草創期 11(小児がんと向き合う家族の記録)
一度目の抗がん剤治療が終わり
初めての一時退院
3日くらいかなーと予想していたのだが
お正月休みも重なって1週間の退院だった
およそ2ヶ月ぶりの家族団らんは
それはそれは楽しくて
そうちゃんも嬉しそうだった
気をつけなければいけないことが
たくさんあるので
いろいろと気を使うけれど
喜びのほうが勝って
とにかくいろいろ頑張った
そうちゃんが大好きなパンを
前日から仕込んで薪ストーブで焼いた
野菜をたくさん食べてほしくて
ミネストローネをたくさん作った
(あまり食べてもらえなかった)
パン生地の半分はとっておいて
二日目の朝のピザにした
ミネストローネの具をたくさんのせて
薪ストーブのオーブンで焼いた
外で食べるピザはとても美味しくて
そうちゃんも兄むくもモリモリ食べた
ピザ美味しかったねえ
そうちゃんはそれからしばらく
時々思い出したように言ってくれた
うんうん美味しかったね、また焼こうね
そういえばこのタイミングで
おみそも仕込んだ
外の簡易かまどで羽釜をのせて
豆をグツグツ茹でる
けっこう時間がかかってしまい
さあ豆を潰すよーという時には
こども達の寝る時間になってしまった
仕方なく豆を一人で潰した大晦日の前夜
来年こそはみんなで仕込もうね
一時退院の後半は夫の実家へ
慣れ親しんだ家なので
のびのび過ごさせてもらった
ここでもたくさん作った
食べてほしいものがたくさんあった
味覚が変わらないでほしい
家のごはんの味を忘れないでほしい
そんな心配をよそに
そうちゃんはモリモリ食べた
相変わらず野菜が苦手だけれど
餃子は野菜たっぷりにしてモリモリ食べれる
ひじきも豆をいれればパクパク食べれる
そこでふと気付いたことがある
そうちゃんがあの辛い治療と
副作用を乗り越えて
いつのまにか元気なっている
こうして家に帰って
ごはんをみんなで食べている
弱った足腰でも頑張ってたくさん歩いている
ケラケラとよく笑うそうちゃんは
入院前となにも変わらない
治療を終えて帰ってくるとは
こういうことなんだ
先生方が説明してくれたことが
ようやくわかってきた
治療中は見えなかったゴールが
見えた気がした
そうちゃんはこの治療で治るのかもしれない
心配だった食事のことも
治療が終われば取り戻せるかもしれない
一時退院で過ごした家族団らんは
次の治療へと向かう心の準備期間になった
各方面にコンタクトをとった民間療法も
一件有力な情報にたどり着きそうになったが
心を決めてどちらかにしなければ
ブレそうだったので、 治療継続の選択をした
全ての想いを打ち明けて相談した義母に
そうちゃんを助けてほしいと言われた言葉も
大きかった
夫は珍しく迷ったようで治療継続が
果たして良いのか真剣に考えてくれていた
久しぶりに一緒の布団で寝るそうちゃんを見て 込み上げてくるものがあったのだそうだ
私はまたこうして家族で一緒に過ごせるように、 そのためにはどちらが良いのか考えた
そして今の私達の暮らしの中で
そうちゃんを在宅ケアで治療する力はない
ということを冷静に受け止めていた
治療を継続して最後までやり終えて
その時までにそうちゃんが帰ってくる場所を
整えよう
そう思うようになった
本当に生きるとはなにか
自分の生命を全うすることの意味
西洋医学への不安やかつて抱いた不信感
大きな組織へのやり場のない想い
様々な葛藤はひとまず外野へ置いてきた
そうちゃんを助けるための
一筋の光が見えてきたのだ
私の思考は絶えず変化して
そのたびに夫は 困惑していたけれど
変化して当然だ、正解は自分で作るのだ
過去の選択や発言に囚われず
いつでも最良の選択をする
強い気持ちは未来も明るくしてくれる
一年の始まりに願いを込める
2021.5.7
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