守ろうとしたもの、『彼女』の面影
「やめ……ゴホッ、お願いだ、やめ……やめてください」
懇願への返答は、バットでの頬への一撃だった。
「ふざけてんじゃねっぞオメェ、さっきからワケ判んねぇことばっかうめいてヨォ」
椅子に縛られた中年の男を見下ろしながら、フードをかけた赤いパーカーの男は右腕の肘先から生えたバットを引き戻す。
……引き戻しながら、長さ数十センチのバットのような『それ』はミキミキと低い音を立て、本来の右腕の形に戻っていった。
「オメェが最近うろちょろしてたヤロォだってぇーのはわかってんだからなこっちはヨォ、アァ?聞いてんのか」
薄暗い部屋の中でフードの男の顔は黒いマスクをつけて判然としない。ただその中でも赤く光る両の瞳が、縛られた男を見下ろしていることは確かだった。
「……がう、違う、私は家族を、助けるんだ……」
「アァ?」
「ごめん……お父さんは、お前達家族を、助けなきゃ……いけないのに、こんな所で」
「まだワケ判んねぇこといってんのかオメェ!」
フードの男は再び右腕をバット様に変え、縛られた男の頬を殴りつけた。
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(ごめんね大橋君。こんなこと、君がやる筈じゃないのに)
(『異形者狩り』は元々俺達がやる仕事ですよ。それに貴女がこんな状況だと知ったら、俺には見過ごせません。それが今の俺としての、貴女へのけじめです)
(ごめん、ごめんね……本当に……)
(……泣かないでください。貴女も、貴女の家族も俺がきっと守ります)
『かまたー、蒲田、終点です』
……大橋飛鳥は目を覚まし、急いで駅のホームに降りた。僅かの間だったがうたた寝していたらしい。夢の内容を反芻し、改めて今日の仕事を確かめる。
事前調査で例の男は周辺にいる事は確認している。後は潜伏場所の候補の中から絞り込んで『狩る』だけだ。
飛鳥はスマホを取り出し、待ち合わせ相手に電話を掛けた。
『おかけになった電話は電波の届かない所にあるか……』
「……間垣さん?」
【続く】