白薔薇園の呪われし氏族(Eduard in curced familiar)
3つ目の白薔薇の生垣を、エデュアルド・ヒュスカークは乗り超えた。
屋敷を取り囲んでいた白薔薇の生垣は、その周囲の深く暗い森林の中でさえも何重も屹立していた。木立に僅かに月明かりが差し、最低限の道しるべにはなる。
この先に生垣があと何重あるかわからない。一つ、二つ、あるいは。
一度屋敷に入った者は白薔薇の生垣を乗り越えると科せられた「呪い」に囚われて死ぬ。だがエデュアルドは自身の「呪い」で抵抗できる確信があった。それは今しがた証明してきた。
生垣を全て越えれば第一段階はクリアだ。その後は車道に出て近くの街まで向かう。ネットに繋がった場所まで行ければ。携帯電話を手に入れるのでもいい。真実を外に伝えなければ。
それがエデュアルドが「ヒュスカークの白薔薇園」を脱走した理由。
ここは自分の、いや皆がいるべき場所ではない。不幸な運命にしがみ付き、お互い心を傷つけていずれ死ぬだけの場所だ。
いつかの古びたマンションの一室と変わらない。
やがて今までと違う明るさが見えた。はっきり見えてくる。森林の切れ目だ。その先に新たな生垣があることも。
初めて来たときの記憶から、エデュアルドはあれが最後だと確信した。
*
……最外縁の生垣のそばで、アリアナ・ヒュスカークは右目を開いた。
手で押さえた左目は「呪い」でエデュアルドの視界を同期させたままだ。ほどなく彼は彼女の近くに現れるだろう。
暗い森の中で人が通れそうな場所は限られる。最外縁の生垣も簡単に乗り越えられるような高さでも構造でもない。
彼女がエデュアルドの脱走に気付いたのは偶然、「呪い」の対象が切り替わり彼の視界が同期された為だった。
だが地下から出して以降の様子を見るに、いずれ何かしら行動を起こすことは予想出来た。判って放置したのは脱走できないという管理者故の慢心か、それとも別の感情か。
……考えながら生垣に沿って歩むアリアナは、その先に森から現れた少年の姿を見た。
【続く】