「ホワイト•パッケージ•キューブ」に「ホワイトパッケージキューブ」を還元してみる
【はじめに】
原案である「ホワイト•パッケージ•キューブ」は江口湖夏さんが考案されたもので、「ホワイトパッケージキューブin秋田」が江口さんからキュレーションを委任された高升梨帆が企画したものになります。
【都会と地方での展示の在り方】
都会に住んでいて展示を見に来る人が多い「限られた人のもの」に向けての展示は、日々あたりまえの展示が行われている。
一方で地方はどうか。地方には地方のやり方がある。美大周辺に場所をひらこうとしている人、秋田市文化創造館など、現在から未来へと価値を作ろうとしている人がいる。秋田では、海岸には流木、池には透き通る湧水、山には鉱石と、素材が沢山ある。近年秋田では、秋田の素材を生かして作るアーティストが増えてきている。
【接続してなんぼ!な秋田】
秋田という地方でホワイトパッケージキューブを体感したとき、大切なのは、完成したそれぞれのホワイトパッケージキューブをどこに接続させるかであると分かった。出来上がったホワイトパッケージキューブを、どこに持っていくと次につながるのか、企画者がリードすることが最も重要である。
【ホワイトパッケージキューブが発泡スチロールである意味】
「ホワイト•パッケージ•キューブ」は、発泡スチロールをホワイトキューブに見立て、配送サービスで展示を直送するというシステムである。「ホワイトパッケージキューブin秋田」では、配送サービスの要素は取り除いた。ひとまず今回は、集まってくれたものづくりが好きな人たち6人と一緒に、「箱」について考えることにした。
「箱」について考えることになったのは、集まった人のうち2人から「発泡スチロールの箱を使って制作するのではなくて、箱を自分で作りたい」という要望があったからである。企画者の私からすると、全くの想定外だった。だが、箱(ホワイトキューブ)が発泡スチロールである意味は特にない。今回の秋田編は配送サービスの要素を取り払っているので、発泡スチロールの箱でなくてもよい。何より、発泡スチロールの箱の中に自作の箱を入れてしまえば郵送可能なので、もし配送する場合でも問題はない。したがって、2人の要望を採用することにした。
【発泡スチロールにも個性アリ】
もうひとつ、「ホワイト•パッケージ•キューブ」と秋田編で変えた点がある。それは、企画者が用意する発泡スチロールを、近所のスーパーや卸市場からいただいたことである。捨てられる直前のスーパーや卸市場のゴミ捨て場の中に入れてもらった。4軒まわって、4軒とも無理なお願いを承諾いただいた。魚の匂いが染み付いた発泡スチロールだったので、ハイターでしっかり洗って、「ホワイトパッケージキューブin秋田」に参加してくれそうな人に手渡した。原案の「ホワイト•パッケージ•キューブ」では、企画者の江口さんが発泡スチロールを購入して参加する人にAmazonで郵送していたとのことだった。今回の秋田編は予算がなく、秋田らしい要素を取り入れたいと考えたので、発泡スチロールを地元のスーパーや卸売場からもらうおうと考えた。手に入れた箱は、各々の店によって発泡スチロールのサイズや色が違う。地名の「新屋」のシールが貼られている箱もある。結果的に、色やサイズ、ボロボロ加減が全く違う発泡スチロールたちとなった。
【秋田での展示の在り方】
今回、秋田で企画、設営(この文章の記述段階では。)してみて気づいたことがある。それは、コミュニケーションを測れば素材や展示場所は手に入るということである。田舎だから、「展示場所がない、見に来る人がいない」と思ってしまいそうな時もある。だが、それは、あまりにも東京と比べすぎているのかもしれない。スーパーや卸市場での素材入手の交渉、オルタナス(元八百屋さんの建築を改装した一軒家の木造オルタナティブスペース)の管理人との交渉、それを一つずつ行えば展示環境は確保できる。ホワイトキューブだけが展示空間ではない。今はオルタナティブスペースや野外展示があたりまえに行われている。ホワイトキューブの考え方から逸脱しようとしてきたのは、1990年以降の出来事である。2024年を生きる我々ができることは、交渉すること。未開の地を切り開いて展示をすることなのかもしれない。一つずつの交渉で、展示に使う素材や場所が拡がっていく。
【秋田編を原案に還元する】
「ホワイト•パッケージ•キューブ」のコンセプトに立ち返ると、物流により他の人の作品が他の場所で展示することは可能である。しかしながら、配送されることを見越した遠方を睨みながら、ローカルな関わり方の要素もホワイトパッケージキューブの中に詰め込むことができる。それが「ホワイトパッケージキューブ」の魅力であるように感じた。