【R1-032-034】高齢女性の急性の頸部痛
【R1-032-034】
次の文を読み, 3つの問いに答えよ. 72歳の女性. 2日前から頸部痛が出現し,徐々に増悪して頸部の回旋が困難になった. また,本日朝から38°C台の発熱が出現した. 来院時の頸部単純エックス線CT画像を示す.
問題32:この患者でみられる異常所見はどれか. 1つ選べ.
a. 膀胱直腸障害
b. 耳介米粒大結節
c. 血清CRP値上昇
d. 血清抗CCP抗体上昇
e. 血清プロカルシトニン値上昇
問題33:この病態に関係するのはどれか. 1つ選べ.
a. 尿酸
b. HLA B-27
c. 頸部過伸展
d. 後縦靭帯骨化
e. ピロリン酸カルシウム
問題34:この患者に投与する薬物はどれか. 1つ選べ.
a. ジクロフェナク
b. アロプリノール
c. インフリキシマブ
d. メトトレキサート
e. サラゾスルファピリジン
解説
救急外来における頸部痛というとクモ膜下出血や髄膜炎, 化膿性脊椎炎など見逃し厳禁な疾患がパッと思いつきはしますが, この問題はまぁ違うのでしょうね. Vital signsの記載が無いこと, おそらくは意識障害はなく頸部痛以外に特記所見を認めないことから, あの疾患を考えることになります.
Keyとなるのは, 首の前屈・後屈に問題があるのではなく, 回旋運動が難しいということでしょう. そして典型的なCT所見.
ってことで, これは”crowned dens syndrome(CDS)”ですね. 疾患が想起できれば, それぞれの設問は難しくありません.
Crowned dens syndrome(CDS)
Crowned dens症候群は環軸関節の偽痛風であり, 1985年にBouvetらにより初めて報告されました. 高齢者(特に女性)に多く, 軸椎歯突起周囲にピロリン酸カルシウムまたはカルシウムヒドロキシアパタ イトが沈着することで生じます.
CDSを救急外来で診断するときには, らしさを見積もりながらも, 見逃してはいけない疾患をきちんと除外する必要があります. 頭部CTや腰椎穿刺を施行すべきとは思いませんが, 発症様式や随伴症状, vital signsがCDSで矛盾がないかを意識して対応する必要があります.
首を回旋させないように, そろりそろり歩いていはくるものの, 全身状態は決して悪くないというのが典型的でしょう.
もう少し若い世代で起こりやすい同じ様な痛みを引き起こす疾患として, 石灰沈着性頸長筋腱炎があります. CDSが頸椎後面なのに対して, この疾患は前面の頸長筋付着部に石灰化像が認められます.
洛和会音羽病院から, CDS46症例の報告がなされていますが, 『頸部の可動域制限を90%以上に認めたことから考えると, 診断基準を「外傷によらない急性発症の頸部痛(特に後頸部痛)で, 頸部に著しい可動域制限を伴い(特に回旋制限), CT上軸椎歯突起周囲に石灰化を認めるもの」とすれば診断特性を向上させることができるかもしれない. 今後の高齢化社会では日常診療でCDSに遭遇する頻度が増える可能性があり, 臨床医はこの症候群に習熟しておく必要があると考えられる』, と締めくくられています.
(坂口拓夢, 他. 当院で経験したCrowned dens症候群46症例の検討. 洛和会病院医学雑誌 Vol.27:43-46,2016)
参考文献
Bouvet JP, le Parc JM, Michalski B, Benlahrache C AL. Acute neck pain due to calcifications surrounding the odontoid processs:the crowned dens syndrome. Arthritis Rheum 1985:1417-20.
Oka A, Okazaki K, Takeno A, et al. Crowned Dens Syndrome:Report of Three Cases and a Review of the Literature. J Emerg Med 2015;49(1):e9-13.
答え:c(問題32), e(問題33), a(問題34)