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選考ファネルアップの鍵は、目的を明確化したイベント設計にあり!キャディ株式会社/安藤宏樹さん #HRML
人事向けコミュニティ「HRマーケティングラボ」で定期的に開催している勉強会。今回キャディ株式会社の安藤 宏樹(あんどうこうき)さんにゲストスピーカーとしてお越しいただきました。
キャディでEmployee Success Group Managerとして採用や組織づくりに携わり、一年で50ものイベントを開催してきた安藤さんは、独自のミートアップ戦略で採用力アップを実現。限られたリソースの中、イベントを活用して選考ファネルアップを成功させた秘訣に迫ります。
キャディは「ファブレスメーカー的立場」でモノを届ける会社
キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに掲げる、創業3年目のスタートアップです。社員数は2020年8月時点で約90名。アルバイトを含めると100名を超えます。
採用においては、以下の4つのバリューをとても大事にして採用しています。
①もっと大胆に
②卓越しよう
③一丸で成す
④至誠を貫く
キャディはSaaSのように思われがちですが、実際に物を作って届けているのでファブレスメーカー(工場を持たないメーカー)的立場のマーケットプレイスなんです。具体的には、メーカーさんに図面を送ってもらい、自社独自の見積もりシステムで原価計算を行い見積もり額を提示。発注されたら加工ごとに最適な町工場さんに発注するという事業を行っています。
多くの町工場さんと連携しているので、それぞれの強みに合わせて分散発注。もちろん作ってもらったものをそのまま納品するわけではなく、キャディが検査を行なって品質保証した上で納品するというプロセスを辿っています。
製造業は全てのプロセスがヘビーで、あちこちに課題があります。だから、一部をシステム化して提供したところで製造業のポテンシャルは解放できない。全体の課題解決をすることを考えたら、システムを提供するだけではなく、オペレーションまで入り込んで課題解決を図っていく必要があります。
その分、組織編成が非常に複雑です。オペレーション全般を担っている上、取引先との関係構築からオペレーション、品質・生産管理、アルゴリズムの策定、システム開発など、様々な職種が必要なので、採用する上では幅広い層にリーチしていかなければなりません。
ミートアップを利用したキャディの採用設計
一般的に、採用の全体感は上図のような流れで考えるかと思います。まずは知るところから始まって興味を持って応募して……とフェーズが進むほど、志望度も上がっていきます。なので、いかにファネルを上げていき、内定までのプロセスを進めていけるかが、採用する上ではとても重要。さらに、どのプロセスにどの媒体を使うのか、設計することも大切です。
では、キャディの場合はどのように設計しているのか。こちらの図をご覧ください。
まず、ブランド広報はターゲットメディアに意図したメッセージで露出することを意識しています。SNSはTwitterが8割、Facebookが2割位の割合で活用。自然応募は、採用ページとWantedlyがメインです。エージェントは厳選して利用し、リファラルはリーダー陣を中心とした少人数編成で。ダイレクトリクルーディングではLinkdin、ビズリーチ、Laprasなどをメインに利用しています。
これに加えて、入り口から出口まで網羅したミートアップを運営しているのがキャディの特徴です。来てほしい層に対しどのようなミートアップをすべきかという設計も大事にしています。
イベントを使った採用の効果とハードル
採用でイベントを利用する場合、効果もありますがハードルもあります。まず効果については、以下の4つが挙げられます。
①ファンづくり
②選考遷移率向上
③タレントプールマネジメント
④リファラルの受け皿
「なんとなく興味を持っている」状態から「一旦話を聞いてみる」状態に持っていくことがファンを作る上ですごく大事。そのため、初めてでも参加しやすいよう、枠の大きいイベントも作っています。
イベントの1〜2時間の間に、いろんな社員と会ってもらったり社長の話を聞いてもらったりすることで、会社の雰囲気を多角的に伝えることができます。これにより、安心感や「ここで働きたい」と思ってもらえる材料を提供でき、選考遷移率の向上が見込めるんです。
さらに、イベントであれば転職活動をしていない人も誘いやすいです。なので、タレントプールマネジメントとしての側面もあります。リファーラルも同様で、「新しい会社でイベントやってるから来てよ」と言えば、前職の人も誘いやすい。
キャディの場合は、一年で2,000人ほどの方がイベントに来ました。そこで感じたのはファンの連鎖。たとえ選考に進まなくとも、「キャディさんは良かった」と口コミがどんどん広がる。すると、その人の知り合いが遊びに来る……という連鎖が起こる。ファンづくりによる二次、三次拡散の強さを感じました。
また、スカウトメールから初回面談を迎えても自然消滅するパターンは多いと思いますが、初回面談のあとでイベントに案内するようにしたら、選考遷移率は飛躍的に上がりました。
このように、他の方法では得ることのできない効果をもたらしてくれるイベントですが、実際に開催して効果を得るまでにはハードルもあります。それがこの3点です。
①準備工数が高い
②イベント運営の練度が必要
③イベントから内定者創出までが遠い
企画も集客も大変ですし、当日の運営もリソースがかかります。協力してくれる社員も手練れていないと社員自身が楽しめなかったり、集客が少なければモチベーションが上がらなかったりと、心構えがなければイベントが辛くなってしまうんですよね。掛ける工数に対する採用効率を考えると、「ROIが低いからやめよう」ということにもなってしまいます。
では、これらのハードルに対してキャディはどんな手を打っているのか。
一つ目に関しては、できるだけテーマを使い回して工数をかけずに開催するようにしています。同じテーマで2〜3回やれば、運営側も慣れるんですよ。
二つ目は、いきなりオープンなイベントを開催すると人が集まらなかったりターゲット層と異なる人が来たりするので、最初は紹介制で小さく始めて密度の高いものをやって盛り上げる。そうすると社員も旨味を感じて楽しめるんです。この繰り返しで、運営の練度を上げていきました。
三つ目に対しては、どの効果を狙ってイベントを開催するか定めることが大事だと思っています。たとえば「内定率は追わない」と決める。イベントを他の目的のために使うことにすれば、内定者が出なくてもモチベーションを維持することができます。
イベントの肝は目的設定
キャディのイベントは、時期によって目的設定を変えながら開催してきました。これがファネルアップに繋がったと考えています。
まず2019年4月〜9月は認知拡大期として、「10億円資金調達の裏側」のような、多くの人が興味を持ってくれそうなテーマで開催。このときは集客数を指標とし、フォロワーの多い社員がTwitterで呼び掛けたり、SNSに広告を出して集客していました。
イベント数を担保するために、イベントページのテンプレートを作り、準備工数を最小限に。当日のスライドも、会社説明からパネルディスカッション、そしてQ&Aという流れにしていました。会社説明のスライドは使い回せるし、他はスライドがほとんど必要ありません。テーマも使い回すことでプレゼンする人は慣れていきます。そうしてとにかく集客をブーストしていたのが、オープンミートアップの最初です。
ブランド形成ができてきたところで、2019年10月から2020年3月を選考遷移率向上期とし、ファネルアップを目的としました。そこで始めたのが「CADDi BAR」という、これまでより濃密な場としてのイベントです。CADDi BARは、面談した人やリファラルの人、選考過程の人などにキャディから直接声をかけて案内する完全招待制。特別感があるので参加率が高いのです。定期開催して参加しやすくする工夫もしていました。
最後に、2020年4月から8月がtechブランド形成期です。この時期はコロナ禍ということもあり、オンライン勉強会を活用。テクノロジーの採用は、ブランド形成がとても重要なので、勉強会を含むオンラインのミートアップに注力しました。指標は集客人数と自然応募数だったため、他社とコラボして集客を強化。
キャディとしてtechブランド認知は低かったものの、こういった形でいろんな人にリーチしていき、ここで興味を持ってくれた人がCADDi BARに参加するというファネル設計をしていったんです。
イベント成功の鍵は一度の失敗で諦めないこと
イベント開催には、注意点もたくさんあります。
まず、社員の協力が不可欠なので、イベントへのアサインが当たり前にできる文化を作らなければなりません。そして、準備を一生懸命しないことも大事です。集客に失敗すると運営側も社員側も心が折れてしまうので、小さく始めて目的を共有し、集客がうまくいかなくてもポジティブに捉えられるようにするのが大事だと思います。
イベントで成功を収めるためには「失敗が当たり前だ」という前提で、必ずPDCAを回して改善を続けていく必要があります。最初のイベントでは上手くいかなくても、3回目で満足度が跳ね上がったこともあります。イベントの空気感の作り方を調査するため、他社のミートアップに行ってみるのもいいですね。
以上のことをまとめると、イベント開催のコツは以下の3点となります。
①イベントは目的を定めて設計する
②100点×1回ではなく、70点から少しずつ仕上げていくイメージで開催する
③最初は手っ取り早く効果が出るものを指標にする
対面で会うことが難しい昨今の採用シーンだからこそ、こういった点に留意しながら採用にイベントを活用することが大事だなと思いますね。
Q&Aセッション
ー イベントの全体設計がしっかりしていますが、何か参考にされたものはあるんでしょうか?
実際にやりながらブラッシュアップしていったという感じですね。参加人数が増えてくればデータ分析ができるようになるので、ここが弱いと感じたらそれをリカバリするようなものを考えて試してみる。それを繰り返して今のやり方に辿り着きました。
ー オンラインのミートアップをやる場合、コンテンツはどうやって決めてどうブラッシュアップされてんですか?
最初の頃はどんなテーマでもよかったので、キャディが今持っているケイパビリティの中で何が一番刺さるかを考えて決めました。その結果が資金調達の話だったんです。今持っている自分たちの武器で世の中的に面白いことはなんだろう、と考えることがまず大事。
あとは、他の人がやっていないようなイベントの切り口でも、ある職種の人は求めている……というテーマがあるんですよ。マーケットを探して面白そうなテーマを選び、そのテーマに強い企業と組んでやるのもひとつの手ですね。
ー 同じテーマを使い回しても、参加者の満足度は下がらないんでしょうか?
まず、参加者がかぶらないようにしているので問題ありません。もし同じテーマで重複して参加された場合でも、Q&Aを本気でやると満足度は上がります。Q&Aであれば毎回違う切り口の質問があり、新しい気付きがあるので。
ー イベント参加者を後追いするときは、何かツールを使っているんでしょうか?それともアナログですか?
後追いする際、ツールは特に使っていません。イベントの最後に取っているアンケートで、「他のミートアップに参加したい」「カジュアル面談したい」「選考受けたい」「入社したい」のどれに当てはまるかを聞いているんです。「ミートアップに参加したい」くらいの人だったら、まだまだ遠いので後追いはしません。「カジュアル面談したい」以上の人をアナログで追いかけるようにしていました。
ー イベントの予算やリソースは、どうやって社内コンセンサスを取りましたか?コンセンサスを取るコツなどあれば教えてください。
社内コンセンサスを取るなら、社長を口説くのがもっとも早い方法だと思います。キャディの場合、社長がミートアップに登壇しているんですが、そこに来た人がけっこうな熱量で楽しんでくれるから社長も楽しいんですよ(多分w)。「楽しいものだ」と感じてもらえることが大切かな、と。もちろん、前提として社内での採用の優先度を全員が正しく認識している前提が必要ではありますが。
ー 社長を乗り気にさせるのは難しくないですか?イベントを使った採用の必要性やインナーブランディングが後回しにされがちで……。
うちの社長はすごく勉強家なんです。スタートアップの先人たちから学ぶペースが尋常ではない。アドバイスもどんどん吸収しています。社長を乗り気にさせたいなら、イベントをうまく活用している他のスタートアップの社長と繋いで話してもらって、必要性を感じてもらうのも大事かもしれません。
次回のHRマーケティングラボは…
次回のHRマーケティングラボは生活総合サービス(ていねい通販)の採用責任者(兼リピートマーケティング責任者)の戸田 良輝さんをゲストに迎え、
「CRM思考のていねい通販の採用活動を一挙公開!」をテーマにピッチいただきます!お楽しみに!
(文:矢野 由起)