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「ストーリー採用」が上手い会社は何をやっているのか?

先週、11/17(水)から3日間にわたってIVS2021 NASUというスタートアップのカンファレンスが開催された。

筆者はこのカンファレンスの「ストーリー採用の極意」というセッションに登壇者としてお招きいただき、3日間の最終日となる11/19(金)に日帰りで参加してきた。

当日筆者が話したことを交えながら、「ストーリー採用」についてのメモをCOMEMOに書き残しておくことにする。

「ストーリー採用」とは何か?

そもそも、ストーリー採用とはなんだろうか。字面通りに解釈するならば、「ストーリー(物語)を武器にした採用戦略」といったところだろうか。

ベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』が刊行されて10年余、マーケティングや広報PR、そして採用に至るまで「ストーリー」の重要性が説かれるようになった。最近だと「ナラティブ」という表現もよく目にするようになった。
(ナラティブとストーリーの違いについてはこちらの記事を参照されたい)

「ストーリー採用」という言葉が世に流通する以前から、採用プロセスにおいて、起業家の創業ストーリーから商品やサービスの誕生秘話に至るまで、ストーリーの存在は当然重要ではあったが、特にこの十年ほどでよりその重要性が増してきていることを肌で感じている。

ストーリー採用以前は、「スペック採用」がメインストリームだったように思う。年収・社格・ブランドといった採用企業側のスペックと、学歴・経歴・実績などの求職者側のスペックをすり合わせる採用。

そんな採用の常識に疑問を投げかけ、常識破りの採用マッチングサービスが2012年に登場した。Wantedly(ウォンテッドリー)である。ウォンテッドリーはリリースするや否や、IT業界を中心に求職者からも採用企業からも大きな支持を獲得し、後に東証マザーズに上場するまでに成長した。

Wantedlyが革新的だったのは、それまでの求人サイトでは必ず記載されていた給与やその他の労働条件を一切記載せず、
●なにをやっているのか
●なぜやっているのか
●どうやっているのか
の3つの項目だけで求人を掲載している点だ。

これは明確に「スペック採用」へのアンチテーゼであり、「ストーリー採用」へシフトすることの明確な宣言だった。

なぜWantedlyでは「条件に関する記載」をなくしているのか。その理由について、Wantedly代表の仲暁子氏はインタビューで以下のように回答している。

仲:私たちは「シゴトでココロオドルひとをふやす」というビジョンを掲げて、キャリア構築や名刺管理などビジネスに特化したSNSを展開しています。就職の際、給与や福利厚生を気にする人は多いですが、そういった条件面だけで検討しても、本当に自分がやりたい仕事にたどり着けるかというと、かなり疑問です。

金丸:だからウォンテッドリーの企業情報には、条件に関する記載がないんですね。

仲:条件も非常に大事ですが、それだけではなく、自分が没頭できるような「意義」や「価値観」に沿った仕事ができなければ、長期的には続きません。私自身も新卒時に悩んだり、周りで同じように悩む若手を見ていて、自分が気になる仕事や企業を見つけたら、まずは会社を訪問し、社員から気軽に話を聞けるサービスがあったらいいのにと思い、ウォンテッドリーを始めたんです。

互いの条件をすり合わせるスペック採用から、互いの価値観をすり合わせるストーリー採用へ。Wantedly以前/以後で日本の採用トレンドは大きく変わり、日に日にストーリー採用の重要性が高まっている。

「転職活動のカジュアル化」が採用シーンにもたらしたものとは?

「スペック採用」が主流だった時代から「ストーリー採用」の重要性が高い時代になって決定的に変わったことがある。

「転職活動のカジュアル化」が進んだことで、転職活動を本格的にはじめる前に転職先が決まってしまうケースが激増しているのだ。

その転職トレンドの変化を端的に表現しているのがこちらのツイート。

「これまでの転職ジャーニー」では、転職を検討開始後に転職媒体に登録して、求人に応募したりスカウトを受けて面接を受け、内定をもらった企業の中で最も志望度の高い企業に転職を決める、というのが一般的な流れであった。

ところが「最近よく見る転職ジャーニー」においては、副業やコミュニティ活動、カジュアル面談その他を通じて信頼関係を築いた企業の経営者や人事、人事以外の社員から「ウチに来なよ!」と入社オファーがあり、すでにいくつか内定を獲得した上で、その企業よりも志望度が高い企業があれば、その企業のみ自分から求人に応募し、比較検討した上で最終的に転職先を決める、というのだ。

この転職ジャーニーの変化は、デザイナーやエンジニアに限らず、営業やマーケター、人事などほぼすべての職種に共通している。

つまり、以前は転職活動=転職サイトへ登録だったが、現在は(優秀な人ほど特に)転職サイトに登録すらすることなく転職活動を終えてしまうケースが増えている、ということ。言い換えれば、優秀な人を採用したければ転職サイトに求人を出したり、スカウトを打つだけではダメ(というより手遅れ)ということになる。

採用業界では、転職活動をしている人々を「転職顕在層」、現在は転職活動をしていないが将来的に転職をする可能性がある人々を「転職潜在層」なんて呼んでいるが、転職サイトに一切登録することなく「転職潜在層」のまま転職を完了させている人が増えているのだ。

このように転職顕在層と転職潜在層が曖昧な時代において、「ストーリー採用」は非常に有効だ。なぜなら、転職活動中でなかったとしても、自分の価値観にマッチしたストーリーに対しては興味を持つことができるし、「(今は転職を考えていないけれど)話を聞いてみたい!」と思えるからだ。
(この記事を読んでくださっているみなさんも、転職モードがONでない限り転職サイトの求人記事は一切見る機会がないと思うが、転職モードがOFFのときも日々noteやTwitterなどSNSを含めあらゆるメディアで日々”何かのストーリー”を読んでいるはずだ)

「ストーリー採用」が上手く行っている会社は何をやっているのか?

ようやくここから本題だが、「ストーリー採用」が上手くできている企業は一体何をやっているのか?

結論から言うと、次の3つにこだわることが「ストーリー採用の極意」だと思っている。

(1)互いのストーリーを「紡ぐ」ことにこだわる
(2)打ち手の数を増やし「面を増やす」ことにこだわる
(3)全員参加型のストーリー採用にこだわる

まず1つ目のストーリーを「紡ぐ」というのはどういうことか。

記事の冒頭では「ストーリー(物語)を武器にした採用戦略」が「ストーリー採用」であると書いたが、正しくは「企業と求職者の双方のストーリーを丁寧に紡ぎ続ける採用」こそが本当のストーリー採用だと考えている。

「ストーリー採用が大事だ!」と言われたときに思い浮かべがちなのは、WantedlyやTwitter、note、YouTubeやPodcastなどで会社のビジョンやミッション、創業者やメンバーのストーリーを発信することが大事だ!ということだと思う。

言うまでもなく「発信すること(し続けること)」は大切だ。ただ、ストーリー採用=ストーリー発信採用ではない。一方的にストーリーを発信するのではなく、求職者一人ひとりのストーリー(これまで歩んできたストーリー/これから思い描くストーリー)に耳に傾け、それぞれのストーリーが交わる点を探っていくことが、ストーリー採用において最も重要なポイントなのだ。

『LISTEN』『聞く技術』など、「聞く」をテーマにした本が続々と発売され、ベストセラーになるなど、「伝える」のみならず「聞く」ことの重要性や注目度が一気に高まっているが、ストーリー採用においては以下の3つをバランス良くコミュニケーションすることをオススメしたい。

①自分たちのストーリーを「伝える」
②相手のストーリーを「聞く」
③互いのストーリーを「紡ぐ」

この3つのコミュニケーションを取る上で最適なのが「カジュアル面談」であり、ストーリー採用が上手く行っている企業は例外なく「カジュアル面談」に積極的に取り組んでいる。

カジュアル面談プラットフォームの「Meety」が昨年リリースされ、スタートアップ界隈を中心に大きな支持を集めていることからも、ストーリー採用においてカジュアル面談の重要性が増していることが分かる。

カジュアル面談の進め方は、(主に)企業側が求職者のスペック(経歴や実績)を品定めする一般的な面接とは大きく異なる。

一般的な面接では、求人要件に合致しているかどうかを見定めるために、企業が求職者に一方的に根掘り葉掘り質問を展開していくことが多いが、カジュアル面談の内容は、ざっくり言うと以下のような流れで進めることが多い。

①先に企業側の面談担当者が自己紹介をする(単なる企業紹介のみならず、面談担当者がなぜこの会社に入社したのか?どんな仕事をしているのか?まで踏み込んで話すことが多い)
②続いて面談参加者(転職活動をしていない方も多いので「求職者」とは呼ばない)がこれまでのキャリアストーリーや現在やっている仕事や最近の関心事について自己紹介をする
③お互いについて自由に質問し合いながら相互理解を深めたり、「Aさんが仰っていた〇〇について、まさに僕らも同じ問題意識 を持っていて、ちょうどいまこんなプロジェクトが進んでるんですよ〜」みたいにそれぞれのストーリーに呼応して、あらたなストーリーを展開していく。

上述した「伝える・聞く・紡ぐ」の三拍子が揃った、理想的なカジュアル面談である。

カジュアル面談の結果、お互いに意気投合した場合、「ぜひ今度〇〇にも会っていただきたいです!」と別のメンバーとカジュアル面談をすることになったり、「実は毎月招待制のミートアップをやってまして、今度参加してみませんか?」とさらにつながりを深める場に呼び込んだり、その場ですぐ転職とはならなくとも「まずは複業から〜」みたいなかたちで関係性をスタートするケースも少なくない。
(もちろん、意気投合せず、今後に全くつながらないケースも山ほどある)

ストーリー採用の極意として、

(2)打ち手の数を増やし「面を増やす」ことにこだわる

と書いたが、ここで書いている「面」とは「面談や面接」のことを指している。

「ストーリー採用、うちもやっているんですがなかなか成果が出なくて…」と愚痴をこぼす企業の方から相談いただくことも多いが、詳細をヒアリングすると「ストーリーを発信すれば応募が来るものだと思っていたが、全然来ない」「しかも継続的に発信し続けているわけではなく、インタビュー記事やブログ記事を2〜3本書いた程度」みたいな話に行き着くことが多いが、そうした受け身のスタンスでうまくいくのは一部の超人気企業だけだ。

「ストーリー採用」が上手く行っている会社は例外なく、愚直に打ち手の数を増やし、「面」を増やすことにこだわっている。Twitterやnoteで継続的に発信し続けていることはもちろんのこと、ビズリーチやWantedly、Twitter、LinkedInなどあらゆるデータベースで日々スカウト活動をやり切っているし、YOUTRUSTやMeetyといった新しい採用系サービスが出たら、まだ他社で実績が出ていなかったとしても「なんか良さそう!」と思ったら真っ先に使い倒してみて、転職意欲にかかわらずたくさんの人とカジュアル面談してみる。

そうして面談・面接の数を増やすことでしか、ストーリー採用の成功はありえない。「ストーリーを発信しているものの、全然応募が来ない」と嘆く暇があったら、面を増やすことにこだわってやり抜いてみることをオススメしたい。

面を増やすためにも、「ストーリー採用の極意」の最後に書いている(3)全員参加型のストーリー採用にこだわることが欠かせない。

代表や人事だけではこなせる「面談・面接のキャパシティに限界がある」というのももちろんだが、それ以上に大きいのが「ストーリーのバリエーション」の話だ。

個人側の視点から考えると、必ずしもCEOやCTOなどCXO(経営メンバー)と話したいわけではなく、自分と同じ職種や職位の人、自分が興味のある職種の人、自分と同じ前職の人と話してみたい、などなど、カジュアル面談のニーズは実に多種多様だ。

そう考えると、経営者や人事としかカジュアル面談ができない企業よりも、ありとあらゆる職種やポジションの人が「こんなこと話しますよ!」とカジュアル面談に参加している「ストーリーのバリエーションが多い企業」の方が多くの採用候補者と接点を持てるようになるのだ。

事実、ストーリー採用が上手く行っている会社ほど、従業員の多寡にかかわらず実に多様な職種・ポジションの人がカジュアル面談を受け付けており、バリエーションに富んでいることが多い。
(以下のページで特集されている企業のページをいくつかご覧いただくとイメージを掴んでいただけると思う)

まとめ:3つのこだわりと3つのコミュニケーション

再掲になるが、「ストーリー採用の極意」は以下の3つにこだわることにある。

(1)互いのストーリーを「紡ぐ」ことにこだわる
(2)打ち手の数を増やし「面を増やす」ことにこだわる
(3)全員参加型のストーリー採用にこだわる

さらに、採用企業・採用候補者双方のコミュニケーションにおいて、

①自分たちのストーリーを「伝える」
②相手のストーリーを「聞く」
③互いのストーリーを「紡ぐ」

この3つをバランス良くコミュニケーション取ることが大切、ということが本稿のまとめとなる。

と、いつもの悪い癖でまた長々と書き綴ってしまった(約6000文字・・・!)が、もっと詳しく聞きたい!ウチの会社の採用について相談したい!という方向けに(せっかくなのでMeetyで)カジュアル面談を受け付けてみることにした。

もちろんTwitterFacebookで連絡いただいても全く問題ないが、せっかくなので「Meetyってこういうサービスなのか!」ということを体験する意味でも一度使ってみていただくことをオススメする。

*ストーリー採用におけるカジュアル面談の重要性を伝える上で、Meetyのブレイクは非常に象徴的なので、Meetyを激賞する流れになっているが、Meetyの運営企業とは一切の利害関係がないことを念の為申し添えておく。笑 いちユーザーとして純粋なファン(推し)というだけである。



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