中国富裕層の流入加速。脅威論から一歩先へ。私たちが学ぶべき「したたかさ」
東京江東区の豊洲地区にあるタワーマンションが、中国人富裕層にとって「お買い得」として注目されています。江東区は今や、東京23区の中で中国人の人口が最も多い地域となりました。1億円を超える物件が普通である豊洲のタワーマンションですが、北京や上海の同程度の物件と比較すると割安であり、彼らにとって非常に魅力的な投資先となっています。
移住先としての日本の魅力
彼らの関心は単なる投資を超えています。現在中国では、英語教育時間の削減などをはじめとする極端な教育制限が始まっており、多くの富裕層は子供のために中国を離れることを考えています。筆者の中国知人によると、「多くの一般的な中国人はこのような状況に不満を持ちながら受け入れざるを得ないが、富裕層の間では子供のために中国脱出をする気運が一気に高まっている」とのことです。
子どもが小さい間は日本で生活しやすい環境で過ごし、子どもが中学生になったらシンガポールへ移住し、大学進学の際にはアメリカへ行くという長期プランをあらかじめ考えて移住してくる方もいるそうです。
日本にいながら高度な英語教育を受けさせる方法や、学習塾の選び方などについてアドバイスを行うことを中国人コンサルタントも存在するそうです。
「投資ビザ」という概念がない日本
中国人富裕層から熱い視線を送られている日本ですが、日本政府は富裕層を積極的に移住者として受け入れる方針をとっていないのが現状です。
日本には「投資ビザ」という概念がそもそもなく、まとまった金額を不動産などに投資したからといって、日本に住む権利が与えられるわけではありません。「経営・管理」という、資本金500万円以上の会社設立することによって取得できる在留資格がありますが、この在留資格は、実質的に経営活動に参画し、事業を継続的かつ安定的に運営することが要件となっています。つまり、既に成功を収め、積極的に働く必要のない富裕層には必ずしも適していない在留資格なのです。
邦貨換算3,000万円以上の預貯金を保有することを条件に、観光や保養を目的としたビザを付与する制度もありますが、滞在可能なのは最長1年間であり、長期移住には適していません。
私たちが学ぶべき「したたかさ」
こんな中、香港政府は2023年12月、2024年から最低3000万HKD(約5億5000万円)の投資をした人に投資移民ビザを発給するという発表を行いました。5億・・桁が違います。
香港政府の投資ビザでは、3000万HKDの投資先を細かく規定しています。2,700万香港ドルは株式、債券、預金証書、劣後債、その他の適格な集合投資スキーム、および非居住用不動産などの金融資産に投資する必要があります。残りの300万香港ドルは、香港との関連性を持つ企業やプロジェクトへの投資を行うために、香港投資公社有限会社(HKIC)が設立・管理する新しい投資ポートフォリオに投資する必要があります。
香港政府には、このスキームの実施にあたって明確な目的があります。
それは、アジアの中での「資産管理のハブ」としての地位を強化したいというものです。
「中国の富裕層の流入」という言葉を聞くと、多くの日本人は中国による日本の「乗っ取り」という不安を感じるかもしれません。しかし、この現象を別の角度から見ることで、日本の経済と社会に新たな可能性が見えてきます。実際、香港政府は「のっとり」云々より、外からくる人をいかに利用するかを考えています。
日本は多くの中国富裕層にとって魅力的な移住先です。そのため、日本の経済・社会にとって本当に必要とされる部分に対して、彼らからの投資を促すような制度設計を行うことは十分に可能ではないかと考えます。
筆者の中国籍の友人は、中国から日本に移住してきた富裕層に、日本の一人親家庭や貧困家庭への寄付を募るスキームを考えていると言います。友人曰く「この取り組みにより、日本社会は中国人の移住者からの恩恵を享受できるようになる。また、中国人富裕層にとっても、日本社会に心理的に受け入れられやすくなるメリットがある。さらには、寄付金に対する税額控除の恩恵も受けられるため、双方にとって有益な関係が築けるのではないか」とのこと。この計画が成功するかどうかは別の話として、まさか、中国の人からこんな発想を聞くとは思っていなかったため、彼らの視座の高さに驚きました。
入管政策は国民感情に大きく影響されることがありますが、いったい我々はどこを目指すのか?という点を明確にした上で、冷静かつ戦略的な政策設計を行うことが重要ではないでしょうか。中国富裕層の流入は、日本にとってもしかしたら新たな機会をもたらすチャンスかもしれません。