。
正ちゃん だいたい、キューちゃん、服もずーっとおんなじじゃん。それしかないわけ?
キューちゃん そんなの、正ちゃんだって!
正ちゃん ‥‥だからさ。
キューちゃん え。
正ちゃん 別に気分も改まらないし、身も引き締まらないわけよ。
キューちゃん うっ‥‥。
正ちゃん ま、だから、お正月だからって、あんまりがんばって気合い入れないでさ、まあ、やれるところでほどほどにって感じで‥‥。
キューちゃん でも‥‥でも、そんなのわびしすぎるよ。せめてお正月ぐらい‥‥。
正ちゃん キューちゃん、人にはね、分というものがあるんだよ。金持ちには金持ちらしいお正月。貧乏人には貧乏人らしいお正月。これが僕らには分相応なのさ。
キューちゃん ‥‥正ちゃん、なんだかやけに悟ってるね。
正ちゃん キューちゃん、ボクは決めたのさ。もう悪あがきはやめようってね。貧乏人は貧乏人らしく、もてない者はもてない者らしく、貧乏の王道、もてないの王道を極めようってね。‥‥右の頬を打たれたら、左の頬をさし出そう。‥‥それが、ボクの今年の抱負だよ。
キューちゃん 正ちゃん。‥‥それ、ちょっと意味が違うんじゃ‥‥。
正ちゃん 鳴かぬなら、こっちが泣こうホトトギス。
キューちゃん 正ちゃん‥‥。
正ちゃん ♪人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢まぼろしの如くなれ‥‥(踊り出す)
途中から、木魚の音が響いてくる。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。
正ちゃん あ、まただ。
キューちゃん もう、正月早々。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。
正ちゃん 田中さーん、あのう、もう少し小さな声でお願いしまーす。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。(一層大きくなる)
キューちゃん だめだよ。もっとバシッと言わないと。
正ちゃん だって‥‥。
イスラム音楽が鳴り出す。
男の声 アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル‥‥。
キューちゃん うわっ、こっちも始まったよ。
正ちゃん 留学生のモハメッドさんだ。
男の声 アッラーアクバル、アッラーアクバル‥‥。
キューちゃん 正ちゃん!
正ちゃん しょうがないよ。お祈りの時間なんだよ。
キューちゃん だって‥‥。
男の声 アッラーアクバル、アッラーアクバル‥‥。
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
キューちゃん うわっ、あれは‥‥昨日の人だ!
正ちゃん もう!(頭を抱える)
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
正ちゃん (大声で)おんどれー!
静寂。
キューちゃん 正ちゃん!
正ちゃん キューちゃん!(見つめ合う)
女の声 一目出会ったその日から、恋の花咲くこともある。
正ちゃん・キューちゃん え!
キューちゃん も、もしや!
ドアが開き、ウララが走り込んでくる。
ウララ 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! お待たせしました! あなたのウランちゃんでーす!
正ちゃん・キューちゃん で、でたー!
ウララ 変しい、変しい正太さん。新年明けましておめでとうございまーす!
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ 変しい、変しい正太さん。ウランちゃんがどうしてやって来たのか、って思ってるでしょ?
正ちゃん ‥‥え? ああ、まあ。
ウララ 教えてほしい?
正ちゃん え‥‥。
ウララ 教えてあげよっかな? やめよっかな? やっぱり教えてあげよっかな? やっぱりやめよっかな?
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ やっぱり、やめとこ!
正ちゃん え!
ウララ ウソ、ウソ。変しい正太さんだから、特別に教えてア・ゲ・ル。ウフ。
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ あのね、ウランちゃんが、ここに来たのはねぇ‥‥。
正ちゃん ‥‥来たのは?
ウララ 来たのはねぇ‥‥オ・ト・シ・ダ・マ。キャー! 恥ずかしー!
ウララ、部屋の外に走り出る。
正ちゃん オ・ト・シ・ダ・マ?
キューちゃん お年玉って、何?
正ちゃん さあ?
ウララ、部屋に戻って来る。
ウララ ウフフ‥‥変しい変しい正太さん。お年玉って何だろう、って思ってるでしょ?
正ちゃん ‥‥え? ああ、まあ。
ウララ それはねぇ‥‥。
正ちゃん・キューちゃん それは?
ウララ それは‥‥ウランちゃんがお年玉なんでーす!キャー! 恥ずかしー!
ウララ、部屋の外に走り出る。
正ちゃん・キューちゃん へ?
キューちゃん ウランちゃんがお年玉って、何?
正ちゃん さあ?
ウララ、荷物を抱えて部屋に戻って来る。胸に「お年玉」の名札を付けている。
ウララ ウフフ‥‥変しい変しい正太さん。もう、さみしい思いをしなくてもいいんでちゅよー。
正ちゃん え?
ウララ 今日から、ウランちゃんがずーっとそばにいてあげまちゅからねぇー。
正ちゃん えっ? えっ?
キューちゃん その‥‥お年玉って‥‥。
ウララ あなた、にぶいわね。‥‥そーでーす。ウランちゃんが正太さんへのニューイヤープレゼントなんでーす。驚いた?ウフc
正ちゃん お、驚いたって‥‥な、なんじゃこりゃー!
ウララ まあ、そんなに喜んでくれて、ウランちゃん、う・れ・し・い。
キューちゃん あんた、ちょっと目悪いんちゃう?
ウララ うるさい! 外野は黙ってんの! ‥‥さあ、何からしてあげよっかなー? ‥‥変しい変しい正太さん、何がしてほちいでちゅかあ?
正ちゃん 何がって‥‥キューちゃん!(助けを求める)
キューちゃん ボクは、外野ですから。
正ちゃん そ、そんなー。
ウララ あれ? お正月なのに、鏡餅がないでしゅね。‥‥じゃ、まず、鏡餅を飾りましょう。
ウララ、鏡餅を取り出して、飾る。
ウララ これでちょっと雰囲気が出ましたね。‥‥あれ、お正月なのにお屠蘇もお雑煮もないでしゅね。‥‥じゃ、ウランちゃんが作ってア・ゲ・ル ウフ。
ウララ、カセットコンロと網と鍋と材料を取り出す。
次にエプロンを取り出す。コンロに火をつけ、餅を焼き始める。
ウララ 愛情こめこめサトウの切り餅。愛情こめこめサトウの切り餅。‥‥正太さん、すぐに焼けまちゅからねー。
正ちゃん ふあーい。(ヤケクソ)
キューちゃん 正ちゃん、よかったね。
正ちゃん キューちゃん‥‥。(恨みの目)
ウララ 心配しないでも、あなたの分も作ってあげるから。
キューちゃん それはそれは、おありがとうございます。
ウララ 愛情こめこめサトウの切り餅。愛情こめこめサトウの切り餅。
ブザーが鳴る。
正ちゃん あれ、誰かな?
ウララ はあーい。ちょっとお待ちになってぇー。
ウララがドアを開ける。
小池が立っている。
ウララ はい、どちらさまで?
小池 あれ? あなたは?
ウララ 私? 私ですか? あのー、私はー、大原の、ナニでして‥‥やだ、ナニだって!キャー、恥ずかしいー!
小池 ?
ウララ で、何のご用?
小池 あ、それですか。‥‥(気を取り直して)悔い改めなさい。
ウララ へ?
小池 (プラカードを取り出して)悔い改めなさい。
ウララ は?
小池 (プラカードを裏返して)神は見ておられます。
ウララ 何を?
小池 だから‥‥神は見ておられるのです。
ウララ だから、何を?
小池 何をって‥‥あなたは、初詣に行ったでしょう?
ウララ 初詣? ‥‥そうだ! お雑煮食べたら、初詣に行きまちょうね、正太さん。‥‥でも、こんな格好じゃ‥‥しまったあ、振り袖着てきたらよかったあ‥‥。これじゃ、写真撮れないわねぇ。どうしよう。‥‥でも、おみくじは引きましょ。今年はきっと大吉よ。願い事かなう。待ち人はすぐ近くにいる。もしかしたら、すぐ隣にいる、って。わあー、楽しみー。‥‥そうと決まったら、さっさとお雑煮作っちゃいましょ!(去りかける)
小池 (咳払い)あのですね、だからですね‥‥
ウララ なーに? まだいたの? 忙しいんだから、さっさと用件言ってよね。
小池 だから、だから‥‥これがあなたには必要なんです!(と、袋から物を取り出して差し出す。)
ウララ 何、これ?
小池 多宝塔です。
ウララ たほーとー?
小池 そうです。これによって、あなたは救われるのです。
ウララ へ?
小池 そもそも神がこの世を創造され、アダムとイブをお造りになった時、神は人間の将来のあり方について次のようにお考えになりました。
ウララ 手短にやってよ。忙しいんだから。
小池 はあ‥‥手短ですか。‥‥それでは、手短に。‥‥つまりですね、初詣には多宝塔!
ウララ はあ? わけわかんなーい。
小池 ちょっと、手短すぎましたか? ‥‥それではですね、何と申しましょうか‥‥あなた方が初詣にいらっしゃる。するとですね、その一部始終を神様がじっと見ていらっしゃる。そして、お怒りになる。
ウララ どーして? 神様ってストーカーなの?
小池 お願いだから、最後まで聞いて下さいよ。‥‥ええっと、神様がお怒りになるとですね、最後の審判の日、あなた方は地獄へ行かなければならなくなるのです。それでもいいのですか?
キューちゃん あのー、お餅焼けてきたみたいなんだけど‥‥。
ウララ え? あ、裏返しといて。
キューちゃん ふくらみかけてて裏返しにくいんだけど‥‥。
ウララ もう、つぶして裏返せばいいでしょ! ‥‥で、何だっけ?
小池 あの、誰としゃべってるんですか?
ウララ 誰でもいいじゃん。‥‥それで?
小池 あ‥‥だからですね、地獄に墜ちるんですよ、地獄に。
ウララ ふーん。
小池 恐ろしいでしょ?
ウララ わかんなーい。だって、行ったことないもん。‥‥あ、もしかして、あなた行ったことあるの?
小池 私はそんなところには行きません! ‥‥とにかくですね、地獄は恐ろしいんです! 地獄を甘く見てはいけません! そもそも地獄というのはですね、神がこの世を創造された時に‥‥
木魚の音が響いてくる。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。
正ちゃん あ、また始まった。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。
小池 神よ、迷える子羊を救いたまえ。(十字を切る)‥‥それでですね、神がこの世を創造された時に‥‥
男の声 アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル、アッラーアクバル‥‥。
小池 神よ、罪深き者たちを救いたまえ。(十字を切る)‥‥そもそも、神がこの世を創造された時に‥‥
キューちゃん うわ、煙が出てきたよ!
ウララ だったら、火を止めなさいよ、火を! そんなこともわかんないの!
キューちゃん そっか、火、火ね。‥‥うわあ、これ、真っ黒けになってる!
ウララ もう! あんたは触んないで! 私が行くから!
ウララ、コンロの所に行く。
小池 ‥‥‥。そもそも神がこの世を創造された時、神の造りたもうた人間たちは‥‥
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
ウララ あれ? お湯沸かしてないの? お湯は?
キューちゃん だって、コンロが一つしかないじゃん!
ウララ そんなの何とかしなさいよ! お餅が固くなっちゃうじゃない!
キューちゃん そんなこと言ったって!
ウララ もう、何にもできないのね、この役立たず!
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
小池 ‥‥エデンの園で、禁断の実を食べてしまった人間は、原罪を負うことになってしまったのです‥‥。
キューちゃん 役立たずって‥‥役立たずって言ったな!
ウララ ああ、役立たずだから役立たずって言ったのよ! もう、水から作るしかないわね! はい、ここにお餅を入れる! 役立たずのでくのぼうでも、それくらいできるでしょ!
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
キューちゃん で、でくのぼうって‥‥あ、あんまりだあ!
小池 ‥‥しかし、そんな罪深い人間にも、救われる道はあるのです‥‥。
ウララ ほら、入れたら、さっさと火をつける!
キューちゃん 正ちゃん、ボクのこと、でくのぼうだって‥‥。
正ちゃん キューちゃん‥‥。
ウララ こら、でくのぼう! そんなこと、正太さんには関係ないでしょ!
小池 ‥‥それは、真に神を信じること、そして、その信仰を形にすることなのです‥‥。
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
小池 ‥‥それが、何だかわかりますか?(笑顔)
一瞬の沈黙。
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
ウララ こら、でくのぼう! ボーッとしてないで、さっさと野菜を入れんだよ!
キューちゃん 正ちゃん‥‥。
ウララ 正太さんには関係ないって言っとるだろうが! このコンコンチキ!
キューちゃん コンコンチキ?
小池 ‥‥そうです! その救いの形こそ、この多宝塔なのです!(多宝塔を差し上げる)
キューちゃん コンコンチキって何だよー!
ウララ コンコンチキも知らねえのかよ、このスットコドッコイが!
キューちゃん スットコドッコイ?
ウララ スットコドッコイだからスットコドッコイって言ってんだよ! このオタンコナス! ‥‥ほら、アクが出てんじゃねえか、さっさとすくえ!
キューちゃん 正ちゃん‥‥あんまりだよー!
正ちゃん キューちゃん ‥‥。
ウララ こら、正太さんに気軽に話しかけんじゃねえ! このトーヘンボクが!
小池 ‥‥この多宝塔一つで、あなた方は救われるのです。それが、今なら正月特価で、たったの百万円ポッキリ!
キューちゃん ひ、ひどい、ひどすぎる。うわーん!
女の声 オスカール!
女の声 アンドレー!
小池 ‥‥今なら、金利手数料もジャパネットの負担で‥‥。
キューちゃん うわーん!
ウララ 男がメソメソ泣くんじゃねえ!
小池 お一つどうですか?
キューちゃん うわーん!
小池 幸せを呼ぶ多宝塔‥‥。
ウララ うるせえ!
キューちゃん うわーん!
小池 ‥‥う、う、う、うわーん!
小池を押しのけて、網を持ったバベル博士とワトソンが部屋に入ってくる。
小池 うわっ!
小池、消える。
バベル博士 臭う、臭うぞ。ワトソン君。
ワトソン 臭いますか? 先生。
バベル博士 ほれ、何かが焦げたような臭いがするじゃろう? ワトソン君。
ワトソン はい、先生。そう言えば、お餅が焦げたような臭いが‥‥。
バベル博士 やはり、ここじゃな。間違いない。
ワトソン 間違いないですか? 先生。
バベル博士 おるな?
ワトソン はい。ここにおります。先生。
バベル博士 ワトソン君! 君ではない!
ワトソン はい。先生。
バベル博士 センサーの数値は?
ワトソン、怪しげな機械を取り出す。
ワトソン 八二・一六です。先生。
バベル博士 やはり‥‥おるな。間違いない。
ワトソン おりますか? 先生。
バベル博士 ワトソン君。
ワトソン はい。先生。
バベル博士 踊りたまえ。
ワトソン え? 踊るのですか? 先生。
バベル博士 昨日は、このバベル博士としたことが、少々焦って失敗してしもうた。じゃが、同じ過ちを二度と繰り返さぬところが、天才の天才たる所以なのじゃ。
ワトソン はい。そうですね。先生。
バベル博士 名付けて!
ワトソン 名付けて?
バベル博士 天宇受女命作戦じゃ。
ワトソン あめのうずめ?
バベル博士 何? ワトソン君。君は日本の神話も知らんのか?
ワトソン はあ、あいにくミッションスクール出身なもので‥‥。
バベル博士 ならば、天岩戸の伝説ぐらいは知っておろう。
ワトソン はあ、それなら、聞いたような気も‥‥。
バベル博士 ふん。聞いたような気、か。まったく近頃の若いもんは‥‥いいから、とにかく踊るのじゃ!
ワトソン はい。先生。
バベル博士 出でぬなら、出だしてみよう、ホトトギス!
奇妙な音楽。(あるいは神楽)
ワトソン踊り出す。
バベル博士 ハアー! ハアー! ハアー! ハアー! ハアー! ハアー! ハアー! ハアー!
ワトソン踊り続ける。
正ちゃん、踊りを見に、のこのこ出てくる。
バベル博士 ハアー! ハアー! 厄神消滅、悪霊退散、エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、清めたまえ、祓いたまえ?。カーッ! そこじゃ!
バベル博士、正ちゃんに網をかぶせる。
正ちゃん うわっ!
バベル博士 討ち取ったりー!
ワトソン 討ち取りましたか? 先生。
バベル博士 ワトソン君! 今じゃ!
ワトソン はい。先生。
その瞬間、ウララが網を払いのける。
ウララ 正太さんに何すんのよ!
ワトソン あ、あなたは?
ウララ あなたはというあなたは?
ワトソン あなたはというあなたはというあなたは?
ウララ あなたはというあなたはというあなたはというあなた‥‥ストップ。もう、やめましょ。‥‥私? 私、ウランちゃん。よろしくね。ウフc あなたは?
ワトソン え‥‥私ですか? わ、私、ワトソンちゃん。よ、よろしくね。ウフフ。
バベル博士 えーい、何をしておるのだ! ‥‥このバベル博士の縛りを解くとは、ただならぬ奴! こやつも妖怪変化、魑魅魍魎の一味に相違あるまい。いざ、尋常に覚悟、覚悟!
ワトソン 覚悟ですか? はい。先生。
ワトソン、正座して頭を下げる。
ウララ ?
バベル博士 ‥‥ワトソン君。君ではない!
ウララ あら、お雑煮ができたわ!
ウララ、コンロの火を止める。
バベル博士 ハアー! ハアー!
ウララ 正太さん。‥‥正太さん。
バベル博士 ハアー! ハアー!
ウララ うっせーんだよ、おっさん! ‥‥正太さん、できまちたよー。
正ちゃん あい。
バベル博士 ‥‥‥。
ウララ (ワトソンに)あなたも食べてく?
ワトソン でも‥‥。
ウララ あ、お餅が足りないか‥‥(キューちゃんに)あんた、汁だけでいいよね。
キューちゃん え‥‥は、はい。
ウララ さあ、食べましょ。食べましょ。
バベル博士 ワトソン君。
ワトソン はい。先生。
バベル博士 あいつ、おっさんって言ったあー。
ワトソン はい?
バベル博士 わ、我が輩は、だ、断じて、おっさんなどではないー。うぇっ、えっ、えっ‥‥。
ワトソン あ、そうですよね。おじさんですよね。先生。
バベル博士 そんなの、どっちでもおんなじだあー。うぇっ、えっ、えっ‥‥。
ウララ もう、うっさいなー。おっさんも汁だけ食わせてやっから。
バベル博士 ‥‥ううぬ。このバベル博士、生まれてこのかた、これほどの恥辱を味おうたことはないわ。‥‥そこまで言うからには、それ相応の覚悟があってのことじゃろうな? ‥‥フフフフハハハハ、このバベル博士 を甘う見たが、おのれの命取りじゃ! ええい、目に物見せてくれるわ! さあ、地獄へ堕ちるがいい! キエー! ハオー! ホチョー! グオー! ビヨーン! パオーン! シュバー! ガオー! カーッ!
バベル博士、手から波動を出すしぐさ。
バベル博士 ハァ、ハァ‥‥フフフフ、思い知ったか、妖怪。お前はもう動けぬぞ!
ウララ さあ、正太さん、食べまちょうね。はい、あーんちて。
バベル博士 ‥‥う、うぬ、こしゃくな! ‥‥ウッ!
バベル博士、胸を押さえてひざまずく。
同時に、カラータイマーが鳴り出す。
ワトソン せ、先生!
バベル博士 む、無念じゃ。不覚にも霊能パワーを一気に使いすぎたようじゃな。
ワトソン ですから、先生。もう、おトシなんですから、自重されませんと。
バベル博士 トシって言うな! ‥‥ウッ。(胸を押さえる)
ワトソン 大丈夫ですか? 先生。
バベル博士 ‥‥ワ、ワトソン君。
ワトソン はい。先生。
バベル博士 行くぞ。‥‥フフフフ、そこの妖怪ども、これで済んだと思うでないぞ。この借りは必ずや倍にして返してくれるわ。それが、このバベル博士 。バベルパワーは不滅なのじゃー! ‥‥ウッ。(胸を押さえる)
ワトソン 先生!
バベル博士 シュワッ。(元気なく)
バベル博士、去る。
ウララ あれ、ワトソンちゃん、食べてかないの?
ワトソン はあ、いろいろありまして。また、今度お願いします。‥‥それでは、お邪魔しました。シュワッ。
ウララ またねー。(手を振る)
ワトソン、去る。
ウララ ‥‥さあ、お客さんも帰っちゃったし、さめないうちにお雑煮食べまちょうね。はい、正太さん、あーんちて。
正ちゃん え‥‥は、はい。
ウララ あーん。
正ちゃん あーん。(と餅を食べる)
ウララ おいちい?
正ちゃん う、うん。
ウララ まあ! ウランちゃん、うれしい! はい、あーんちて。
正ちゃん え? ‥‥あ、あーん。(と餅を食べる)
ウララ おいちい?
正ちゃん ウググ。
ウララ まあ、そんなに喜んで! ウランちゃん、感激! そうそう、お雑煮を食べたら、初詣に行きまちょうねぇ。‥‥どこの神社がいいかしら? ねぇ、正太さん、どこがいい?
正ちゃん ウググ。
ウララ やっぱり縁結びの神社よねぇ。‥‥あっ、正太さんとウランちゃんはー、もう結ばれてるんだからー、どこでもいいのよねぇ。‥‥さあ、あーんちて。
正ちゃん も、もう‥‥。
ウララ あーん。
正ちゃん あーん。(餅を食べる)
ウララ おいちい?
正ちゃん (手を差し出して)ミグミグ?(水水)。
ウララ まあ、そんなにうれちいの? ウランちゃんもやっちゃおっと。(手を差し出して)ミグミグ?。
正ちゃん ミグミグ?!
ウララ ミグミグ?! ‥‥あはは、楽ちいねぇ!
正ちゃん ミグ?!(と、そのまま倒れる)
ウララ ミグ?!(と、倒れるまね)
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ ‥‥‥。あはは。‥‥ねぇ、正太さん、それからどうすんの?
正ちゃん ‥‥‥。(動かない)
キューちゃん しょ、正ちゃん?(歩み寄る)
正ちゃん ‥‥‥。(動かない)
キューちゃん 正ちゃん!(揺さぶるが動かない)‥‥ま、まさか!
キューちゃん、正ちゃんの脈を取る。次に心臓に耳をあてる。さらに、瞳孔の検査をする。
ウララ どうなの? 正太さんは? 正太さんは?
キューちゃん (首を振って)誠にお気の毒ですが‥‥。
ウララ え、まさか‥‥。
キューちゃん し、し、死んでるよー!
ウララ ‥‥うそでしょ? うそなんでしょ?
キューちゃん (首を振る)‥‥‥。
ウララ そんな! さっきまであんなに元気だったじゃない!どうして! どうしてなの! 正太さーん!
悲しい音楽。
ウララ、正ちゃんにすがりつく。
しばしの間。
ウララ 変しい変しい正太さん。あなたはどうして私を残して逝ってしまったのですか? あなたのいない世界なんて考えられません。あなたのいないこの世界には、もう太陽は昇りません。あなたのいないこの世界には、もうほほえみなんてありません。あなたのいないこの世界には、もう私は生きていけません。‥‥だから、だから私は決めました。この世の果てのその果てまでも、私はあなたについて行きます。‥‥変しい変しい正太さん。待っていて下さいね。今すぐ私はあなたの所へ逝きます。
ウララ、鍋から餅を取り出し、次々と食べ始める。
キューちゃん あ、あんた、何するんだよ!
ウララ ほへはいへ。はあしもいうお!(止めないで。私も死ぬの!)
キューちゃん え?
ウララ はあしもいうお!
キューちゃん え?
女の歌 ♪愛、それは甘く
愛、それは強く
愛、それは尊く
愛、それは気高く
愛、愛、愛
暗転。
ああ愛あればこそ
生きる喜び
ああ愛あればこそ
世界は一つ
愛故に人は美し
愛、それは悲しく
愛、それは切なく
愛、それは苦しく
愛、それははかなく
愛、愛、愛
ああ愛あればこそ
生きる喜び
ああ愛あればこそ
世界は一つ
愛故に人は美し
3
溶明。
あの世の世界。(セットはアパートのまま)
あの世の効果音(安っぽいシンセサイザー音?)。
舞台中央に、正ちゃんが寝ている。
しばらくして、正ちゃんが目を覚ます。
正ちゃん ここはどこ?
静寂。
正ちゃん 私は誰?
静寂。
正ちゃん、歩き回る。
正ちゃん キューちゃん? ‥‥キューちゃん!
静寂。
男の声 目が覚めましたね。大原正太さん。
正ちゃん え?
ドアが開き、仮面をかぶった男(小池)が現れる。
仮面小池 お待ちしておりました。‥‥ようこそ。冥界へ。
正ちゃん え? ‥‥めーかい?
仮面小池 そうです。あなたは、死んだのです。
正ちゃん ‥‥死んだ?(自分の手足を確かめて)生きてるよ。
仮面小池 いいえ、その体は、あなたの過去の記憶が作り出した仮の姿。すでにあなたは、形のない霊魂となっているのです。
正ちゃん そんな‥‥う、うそでしょ? だって、どうして?‥‥あ、そうか、夢か。そうだ、夢なんだよね。ボク、夢の中でもついてないから、試験に落ちる夢とか、女の子に振られる夢とか、オバケに追いかけられる夢とか、よく見るんだよね。なーんだ、そっかー。ああ、驚いて損した。アハハハ‥‥。
仮面小池 ‥‥残念ながら、夢ではありません。
正ちゃん え? だって‥‥だって、ほら、あなた小池さんでしょ?
仮面小池 ‥‥‥。
正ちゃん ねぇ、小池さん。どうして黙ってるの? ほら、いつものようにやってよ。「悔い改めなさい!」とかさ。
仮面小池 ‥‥‥。
正ちゃん ‥‥ねぇ、お願いだから‥‥。お願いします!
仮面小池 ‥‥‥。さあ、始まりますよ。
正ちゃん え? ‥‥何?
仮面小池 あなたの審判です。
正ちゃん 審判?
仮面小池 これからあなたが、天国へ行くか、地獄へ行くかを裁く審判です。
正ちゃん え‥‥。
仮面小池 陪審員入廷!
ドアから仮面をつけた人々が入ってくる。
整列。
伊耶那岐 伊耶那岐です。
伊耶那美 伊耶那美です。
仮面ワトソン 観世音菩薩です。
仮面ウララ じゅげむじゅげむです。
仮面小池 そして私がセント・ニコラスです。‥‥それでは、裁判長の入廷です!
音楽(ダースべーダーのテーマ)。
仮面バベル博士が仰々しく入ってくる。
仮面の人々、全員礼。
仮面バベル 待たせたな。‥‥我が輩が、裁判長の閻魔大王である。‥‥皆の者も知っての通り、この審判は、陪審員による合議によってとりおこなう。評決は、全員一致によるものとする。異存はないな?
仮面の人々 ハハアー。
仮面バベル 被告人。前へ出でよ。苦しゅうない。
正ちゃん ‥‥‥。
仮面小池 ほら、閻魔様のところに。
正ちゃん へ?(自分を指さす)
仮面小池 そう、あなたですよ、あなた。
正ちゃん、仮面バベルの前に立つ。
仮面バベル 最初に人定質問を行う。‥‥そちは、大原正太。男性。二十五歳。日本人。サラリーマン。彼女いない歴二十五年。以上相違ないか?
正ちゃん ‥‥はい。
仮面バベル それでは評決をとりおこなう。有罪と思う者‥‥。
仮面ウララ (手を挙げて)裁判長!
仮面バベル 何じゃ?
仮面ウララ いきなり評決ですか? 罪状認否とかはしないんですか?
仮面バベル ‥‥ふん、素人はこれだから困るわい。‥‥あのな、この審判は、すべて心証のみで決まるのじゃ。「あ、こいつ有罪っぽい」とか、「この人、無罪って感じー」とかな。であるからして、ぶっちゃけ罪状などどうでもいいのじゃ。それでなくても死人が多くて裁ききれんのじゃて。‥‥ま、いわゆる裁判のスピード化というやつじゃな。
仮面ウララ えっ、それじゃ、「悪いことをすると地獄に堕ちる」とかいうのは?
仮面バベル まあ、俗信というか、ただの噂じゃ。人の噂も四十九日。おっと違った、七十五日。(咳払い)‥‥それでは、評決に入る。異議はないな?
仮面ウララ ‥‥‥。
仮面バベル 有罪と思う者、挙手を。
仮面ウララ以外全員手を挙げる。
仮面バベル 無罪と思う者、挙手を。
仮面ウララ、手を挙げる。
仮面バベル ‥‥評決不一致。よって、これより、話し合いに入る。
伊耶那岐 ‥‥ほらほら、いるんだよな、こういうやつが。
伊耶那美 へそ曲がりっていうか、協調性がないっていうか。
伊耶那岐 クラスや会社に必ず一人はいるよな。
伊耶那美 自分では、個性的とかなんとか思ってんだろうけど、結局ハミってるだけなのよ。自業自得よね。
伊耶那岐 自業自得はいいけど、付き合わされる者の身にもなれってんだ。
伊耶那美 あーあ、今日はすぐに帰れるって言ってきたのに。
伊耶那岐 まあ、スサノオのことは、母さんにまかせてあるんだから‥‥。
伊耶那美 だから、よけいに気になるんじゃない! あの人、あなたの前ではいい母親ぶってるけど、すっごく嫌味なのよ!
伊耶那岐 そんなこと、オレに言われても‥‥。
伊耶那美 だいたいねぇ、あなたが‥‥
仮面バベル (咳払い)私語は慎むように。‥‥何か、意見のある者は?
仮面ウララ はい、裁判長。
仮面バベル 苦しゅうない。申してみよ。
仮面ウララ 皆さんは、どうして正太さん、いえ、被告を有罪だと思われたのですか?
仮面バベル うむ。なるほどな。‥‥皆の者、苦しゅうない、申してみよ。
仮面ワトソン はい。被告人は、向上心がないからです。
仮面小池 被告人は、なまけ者だからです。
伊耶那岐 被告人は、さえない男だからです。
伊耶那美 被告人は、チビだからです。
仮面バベル うむ。もっともじゃ。‥‥じゅげむじゅげむ、何か言うことはあるか?
仮面ウララ 向上心がなくて、なまけ者で、さえなくて、チビだったら、地獄に堕ちなければならないのですか?
仮面ウララ以外 当然!
仮面ウララ ‥‥そ、それじゃ、被告が、本当に向上心がなくて、なまけ者で、さえなくて、チビだと、どうして皆さんはわかるのですか?
仮面ウララ以外 なーんとなく。
伊耶那美 チビは見たらわかるじゃん。
仮面バベル うむ。もっともじゃ。‥‥じゅげむじゅげむ、納得したかの? どうじゃ、この辺で手を打っては? ‥‥それでは、評決に入る。
仮面ウララ (手を挙げて)裁判長!
仮面バベル なんじゃ? まだあるのか?
仮面ウララ 証人を申請したいと思います。
仮面バベル証人? ‥‥そちは弁護士ではないのだぞよ。
仮面ウララ 今のままでは、評決を取るのに、あまりに判断材料が欠けていると思います。だから、証人をお願いします。
仮面バベル だから、さっきも言ったじゃろう。この審判は心証のみで行うのじゃ。証拠など必要ない。
仮面ウララ その心証のためにも、証人が必要なんです。
仮面バベル うーむ、難儀じゃのう。‥‥しかし、証人など前例がないしのう。うーむ‥‥。
仮面ワトソン じゅげむじゅげむさん、閻魔様をお困らせになってはいけませんわ。それこそ、裁判長の心証を悪くするだけですわよ。
仮面小池 私もそう思います。
伊耶那美 もう、早く帰らせてよ。こんなやつ、有罪に決まってんのよ。
伊耶那岐 オレは別にかまわないぜ。
伊耶那美 え。
伊耶那岐 証人がいるっていうんなら、おもしろいじゃない。どんなやつか見せてもらいたいね。
伊耶那美 あなた! スサノオはどうすんのよ!
伊耶那岐 だから母さんにまかせとけばいいんだよ!
伊耶那美 だから、あの人は‥‥
仮面バベル (咳払い)私語は慎むように。‥‥えー、賛成意見が出ました。よって、証人申請を許可したいと思います。異議のある者は?
陪審員全員 ‥‥‥。
仮面バベル して、じゅげむじゅげむ、証人とは何者じゃ?
仮面ウララ 被告の同居人、貧乏神の窮太郎です。
陪審員 おお!(「貧乏神」「窮太郎」などのざわめき)
仮面バベル 静粛に! ‥‥それでは、貧乏神、苦しゅうない、入廷せよ。
キューちゃんが、ドアから入ってくる。
正ちゃん キューちゃん!
キューちゃん 正ちゃん!
二人、ヒシッと抱き合う。
正ちゃん キューちゃん、どうしてここへ?
キューちゃん えへへへ、貧乏神でも、一応、神様だからね。
正ちゃん あっ、そうか。
キューちゃん うん。
仮面バベル (咳払い)証人、貧乏神。近う。
キューちゃん あ、はい。(近づく)
仮面バベル 苦しゅうない。申してみよ。
キューちゃん 申し上げます。‥‥みんな、みんな、ボクが悪いんです。正ちゃんが出かけたら雨が降るのも、トイレに行ったら紙がないのも、バナナの皮ですべってころぶのも、歩いてたらゴミが降ってくるのも、仕事で失敗ばかりするのも、訪ねてくる客がセールスマンと宗教勧誘ばっかりなのも、キャッチセールスや暴力バーにひっかかるのも、サラ金に百万円借金があるのも、女の子に十七人振られ続けているのも、元はと言えば、全部ボクがいるからなんです。だから、だから正ちゃん は、全然悪くないんです。
いいえ、悪いどころか、こんなボクを貧乏神と知りながら、嫌がりもせず、追い出しもせず、友達になってくれた正ちゃんは、ほんとに、ほんとに、いい人なんです。
だから、お願いですから、正ちゃんを、地獄なんかに行かせないで下さい!
仮面バベル ‥‥貧乏神。言いたいことは、それだけか?
キューちゃん ‥‥はい。
仮面バベル 皆の者、何か意見はあるか? 苦しゅうない。申してみよ。
仮面ワトソン 畏れながら申し上げます。この貧乏神は、全てが自分のせいだと申しておりますが、かんがみるに、そもそも、このような貧相な貧乏神に取り憑かれたということ自体に、被告人の落ち度、すなわち、未必の故意があるのではないかと。すなわち、別に取り憑かれなくてもよかったんだけれど結局取り憑かれてしまったという、過失ならびに脆弱さが感じられるのであります。
仮面小池 なるほど。犬も歩けば棒に当たる、というやつですな。
仮面ワトソン それは、ちょっと違いますわ。
仮面小池 では、とりつく島もない、というやつですかな?
仮面ワトソン それは、もっと違いますわ。
伊耶那美 なんか、難しいことはよくわかんないけど、めんどくさいから二人とも地獄に落としちゃえば?
仮面ワトソン いやしくも陪審員たる者が、そんな無責任な発言をしてはいけませんわ。‥‥全く自覚がないんだから。
伊耶那美 別になりたくてなったんじゃないもん。どうでもいいじゃん。
仮面ワトソン ふん。‥‥だから、教養のない人は困るのよ。
伊耶那美 え? 何ですって? あなた、もう一回言ってごらんなさいよ!
仮面ワトソン ええ、何度でも言いますわよ。教養と責任感のない人が陪審員になっては困るのよ。陪審員にも資格試験が必要なのよ。
伊耶那美 菩薩かお札か知らないけどね、あんた。インド人にそんなこと言われる筋合いはねーんだよ! おめーなんか、黙ってカレーでも食っとけ!
仮面ワトソン フフフ、議論で勝てないものだから、今度は人種差別ですか? 欧米にこびへつらって、アジアに居丈高な日本人のしそうなことだわ。
伊耶那美 何だって! やんのか? このカレー女!
仮面ワトソン あら、今度は暴力? それに、インドと言えばカレーしか思いつかないの? ボキャ貧ねぇ。
伊耶那美 ちくしょう! 殺してやる!
伊耶那岐、伊耶那美を押しとどめる。
伊耶那岐 よせ! 俺たち、一応神様だぜ!
伊耶那美 そんな弱腰だから、日本は仏教に乗っ取られたのよ!
伊耶那岐 それとこれとは違うだろ!
伊耶那美 あんたがそんなだから、いつまでたってもお義母さんに頭が上がんないのよ!
伊耶那岐 そんなの、今、関係ないだろ!
仮面小池 ケンカはいけません、ケンカは!
伊耶那美 うっせー! ヤソ坊主! 人の家庭の問題に口を出すんじゃねぇ!
仮面小池 ヤソ坊主? ‥‥神はおっしゃいました。目には目を。刃には刃を。だから私も言います。だーっとれ! この黄色いジャップが!
伊耶那美 死ね! この野郎!
正ちゃん やめて!
仮面ワトソン 地獄に墜ちるがいい!
キューちゃん やめてよ! みんな!
伊耶那岐 ママの悪口は言うな!
仮面小池 リメンバー・パールハーバー!
正ちゃん ねえ、裁判長。止めて下さいよ。
仮面バベル これは宗教戦争じゃ。いつものことじゃて。
伊耶那美 魔女狩り野郎!
仮面ワトソン ハルマゲドンでお仕置きよ!
仮面小池 天草四郎!
伊耶那美 てめぇら、ぶっ殺す!
正ちゃん・キューちゃん 神様、やめて!
ダンス!(音楽「神様、ヘルプ」)
暗転。
4
溶明。
あの世の世界。
キューちゃんと仮面ウララだけが座っている。
キューちゃん ‥‥どうして、あんな無茶なことをしたの?
仮面ウララ だって、変しい正太さんの所に行きたかったんだもん。
キューちゃん でも、死んじゃったら、元も子もないよ。
仮面ウララ 死んでも正太さんと一緒にいれればいいの。
キューちゃん でもさ‥‥一度聞きたかったんだけど、どうしてそこまで正ちゃんが好きなわけ? 通り魔、いや、交通事故みたいな出会いでしかなかったわけでしょ?
仮面ウララ 別に通り魔でも交通事故でもいいの。
キューちゃん え?
仮面ウララ 私ね‥‥アラバマみたいになりたいのよ。
キューちゃん アラバマ?
仮面ウララ 映画のヒロインの名前。「トゥルーロマンス」っていう映画、知らない?
キューちゃん ‥‥知らない。お金がないから映画は見ないから。
仮面ウララ そっか‥‥。私ってさ、ブスだし、センスないでしょ?
キューちゃん ‥‥‥。
仮面ウララ ‥‥私ね、父親がさ、転勤族だったのよ。それで、転校ばっかりでさ、友達作るの下手くそだったから、いつも一人ぼっちだった。休み時間は一人で本ばっか読んでた。それで、ひっこみじあんでさあ‥‥。
キューちゃん ‥‥‥。
仮面ウララ でもね、そんな私でも、初恋ぐらいはあったのよね。ジャニーズ系でさ、スポーツマンで、クラスの人気者だった。自分が地味だから、そんなキラキラした人にあこがれてたのかもしれないわね。もちろん、コクったりはしないでさ、誰にもわからないように、こっそり見つめてたの。‥‥でもね、ある時、その人が私のことを、根暗で気持ち悪いって言ってるのを聞いちゃったのよ。‥‥ショックだったなあ‥‥。みんなが私のことをそんな風に言ってるのは知ってたけど、まさか、その人が言うなんて思わなかったのよね。‥‥フフ、バカよね。私。
キューちゃん ‥‥そっかな? そんなことないよ。
仮面ウララ ‥‥‥。そんな時に「トゥルーロマンス」を見たのよ。‥‥雇われて仕方なくコールガールをやらされることになったヒロインが、たまたま客になったさえない男と、他愛のない話をして、ニセモノの恋愛ごっこを始めるの。ところが、そのニセモノの恋愛が、いつのまにか、本当の恋になってゆく。自分の正体を打ち明けられない彼女は、でも、私はまだすれっからしじゃない、私は惚れた男には一〇〇%尽くせるようなそんな女なの!って、とうとう彼に告白するのよ。そして、幸せになるために、うんとがんばるの。マフィアに追われても、殺されかけても、彼女はひたすら純愛を貫くの。
その映画のヒロインのアラバマはさ、とってもキュートだけど、ただのきれいなだけの女じゃないのよ。たくましくて、強くて、そして、人にさげすまれることを知っている。‥‥でさ、映画を見ているうちに、なぜだかわかんないんだけど、私にもできるかもしれない、人を好きになってもいいのかもしれないって勇気が沸いてきたのよね。私もアラバマみたいに本当の恋をして、尽くして、尽くして、尽くす女になりたいって‥‥。
キューちゃん ‥‥ふーん。‥‥それで、その相手が?
仮面ウララ そう。正太さんなの。
ドアに仮面小池が現れる。
仮面小池 審判を再開します。‥‥陪審員入廷!
陪審員たちが入ってきて、整列する。
仮面小池 裁判長入廷!
仮面バベルが入ってくる。
仮面バベル 待たせたな。‥‥これより、審判を再開する。被告人、大原正太。苦しゅうない、入廷せよ。
正ちゃんが入ってくる。
仮面バベル 先ほどの話し合いで、十分審議は尽くされたと思うが、異議はないな?
キューちゃん 話し合いって、ケンカしてただけじゃん。
仮面バベル 証人に発言を求めてはおらん。
キューちゃん ‥‥‥。
仮面バベル 異議なしと認める。よって、これより評決をとりおこなう。有罪と思う者、挙手を。
仮面ウララ以外、手を挙げる。
仮面バベル 無罪と思う者、挙手を。
仮面ウララ、手を挙げる。
伊耶那岐 またかよ。
伊耶那美 意固地になってんのよ、あの子。
伊耶那岐 これじゃ何度やってもおんなじだぜ。
伊耶那美 そうよね。
伊耶那岐 だいたい、じゅげむじゅげむって何だ?
伊耶那美 聞いたことないわよね。
伊耶那岐 観音さん、知ってる?
仮面ワトソン いや、知りません。
伊耶那岐 キリストさんは?
仮面小池 いや、私も。
伊耶那岐 ふーん、そっか。じゃあ、いったいどこの宗教なんだ?
仮面ワトソン この頃は、わけのわからない新興宗教や新新興宗教なんかが、たくさんありますからねえ。
仮面小池 どこかのカルト教団じゃないですか?
伊耶那岐 あ、それはあるかも。頑固なところがそれっぽいですよね。
仮面ワトソン 頑固なら原理主義も頑固ですよ。
伊耶那岐 今日はイスラムさんがお休みだから、よくわからないなあ‥‥。
仮面バベル (咳払い)私語は慎むように。‥‥さて、どうしたものかのう? このままじゃと、日が暮れて、夜が明けて、また日が暮れてしまうわい。して、こうしておるうちにもバッタバッタと死んでおるからのう。事務方からもせっつかれておるし‥‥。うーむ、誰か名案のある者はおらんか?
しばしの沈黙。
伊耶那美 多数決じゃだめなの?
仮面バベル ん? 伊耶那美、今一度申してみよ。
伊耶那美 だから、あいつがいる限り、全員一致なんて絶対無理よ。だったら、多数決でいいんじゃないですか?
陪審員たち おおー!
仮面バベル ‥‥多数決のう‥‥。確かに、それができれば話は早いんじゃが、天地創造以来、審判は全員一致が原則と決まっておるのじゃて‥‥。
伊耶那岐 ‥‥裁判長、今、確か原則って言いましたよね?
仮面バベル ああ、言ったが? それがどうかしたか?
伊耶那岐 原則には例外がつきものなんじゃないですか?
陪審員たち おおー!
伊耶那美 そうよ、そうよ。いつまでも古くさい原則なんかにこだわってたらダメなのよ。時代はどんどん変わってんだから。
伊耶那岐 これだけ話してもラチがあかないんだから、仕方ないんじゃないですか?
仮面バベル ‥‥じゃがのう、被告人にも、人権、いや、死人権というのがあってのう、それを守るために、全員一致を創造主が定められたのじゃて。
伊耶那岐 死人権、死人権って、裁判ってどうして被告人の権利ばっかり守るんですか? 被害者や陪審員の権利だって守ってほしいですよ。
仮面ワトソン お言葉ですが、この審判には被害者はいないと思いますが‥‥。
伊耶那岐 オレたちが被害者みたいなもんじゃないですか? こんな審判にダラダラと付き合わされて‥‥。あいにく、そんなにヒマじゃないんでね。
伊耶那美 そうよ、これ以上長引いたら、どれだけ嫌味言われるかわかんないわよ。
伊耶那岐 観音さん、あんた子供いないの?
仮面ワトソン そういうプライバシーに関わる質問には、お答えしかねます。
伊耶那岐 だったら、この審判が一生続いてもいいわけ?
仮面ワトソン 一生なんて、大げさな。
伊耶那岐 いや、あの子がいる限り、その可能性は十分あるよ。
仮面ワトソン ‥‥それは‥‥私にだって信者がたくさんいますから‥‥。
伊耶那岐 だろ? そうだよ! 審判が長引けば、信仰の自由が侵されるんだよ! そうじゃないですか? 裁判長!
仮面バベル うむ、それはもっともじゃが‥‥。
伊耶那岐 信仰の自由を守れ!ってね。ねえ、あんたもそう思わない? キリストさん?
仮面小池 そりゃ、私たちには信仰生活が一番大切ですが‥‥。
伊耶那岐 よし、決まった! ‥‥裁判長。みんな、多数決に賛成ですよ。そこの意固地なねえちゃんを除いてはね。
仮面バベル うーむ。‥‥じゅげむじゅげむ、そちはどうじゃ?皆の者はああ言っておるがの?
仮面ウララ ‥‥‥。
仮面バベル どうじゃ?
伊耶那岐 そいつに聞いても一緒ですよ。それこそ、多数決の意味がなくなっちゃう。
伊耶那美 そうよ。そうよ。
伊耶那岐 多数決にしましょう、多数決。
伊耶那美 多数決よ、多数決。
伊耶那岐・伊耶那美 多数決! 多数決! 多数決! 多数決! 多数決! ‥‥‥
仮面ウララ ‥‥裁判長!(手を挙げる)
仮面バベル うむ。何じゃ? 苦しゅうない。申してみよ。
仮面ウララ 提案があります。
仮面バベル 何? 提案とな。苦しゅうない。申してみよ。
仮面ウララ はい。‥‥被告人の代わりに私を地獄に落としてください!
陪審員たち え!
仮面バベル じゅげむじゅげむ、血迷うたか? 神を地獄に落とすことなどできる道理がなかろう。地獄に墜ちるのは人間だけじゃ。
仮面ウララ 私は‥‥私は、人間です!
陪審員たち えー!
仮面バベル これ、じゅげむじゅげむ、この期に及んでウソを申すではない。ウソをつくと閻魔様に舌を抜かれるぞ。あ、閻魔はワシか?
仮面ウララ ウソではありません。私は、ハルノウララという人間なのです。
陪審員たち えー!
仮面バベル うーむ、困ったことになったわい。これが世に言う人間宣言というやつか。えーい、いったい事務方は何をしておったのじゃ?
伊耶那岐 裁判長! 困ることはありませんよ。
仮面バベル ん? なぜじゃ?
伊耶那岐 こいつが神でないのなら、話は簡単です。裁判長!評決を取って下さい。
伊耶那美 あっ、そうか! そうよね。評決しましょ、評決。
仮面バベル うむ‥‥そうか? ‥‥異議のある者はおらんか?
陪審員たち ‥‥‥。
仮面バベル それでは、これより評決をとりおこなう。有罪と思う者、挙手を。
全員手を挙げる。
仮面バベル 無罪と思う者、挙手を。
仮面ウララ、手を挙げる。
仮面バベル そちは、もはや陪審員ではないのだ。
仮面ウララ だから、私を正太さんの代わりに‥‥。
仮面バベル ‥‥全員一致。よって当陪審員は被告人を有罪と決するものとする。
仮面ウララ そんな‥‥。お願いですから、私を地獄に落として下さい!
仮面ウララの声は、陪審員たちの拍手にかき消される。
仮面バベル 引き続き、判決の申し渡しを行う。慣例により、申し渡しの前に、被告人の意見陳述を認める。被告人、大原正太、苦しゅうない、前へ出でよ。
正ちゃん、前に出る。
仮面ウララ 正太さん‥‥。
仮面バベル 被告人、最後に何か申し述べることはないか?
正ちゃん はい、あります。
仮面バベル うむ。苦しゅうない。申せ。
正ちゃん 昔、「俺達は天使じゃない」という映画がありました。ボクは、その映画を見て、すごく感動したんです。
陪審員たち ‥‥‥。
正ちゃん 刑務所から脱走した男二人が、神父に化けて、逃げ回る映画なんです。‥‥その映画の中で、ニセモノの神父たちが、人々の前で説教をするはめになるシーンがあります。もちろん、ニセモノですから、できるわけがありません。それで、苦し紛れに、ポケットの中に入っていたチラシを読み出すんです。そこには、こんな文句が書いてありました。「たった一人危険にさらされた時、ポケットを探ると、そこにはなんとか社製の拳銃が」‥‥。彼は、途中までそれを読みながら、ふと、今の自分と照らし合わせて考えるんです。
世の中は危険に満ちていて、一人でそれと出会った時、ポケットを探ってみても、そこには何もない。自分たちは、あまりにも無力で弱い。誰かにだまされたり、金を取られたり、暴力に遭ったりする。それなら、けんかに強くなれば、金持ちになれば救われるのか? でも、実際には、力も金も、不幸から逃れさせてはくれない。それでは、自分たちはどうすればいいのか? ‥‥もし、自分たちを救ってくれるものがあるとすれば、それは、希望だ。とてもひどい目に遭った時、人は何かを願わずにはいられない。何かにすがらずにはいられない。もし、その希望が神ならば信じればいい。それが自分に必要ならば、奇跡を信じればいい。‥‥神は善か? それは分からない。しかし、自分が希望するなら、それを信じればいい。
‥‥ボクは、涙が出ました。その時は、どうしてそんなに感動したのか分からなかったけれど‥‥。ボクは、ご承知のように、ツキもなければ金も地位もありません。だからこそ、希望することをやめてしまったらおしまいなんです。「幸せになりたい」とか「パイロットになりたい」とか、そんなものでもいいんです。そうなれる自分を希望して信じないと、本当に何もなくなってしまうんです。‥‥何かを信じるってことは、自分を信じることなんです。それが人間、一番大事なことなんです。‥‥だから、だから、ボクはあきらめません。自分は幸せになりたいって願っていて、なれるって信じていたいから‥‥。
陪審員たち ‥‥‥。
正ちゃん ‥‥これから地獄に行こうとするボクが、こんなことを言っても笑われるかもしれませんけどね。それでも、ボクは、このポケットの中に希望のかけらを探し続ける‥‥このポケット‥‥ん?
正ちゃん、ポケットの中に、何かを見つける。
それをこっそり取りだして見てみる。
正ちゃん あ。
仮面バベル 被告人、言いたいことは、それだけか?
正ちゃん ‥‥‥。
仮面バベル それでは、これより、判決を申し渡す。主文、被告人、大原正太を‥‥。
正ちゃん ちょっと待った!
仮面バベル ん?
正ちゃん えーい、皆の者、頭が高い! この方を何と心得おるか?(と、キューちゃんを指さす)
伊耶那美 あーあ、とうとう頭にきちゃたみたい。
伊耶那岐 よくいるんだよね。逆ギレって言うの?
正ちゃん 貧乏神とは世を忍ぶ仮の姿。皆の者、この紋所が目に入らぬか!(と、ポケットに入っていた印籠をかざす)
仮面バベル あ、それは‥‥。
伊耶那美 え? 何なの?
仮面ワトソン あなた、ご存じないの? あれは創造主様の‥‥。
仮面小池 ゴッド・オブ・ゴッド!
伊耶那岐・伊耶那美 え!
正ちゃん さあ、キューちゃん、いや、窮太郎様、お話し下さい。
キューちゃん え? あ、いや、そのう、それは、おじいちゃんからもらったんだけど‥‥。
仮面バベル では、創造主様のお孫様で?
キューちゃん ん‥‥まあ、そうだけど‥‥。
正ちゃん 皆の者、頭が高ーい!
神々 ハハー。(と、ひれ伏す)
正ちゃん さ、窮太郎様。
キューちゃん キューちゃんでいいよ。‥‥それで、何を?
正ちゃん だから‥‥。(と、自分を指さす)
キューちゃん え? ああ、そっか。‥‥だからね、皆さん、できたら正ちゃんを助けてもらえるとうれしいんですけど。
神々 ハハー。
キューちゃん え、ほんとにいいの? マジで?
神々 ハハー。
キューちゃん 正ちゃん、いいって! よかったね!
正ちゃん キューちゃん!
正ちゃん、キューちゃん、抱き合う。
正ちゃん よかった、よかった。
キューちゃん よかった、よかった。
正ちゃん これにて一件落着!
キューちゃん こら、調子に乗らないの!
正ちゃん アハハハハ‥‥。
暗転。
5
溶明。
元のおんぼろアパートの一室。
正ちゃんが寝ている。
しばらくして、正ちゃん、目を覚ます。
正ちゃん ん? ‥‥あれ?
誰もいない。
正ちゃん、部屋の中を歩き回る。
正ちゃん キューちゃん? ‥‥キューちゃん?
沈黙。
正ちゃん あれ? ‥‥夢だったのかな?
ブザーが鳴る。
正ちゃん あ、はい、はい。
正ちゃん、ドアを開ける。
小池が立っている。
正ちゃん あ‥‥えーっと、セント‥‥セント・ニコラスさん?
小池 悔い改めなさい。
正ちゃん え?
小池 悔い改めなさい。(と、プラカードを掲げる)
正ちゃん え? 小池さん? 小池さんなの?
小池 神は見ておられます。(と、プラカードを裏返す)
正ちゃん あ、やっぱり小池さんだ! アハハハ、小池さんだ!
小池 神は‥‥。
正ちゃん アハハハ、あーよかった。(と、ドアを閉める)
小池の声 あ、あの、ちょっと!
正ちゃん ‥‥ボクは、ボクは生きてるんだ!
伊耶那岐の声 オスカール!
伊耶那美の声 アンドレー!
正ちゃん ‥‥アハハハハハ、生きてるんだあ!
しばしの間。
正ちゃん だったら‥‥キューちゃんは? ‥‥キューちゃん?
ブザーの音。
正ちゃん あ、はい。
正ちゃん、ドアを開ける。
すっかり見違えるようなウララが立っている。
正ちゃん あの‥‥どちらさまで?
ウララ 私、ハルノウララです。
正ちゃん え? ウランちゃん?
ウララ 入ってもよろしいですか?
正ちゃん え? ああ、まあ、汚い所ですが‥‥。
ウララ それでは、おじゃまします。
ウララ、部屋の中に入ってくる。
正ちゃん ‥‥あなた、本当にウランちゃん?
ウララ ええ、ウララです。‥‥今日は正太さんに折り入ってお話がありまして。
正ちゃん はあ‥‥何でしょうか?
ウララ 私は、正太さんをお慕い申し上げています。
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ だから、その気持ちをお伝えしようと、この世の果てからあの世の果てまで、ずうっと、正太さんを追い続けておりました。
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ でも、それは間違いでした。
正ちゃん え?
ウララ 惜しみなく愛は奪うってご存じですか?
正ちゃん え?
ウララ 尽くして尽くして尽くし抜くことが、愛だと思っていました。それが愛する人のためだと信じていました。‥‥でも、そうじゃないんですよね。時として、愛は人を傷つけ、その人にとって大切なものを奪ってしまうことがあるんですよね。
正ちゃん 大切なもの?
ウララ それが何だか、今の私にはよくわかりません。‥‥だから、それがわかる日が来るまで、私は待っていようと思います。それが何ヶ月後になるのか、何年後になるのか、とにかく、私は待ち続けようと決めたんです。
正ちゃん ‥‥‥。
ウララ 正太さん、私は待っています。それだけは覚えておいて下さい。‥‥今日は、それをお伝えしたくて‥‥。どうもおじゃましました。
ウララ、去る。
正ちゃん あ、ウランちゃん。
正ちゃん、呆然として立つ。
しばらくして、ブザーの音。
正ちゃん はい、どなたですか?
正ちゃん、ドアを開ける。
キューちゃんが立っている。
正ちゃん キューちゃん! ‥‥どこに行ったのかと思ったよ!
キューちゃん おめでとうございます!
正ちゃん え?
キューちゃん 大原正太さんですね? あなたにハワイ旅行が当選しました!
正ちゃん え? ‥‥キューちゃん、冗談はやめてよ。
キューちゃん 冗談などではありません。‥‥あなた、以前、当社の電動竹踏みぶら下がり健康機をご購入されたでしょう?
正ちゃん え? ‥‥そんなの買ったかな? いろいろ買わされてるから‥‥。
キューちゃん その時のお客様キャンペーンの特賞に当選されたのです。ペアで四泊五日ハワイの旅。どうもおめでとうございます。
正ちゃん あ、それはどうも。‥‥じゃなくって、キューちゃん! いいかげんにしてよ!
キューちゃん それでは、詳しい手続きは、後日当社営業部においで下さい。その際、身分証明書と御印鑑をお忘れなく。それではおじゃましました。
キューちゃん、去る。
正ちゃん ちょっ、ちょっと待ってよ! おーい、キューちゃん!
沈黙。
正ちゃん ‥‥キューちゃん、ウソつくんだったら、もうちょっともっともらしいウソつけよな。よりによってボクがハワイ旅行だなんて‥‥キューちゃんがいる限りありえないって。‥‥あ‥‥キューちゃんはいない、か。
伊耶那岐の声 オスカール!
伊耶那美の声 アンドレー!
正ちゃん ‥‥え、ちょっと待って。‥‥さっきのウランちゃん‥‥ハワイ旅行‥‥って、これって、もしかして幸せってこと? ‥‥キューちゃん がいないから?
伊耶那岐の声 オスカール!
伊耶那美の声 アンドレー!
正ちゃん ‥‥で、でもさ、これが幸せだったとしても‥‥。
しばしの間。
正ちゃん ‥‥だってさ、ペアでハワイ旅行って言ったって、いったい誰と行くんだよ? ‥‥ねぇ、キューちゃん。
しばしの間。
正ちゃん、振り返ってドアを見つめる。
再び前を見る。
正ちゃん ‥‥ウランちゃん?
しばしの間。
正ちゃん ‥‥幸せって‥‥。
しばしの間。
木魚の音が響いてくる。
男の声 南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教、南無妙法蓮華教‥‥。
音楽。(ベートーヴェン「第九交響曲合唱付き」)
暗転。
おわり