見出し画像

全日本架空☆1レビュー選手権

 全日本架空☆1レビュー選手権が開幕した。地区予選を制し、都道府県大会で1位の成績をおさめ、なおかつ諸々の条件を満たし、あれであれで、いい感じな5人の猛者たちがこの全国大会の出場権を得た。高らかにファンファーレが鳴った。まずはエントリーNo.1「右前方視界不良」選手の入場。

 右前方視界不良選手、なにがあったのか頭部を半分欠いた状態でリング入り。レフェリーからマイクを奪うと口元に寄せ、一息吸ったのち、
「そもそも頼んだ商品と違ったというのもあるが、まずパッケージと商品が異なる。色とか形とかではない、セロハンテープとミキサー車くらい違う。それに、肝心の先端にマヨネーズが大量に付着している」
 言うと、客席からは拍手が上がる。右前方視界不良選手の両親が巨大なモニターに映し出され、涙を流している。父母ともに頭部が欠けている。父は上裸で、母は下裸だった(母は大きく足を開いている)。右前方視界不良選手、満足気な顔でマイクをレフェリーに返すと、なぜかポケットから縄跳びを取り出し、二重跳びをしながら小走りで去っていく。

 続いて、エントリーNo.2「カラオケ館江古田店」選手の入場。
 キックボードで颯爽とリングインすると、頭部から生えた「カラオケ館」の看板がレフェリーの顔を直撃する。運悪く顎にあたり、失神。口から泡を吹く事態に。代理のレフェリーがやってきて、倒れるレフェリーの両足をつかむとジャイアントスイングをして会場の外に放り投げる。カラオケ館江古田店選手はどういう意味か小さくうなずき、
「形や感触は正直理想通りだった。色も好き。パステルカラーで、見ていて癒やされる。ただ臭いがすごい、すんごい。二千日間風呂に入っていない中年男性の肛門のにおい」
 言うと客席からは拍手が上がる。一部の人間はスタンディングオベーション。涙を流している者までいる。カラオケ館江古田店選手の高校時代の恩師が巨大なモニターに映し出され、涙と鼻水を流している。恩師は全裸で筋肉質、そして首から上が三輪車になっている。嗚咽を漏らすたび、ペダルが回り、車輪が回転する。サドルもちょっと動く。それを見たカラオケ館江古田店選手の「カラオケ館」と書かれた看板の「館」の文字が激しく明滅する。そして死ぬ。

 つづいてエントリーNo.3「軟骨の唐揚げに絞ってかけたレモンの残骸」選手の入場。ヘリコプターで現れ、上空からリングインするものの頭部から落ち、首をひねって死亡。

 エントリーNo.4「爪を噛むことが完全に癖になった子供の、なんとも言えない目つき」選手は水疱瘡のため欠場。

 最後となったエントリーNo.5「有村昆」選手の入場。リングインすると、ゴリラのドラミングのように胸を叩き、観客を威嚇する。首から生えたネギを抜き取り、ブーメランのように振り回し、「さあ行くぜ」と高らかに宣言したのち、
「なんていうか、高校でも大学でもいいんだけど、入学あるいはクラス替えしたばかりのころ、やけに勢いがよくてリーダーっぽく振る舞うやつっているよな? でもそういうやつって真の1軍ではないんだよな。真の1軍てのは、中盤くらいに出来上がってくるもので、そいつは偽物なんだ。別にそれでいじめられたりはしないものの、あいつなんとなく違うよな、みたいな空気になって、最後のほうは教室の隅に追いやられるんだ。そういうの見てると、切なくなる。別に目立たなくたっていい。ありのまま、自分のキャラクターでやっていけばいいと思うんだ。あれ、おれなんの話してるんだ…あ、いや、そうだ、その追いやられたそいつ、改心していい感じになるか、2軍とか3軍のやつに強く当たりはじめるか、どっちかなんだ。そういう感じだ。とにかく、そういう感じなんだよ!」
 観客が湧く。隣の客同士、ハイタッチをかわす。「有村昆」選手の生き別れの妹の顔が、巨大なモニターに映し出される。右肩から生えた足が少しずつ膨張し、周囲の人に気味悪がられている。「有村昆」選手はリングの端に置かれたキックボードで退場していく。

 やがて会場に、嗅いだことのないようなにおいが充満する。毒ガスだった。選手ふくめ、審査員一同、窒息して泡を吹いている。そのときだった。どこかの街のどこかの建物のどこかの非常口の近くに描かれたピクトくんがちょっと動いたのは。

いいなと思ったら応援しよう!