なぜ福岡?なぜITのみ?長引く入管在留審査への福岡市の先進的取組み

現在、全国の出入国在留管理局(以下、入管)において、外国人の在留審査の手続き期間が遅延する状況が確認されています。特に品川の東京入管就労審査部門の窓口では、申請から数ヶ月が経過しても結果が未定であることに対する申請者たちの緊急性を帯びた問い合わせが日常的に行われています。

審査期間の遅延は、特に新しく設立された企業や規模の小さい企業にとってこの状況は深刻です。というのも、新規設立企業や規模の小さい企業の場合、受け入れ機関としての安定性、継続性の観点から慎重な審査行われることが多く、審査に3か月以上かかるケースも珍しくないためです。新しいビジネスモデルやサービスを迅速に市場に投入企業にとって、従業員採用の遅延は事業計画そのものに影響を与えます。

注目を集める福岡市の特例措置
そんな中、福岡市が海外IT技術者の在留審査を1か月に短縮するという特例措置を発表し、関心を集めています。


通常、在留審査は1)企業の安定性と継続性に関する審査 2)外国人本人についての審査(経歴・職歴及び上陸拒否事由に該当しないか等)に焦点を当てて行われます。この特例措置では、福岡市が1)の企業に関する審査を請け負うことで入管と審査の「業務分担」を行うことで、全体の審査期間の短縮を図るというものです。

しかし、このニュースを見た多くの人は、こう思ったのではないでしょうか?「なぜ、福岡市?」と。特に、在留審査の遅延が深刻なのは首都圏、関西圏です。福岡市自体は大都市でありながら、外国人人口は令和5年の統計によると、東京23区が約485,000人なのに対して、福岡市では43,000人と大きく見劣りします。


背景1:福岡市の積極的な取り組み
福岡市がこの特例措置を導入した背景には、これまで同市が非常に積極的に外国企業誘致を行ってきた背景があります。
福岡市では2014年に「グローバル創業・ 雇用創出特区」に選ばれ、外国人の創業活動を促進するためのスタートアップビザ制度や、開業のための相談窓口である開業ワンストップセンター設置などの取り組みを精力的に行ってきています。今回の特例措置もこれまでの一連の取り組みの延長線上にあるものであると理解することができます。

背景2:IT技術に絞りこまざるを得なかった内部事情
当初筆者は、国の判断により、まずはテストマーケティング的に福岡市で実施するに至ったのだと考えたのですが、以下の参考資料の文言からこれは、外国企業誘致に熱心な福岡市が入管に対して行った「ボトムアップ」の提案の結果であることがわかりました。

資料:【福岡市】外国人エンジニアの就労促進について(令和4年1月31日WGヒアリング 福岡市提出資料)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc_wg/r3/pdf/20220131_shiryou_s_1_1.pdf

資料の中では、「(福岡市の)提案内容が地方入管の負担軽減に資することを(入管に)お認めいただいている」 と書かれています。しぶる入管に対して、福岡市が彼らの負担軽減になることを伝え説得した経緯が見え隠れしています。さらに、「特例の対象は必要最小限まで絞り込んでおり、特例の申請が殺到する可能性は低い」とも書かれています。今回の特例対象がIT技術者に絞り込まれた理由は、恐らく特例を利用した申請数の殺到で負担増となることをいやがる入管への配慮の結果であることがよみとれます。
(国際的な人材獲得競争が激化する中、高度な知識・技能を持つ外国人材を受け入れいという制度主旨から考えると次世代ヘルスケア、フィンテック、環境等様々な成長分野に広げるべきではなかったかと考えます。)

優秀な外国人材の誘致を積極的に推進したい国や自治体と、審査件数の増加による業務負担を懸念する出入国在留管理局との間には、一定の課題と矛盾が存在しています。しかし、福岡市のように先進的な取り組みを展開する自治体が増加すれば、このような状況も段階的に改善される可能性が高いと考えます。




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