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「副業制限なら理由公表」は実効性のある指針と言えるのか?

ついに、厚労省が重い腰を上げて動き始めた。

副業を制限する場合はその理由を含めて開示するよう促す。働く人は勤め先を選ぶときに、副業のしやすさを判断材料にできるようになる。

出典:日本経済新聞

サイボウズ青野社長らを筆頭に「副業禁止を禁止せよ」と各所で声高に主張し続けてきた(もちろん筆者も)が、「副業禁止を禁止」とまではいかないまでも、「副業制限するなら理由を開示せよ」とのアプローチはかなり踏み込んだ要請だと言える。「人的資本の開示」の流れの一環だろうか。
(人的資本の開示は経産省の管轄なので、違う文脈の可能性が高そうだ)

ところが、記事の内容をじっくり読んだところ、本当に実効性のある指針になるのか、やや疑問が残る。

第一に、罰則などの強制力はなく、国から企業側への要請の位置づけとなる点だ。一般的に、罰則のない法律は実効性に乏しいという見方をされることが多い。

*本稿の主題からはズレるが、「罰則のない法律に効果はないのか?」という論考が大変興味深かった。曰く、罰則のある直接的なサンクションよりも、ブラック企業なのでは?と悪評が立つことで採用や取引で不利になる間接的サンクションの方がむしろ実効性があるのではないか、という考え方だ。副業制限にかかる理由の開示についても、合理的な理由なく副業を禁止しているような企業は狭量な会社として採用市場において敬遠されたり、優秀な社員が社外に流出したり、間接的サンクションを期待できる可能性もありそうだ。

第二に、現在の指針では①労働者の安全②業務秘密の保持③業務上の競合回避④就労先の名誉や信用――の4点のいずれかを妨げる場合、企業は副業を禁止または制限できると、相当広範囲にわたり理由を認める方針を示している点だ。

パーソル総合研究所の副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)によれば、過半数の55%の企業が従業員の副業を容認している一方で、未だ45%の企業が副業を禁止しているのが現状だ。

出典:副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)

さらに同調査では対象となる企業に「副業禁止理由」を選択式で回答させており、回答が多かった順に並べている。

出典:副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)

堂々1位の「自社の業務に専念してもらいたいから」というのはもはや理由として成立していないため論外(副業は業務外のプライベートの時間において取り組まれるもの。業務外のプライベートの時間においても「自社の業務に専念してもらいたい」というのは、無定量に残業して欲しいということだろうか?そんなことは言うまでもなく違法であり道理が通らない)として、2位「披露による業務効率の低下が懸念されるから」3位「従業員の過重労働につながるから」4位「情報漏洩のリスクがあるから」は一見それっぽい、合理的な理由に見える。
(これらの一見合理的に見える理由も、実は理由にならないことは以前副業のリスクを心配する管理職に「複業研究家」が伝えたいことというコラムで書いているので、そちらを参照されたい)

再掲するが、現在の指針では①労働者の安全②業務秘密の保持③業務上の競合回避④就労先の名誉や信用――の4点のいずれかを妨げる場合、企業は副業を禁止または制限できるとされている。お分かりだろうか。

つまり、現在多くの企業が副業を禁止している理由を、そっくりそのまま指針で認められている4つの理由にあてはまってしまうのだ。これでは、現状を副業禁止している企業が、「当社は労働者の安全の観点から副業を制限しております」と表明して終わってしまう可能性が高い。これでは何の意味もない。

ここで重要なのが、企業は副業を禁止または制限できる対象・範囲がどこまでなのか?という点である。

そもそも、従業員一人ひとりの事情や、取り組む副業の具体的な内容によって、個別具体的に①労働者の安全②業務秘密の保持③業務上の競合回避④就労先の名誉や信用――の4点のいずれかを妨げるかどうかを判断すべきであり、就業規則で十把一絡げに全従業員に対して副業を禁止・制限するというのはおかしな話である、ということを声を大にして言いたい。

せっかく踏み込んだ指針を示すのであれば、ぜひいま一歩踏み込み、就業規則で十把一絡げに全従業員に対して副業を禁止・制限することは原則禁止とし、申請のあった副業の内容や従業員の勤務状況など個別具体的に検討の上、①労働者の安全②業務秘密の保持③業務上の競合回避④就労先の名誉や信用――の4点のいずれかを妨げる場合にのみ、当該従業員の副業を禁止または制限できる、といった実効性のある中身にしていただきたい。

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