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草創期 3(小児がんと向き合う家族の記録)

そうちゃんの手術は予定の8時間を超過し
10時間を過ぎた

朝から夕方を過ぎるまでオペ室の前で
夫と待機
時々交代で休憩をとりながら
ひとつの場所に特にすることもなく
これだけ留まるのは久しぶりだと話していた

手術で万が一のことなどは
心配していなかった
手術を決めた時から腹はくくっているし
先生を信じているし
100%そうちゃんは助かる

それよりも今後の治療法をどうするか
情報集めに没頭した

抗がん剤も放射線もやりたくない
民間療法で打つ手はないか探した

多くの知り合いから有力な情報を
たくさん頂いた
それでも決定的な情報には辿り着けなかった

子どものガン治療成功事例に
民間療法があがってこない

セカンドオピニオンで訪ねた病院は
漢方や食事療法などで治療してくれるのだが
そこでも子どもには抗がん剤がよく効くから
そちらをやったほうが良いと伝えられた


話は少し戻り、手術は無事成功
そうちゃんの小脳の大部分を占めていた
腫瘍は子どもの握りこぶしほどの大きさ
(約5センチ)
おまけに奥にもうひとつある
フタコブ腫瘍だった

だから予定より2時間超過した
時間的な限界を迎え奥の腫瘍を残したまま
縫合したとのこと

オペ室から出てきた担当執刀医は
走り続けたランナーのように息切れながら
颯爽と私達の前に来て手早く説明してくれた
神のようなスーパーマンのような先生 
ただただ感謝しかない

10時間の手術に耐えたそうちゃんは
おでこの両側に手術で固定した跡を
くっきりと残し
髄液が傷口から漏れていることを除けば
術後の経過は良好で
傷口も徐々に回復に向かった

長時間のうつ伏せで
浮腫んでしまった顔と唇は
数日で元通りになり少しずつ大きな声も
出てきた

ベビーカステラのようなものが
おやつの時間に出たのを手に握って
なんかプニプニしてるねと言った時の
顔も声も情景も特別記憶に残っている

笑って話してくれるだけで充分
包帯ぐるぐる巻の頭で目が半分隠れている
のもなんだかすべてが愛おしい

がんばってくれてありがとう、そうちゃん


後日の話し合いで伝えられたこと

腫瘍を手術でもう一度とりにいくか
抗がん剤治療でとるかの二択を提示された

手術でもう一度とりにいくと
小脳に障るリスクがあること
(障害が残る危険性があること)

抗がん剤治療をすると
起こりうるリスクがいくつもあること
(たくさんあるのでここでは割愛する)

放射線治療も免れないだろうとのこと
(その場合のリスクは抗がん剤よりも
ダメージが大きくここでは書けず割愛する)

ハイリスクハイリターンの治療
無理 無理 無理です

絶対に無理です

治療して治る保証はないし
ハイリスクだらけの治療方法に
賛同できるわけがありません

私の脳内は窮地を迎え
治療はせずに命を全うする選択に
大きく傾いた

たくさんの薬を使って繋ぐ命ってなんだろう
助けたい一心でなんでもしていいのかな

大切な命だからこそだった
本当に生きるとは何か
命が死ぬとは何か

助けたい気持ちはとっくに溢れかえっている
私の命ではなく息子の命だから
選択に迷うのだ

急速に発展した西洋医学のおかげで
昔は助からない人が助かる時代になった

すでに手術で大恩恵を受けたそうちゃんと
私達
感謝の気持ちはたくさんある

ただ心がついてこないのだ

迷っている余地はなく
何度も大きな選択を迫られて
足もとは常に薄い氷の上を歩いているみたいな感覚

どちらへ行っても不安だらけ

まともに冷静に考えられるわけがない

数時間に及ぶ話し合いを
数日の間に何度か重ね
その間にセカンドオピニオンへ足を運び
頂いた情報を手がかりに民間療法を探した

その数日間はうろ覚えだが
長男をこどもえんに送った後とめどなく溢れる涙を止めることができずに毎日車で泣いていたことはよく覚えている

帰宅後もただただ涙が止まらず畳に寝そべってひたすら泣いていたことも覚えている

民間療法で治すことに気持ちを定めてみても
どこかで息子の死を覚悟していることに後々気づく

治るイメージが湧かなかった

ガン細胞がいつまた大きくなるかわからない
再発、転移の可能性は今もうすでに始まっている

でも抗がん剤と放射線は
なんとしてでも避けたい
でも他に当てはみつからない

もし当てができても不安はないのだろうか?
なにを信じてなにから始めれば良い?

奇跡が起きるかもしれない
でもそんな保証はどこにもない
息子をなにがなんでも助けられる自信もない

もし再発したら?転移したら?
手遅れになってしまったら?

命を全うすると考えておきながら
思考はそう簡単に死の恐怖から逃れられない

大切な命を助けたい

脳内はいつも堂々巡りで
良い答えは出なかった

片手に西洋医学
片手に民間療法
天秤にかける

どちらがそうちゃんにとって良い選択なのか
家族が幸せになれる選択はどこにあるのか

選択 選択 選択の繰り返しが続く

この間一生分泣いた気がする

2021.4.27

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