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第0章#03「利用者さんゼロからの、知恵と工夫」(ウワサのマス釣り大会!?)

スープタウンの源泉に見えてきたものは、バレーボールが縁をつないだなんとも“スポ根”な創業者おふたりの物語でした。ガスパッチョ隊長の愛あふれる叱咤激励「やる前からできないっていうな!」という名言は、職員たちに数々の気付きをもたらし、ローリエ女史の理想とする「楽しく、笑っていられる場所」の原型がカタチづくられていきます。
 
さて、利用者さんゼロ状態から、「選ばれるデイサービス」に進化していく道のりには、どんな智恵や工夫があったのでしょう?

――利用者さんゼロの状態をどう打破していったのですか?

ガスパッチョ隊長(以下、隊長)
チラシを手作りしてポスティングしまくったり、内覧会を開いたり、思いつくことは何でもやってみました。だけど、僕らにはまだ「売り」がなかった。デイサービスの存在を、利用者さんやそのご家族に紹介するのは、たいてい地域の包括支援センターやケアマネ(ケアマネージャーの略)なんです。内覧会や体験会に来てくださる彼らに、「スマイリングの売りは何ですか」と聞かれるたびに、何だろうと考えていて・・・。初めの頃は、お風呂に「炭酸泉(=炭酸入りのブクブクのお風呂で血行促進などの効果がある)を導入したこともありました。いつの間にか消えてしまったけど(笑)。いろいろ模索していたある時、介護職員の「レク疲れ」という記事が目に留まったんですよね。

ローリエ
「レク」というのは、デイサービスで行うレクリエーションのことです。利用者さんに楽しんでいただくために、ゲームをしたり、歌を歌ったり。以前、私が隊長にブチ切れられた「ぬり絵」や「間違い探し」も、プリント・レクといってその一種です(笑)。
 
隊長
デイサービスは、大人の保育園ではない、というのが僕の持論です。僕自身がそーゆーの(レク)が超苦手だし。それで、考えた結果、うちの特徴として、「毎日、利用者さんとおやつを手作りします」と宣言したんです。もちろん他のデイサービスでも、食レク、といってお昼ごはんやおやつをつくるところはあります。ただ、特別な行事としてではなく、「毎日、利用者さんといっしょにつくる」のがポイント。準備段階から片付けまでの工程を考え、それを利用者さんが楽しく作業できるように場を整えていくって、実はタイヘンです。だけど、それを「毎日やる」ことで、「手作りおやつ」はスマイリングにとって、非日常ではなく「日常」ごとになる。できない!無理だ!と思っていることでも、毎日やっていたらできるようになるんです。この「手作りおやつ」は今も続けていて、すっかり日常の風景です。

――はじめての内覧会(2012年)でも「10種類の手作りおやつ」を用意されていましたよね?隊長が「手作りおやつ」に着目したのはなぜですか? ローリエ女史が、得意だったとか?

ローリエ
いえ、ま~~~ったく興味ありませんでした。内覧会でのおもてなし用に隊長から「おやつをつくればいいじゃん」「10種類ぐらいあるといいよね」と言われて。ネットでいろんなレシピを調べて、お菓子づくりが得意な友だちにも助けてもらいながらやり切りましたね。
 
――あの…手作りおやつ、3種類ぐらいではダメだったんすか?

下段は、炊飯器で作ったチョコケーキ、チーズケーキ、タマゴボーロ、
真ん中は、牛乳豆腐、抹茶プリン、コーヒーゼリー、お汁粉、
上段は、オニマンジュウ、クッキー、豆腐餅。どうだ、合計10種類!!
(隊長提案による、牛乳豆腐だけは微妙なお味だったとか…)

隊長
ダメですね。3種類なら、誰でもやれそうでしょ?人がやれそうなことをやっても意味がないので、20種類でも30種類でも良かったけど、3種類はNG。これは、ただのおもてなしではない。どうしたら、人がスマイリングに興味を持ってくれるか?という観点が大切ですから。「そんなところまでやっちゃうの?」という“驚き”があってこそ、人は心を動かされると思うんですよね。
 
ローリエ
ま、実行するのは現場の私たちなんですけどね…(笑)
 
隊長
僕がまだ毎日、利用者さんの送迎をしていた頃にね、帰りの車でいろんな話をするんです。彼らは、「あれが食べたい、これが食べたい」「あそこに行ってみたい、こんなことをやりたい」と、いろんなことを言うんです。それなのに、うちのデイサービスでは毎日「計算ドリル」や「ぬり絵」をやっている。なんでだ!〇〇さんも〇〇さんも、こんなにやりたいことがあるのに、なぜ僕らは叶えてあげられないんだろう? 彼らの生の声を聞いて、それを実現する方がよっぽどいいデイサービスになるのにな、と思ったんです。

――〇〇さんの笑顔のためにどう動いたらいいか?を考えて、行動に移す。それは創業時からガスパッチョ隊長が大切にしてきた「スマイリング・マインド」。それが起点になって、今のスマイリングらしさをつくる、ユニークな企画が次々に生まれてくるんですね。当時の印象的なエピソードを教えてください。

隊長
やっぱり「マス釣り大会」ですかね。今ではスマイリングの初夏の恒例行事となりましたが。ある時、利用者さんが「魚釣りをしたい」といったんです。その想いを叶えようとして、職員がオモチャの釣り道具でやろうとしました。でも、それこそ茶番です。「おとなの保育園」にすぎません。僕は、本物の釣りを楽しんでもらうためにはどうすればいい?と投げかけました。ただ、海や川にいくには転倒のリスクが大きすぎます。じゃあ、敷地内に釣堀をつくるのはどうだろう?という話になり、みんなでチャレンジ。建物の隣を流れる巴川から水をひいて、ビニール製のプールに水を張り、マスをプールに放したところまではよかったんですが…どうも水温が高かったようで、マスたちの勢いはどんどんなくなり… 「マス釣り」はやむなく「マスすくい」大会に(笑)

大きなプールをつくって、巴川から農業用ポンプで水を引き上げ
マスを放してみたものの・・・「おもってたんと違う」
竿を垂らして、釣りの雰囲気は出てきましたが、真夏の炎天下。
マスちゃんたちはエサに見向きもしないのです!!

――ええええ…そこまでしたのに。

隊長
大失敗ですよ(笑)。利用者さんの想いを、叶えてあげることができなかった。だけど、僕らはあきらめません。2年目に再チャレンジします。いろいろ調べました。どうも魚には活性温度というのがあるようで、暑いと釣りエサも食べたくないようなんです。さらに、水も、川の水でなくても、カルキを抜けば水道水でいいことがわかりました。
 
ローリエ
とにかくプールの水温を冷たく保たなきゃいけないらしい、ってことで。ペットボトル4Lを100本、2Lを100本ぐらいに水を入れて冷凍しました。冷凍庫はそのボトルでぱんばんに。その後も、マス釣り大会を開くたびに、業務用冷凍庫が増えていきました。
 
隊長
利用者さんの「釣ったどー」という声は嬉しかったですね。久しぶりの釣りの感覚だったようです。釣りの後は、はらわたを出して炭焼きしていただきました。みなさんキラキラした目をしていらっしゃいました。こういうことって、利用者さんだけでなく、僕らだって嬉しいし。みんな楽しいでしょ?
 


ローリエ
「釣りをする」という目標(楽しみ)を持つことで、まず、利用者さんの心が動きます。次に、そこに向かって体が動く。そうすれば、生活のなかで自然にリハビリができる。失敗もしたし、準備には時間も人もお金もかかりましたが、不思議と疲れはなく「楽しかった~」がみんなに残りました。

マス釣りならぬ、「マスすくい」大会に!!
「こっちの方がはやく食べれるわね」
焼き上がったらこのとおり。風を感じながらいただくのはサイコーです。

―― これが伝説の「マス釣り大会」。その顛末をもっと聞きたい方は、ぜひ、次年度のマス釣り大会に参加してください。

つづく。


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