101. 救急外来ただいま診断中
ミュージカル好き救急医の独白 vol.101
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
今回は夏休み期間なので簡単に自著の紹介をさせていただきます. 単著を書くのはなかなか大変なのですが, 一番書くのに苦労するのは, いつも序文だったりします.
私の1冊目は『三銃士』, 2冊目は『レ・ミゼラブル』, 3冊目は『フランケンシュタイン』とミュージカルネタを織り交ぜ記載していますので, 是非そこだけでも立ち読みしてみて下さい.
①救急外来ただいま診断中(中外医学社, 2015)
https://www.amazon.co.jp/dp/4498066820/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_LOPoFbDRVFKKK
②内科救急のオキテ(医学書院, 2017)
https://www.amazon.co.jp/dp/426003197X/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_uQPoFb14ED17Y
③あたりまえのことをあたりまえに救急外来診療の原則集(シーニュ, 2017)
https://www.amazon.co.jp/dp/4990950518/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_bQPoFbR6N5R3H
④...
今回のミュージカル
THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE(2020.8.14〜25)
本日もこちらから. Program Aの最終日, special guestは市村正親さんでした. 市村さんというと井上芳雄さんとのトークで話されていましたが, ミス・サイゴンのエンジニア役のイメージが強いですよね. 帝国劇場で何度観たことか. 初演からずーっと同役を演じ続け, 本来であれば今年も観に行く予定でしたが残念です. また必ずいっちゃんのエンジニアを帝国劇場で…
初日のLIVE配信とは異なる組み合わせで楽しませてくれたのがエリザベートのナンバーです. 井上トートと一路エリザベート, 初演は20年前で母と子の関係であった二人と思うと, 色々と感慨深いですね. さらにその後の”闇が広がる”も素晴らしかった. 今回は城田トートと古川ルドルフ, よかったなぁ. 城田トートは黄泉の帝王として最もマッチしていると勝手に思っています.
救急外来ただいま診断中
私が医師5年目の頃, 当時の上司から「本を書いてみないか」と驚きの一声をかけていただきました. 医師5年目というと, 2年間の初期研修医を終了し, その後救急の道で3年, ちょうど救急科専門医を取得するか否かといったタイミングです. 救急医としてはまだまだひよっこで, できた気になって天狗になっていた時期, そんな感じでしょう. そんな私に?なぜ?
初期研修医時代の救急外来当直
初期研修医の頃は救急外来当直が好きでした. 救急という場でしか経験できないことも多く, 心筋梗塞や大動脈解離, ショックといった急を要する重篤な疾患を経験し, 当直毎に自身の成長が感じられていたからです. さらに当直明けは早く帰ることができましたから(今でもできますよ), ミュージカルマチネ公演(※)も観に行くことができる, 最高ではないですか(笑). 当直明けにミュージカル, 眠くならないのかと質問されることもありましたが, まぁ好きな舞台は一切眠ることができない当直明けでも全く眠くならなかったですね(まだ若かったからということも大きく影響していると思いますが). 一度, 終演後に地下鉄で帰宅途中に車内で寝てしまって地下鉄をぐるぐるした経験はありますが...
※マチネ(matinée):フランス語で午前・朝という意味で, 舞台の昼の公演のことです.それに対して夜公演のことをソワレ(soirée)と呼びます.
救急医としての当直
そんな楽しかった当直ですが救急医となった後は状況は一変しました. ワクワクしていた当直がドキドキの当直となったのです. 初期研修医時代は, 当直中に困ったら頼れる上司がいました. 内科, 外科, そして救急医が必ずいたため, 重篤な疾患や急を要する処置もあまり困ることはなかったわけです.
自身が救急医の立場で当直するとなると, 当たり前ですが, 患者さんのマネジメントを自分自身で行う必要があります. 困ったらオンコールの先生など相談できる先生はいますが, その場にいないというのはやはり不安なんですよね. また, 救急医が対応する患者さんというのは, 急を要する患者さんが多いため, 瞬時に判断し行動しなければなりません. 時には救急車が到着後秒の単位で処置を行ったり薬剤を投与しないといけない場面もあります. さらに, 集中治療室(ICU)の患者さんなど入院患者さんも対応しながらの当直です. 恐い思いも沢山し, 当直が終わる度に, 「今日も一日を生きのびた〜」とレミゼのバルジャンの如く1日を振り返ったものです(②内科救急のオキテの序文参照).
初期研修医時代には頼れる上司に救われていた訳ですが, 救急医の立場として頼れる存在は, さらに上司, ではなく初期研修医でした. 内科や外科の当直の先生方, さらには救急科のオンコールの先生へ連絡し相談することもありましたが, やはり力になるのはその場で共に働いている医師でした.
しかし, 私がそうであったように初期研修医というのは知識も経験もないため, こちらが期待している動きがいきなりできるわけではありません. 私もなんど怒られ注意されたことか. そこで始めたのが勉強会でした.
勉強会といっても, たいしたものではなく, はじめは自身で救急外来で出会う頻度の高い症候に関して, 数人の研修医と医局の片隅で偉そうに教えていただけです. 研修医時代からチョコチョコまとめていたwordをコピーし配布, それを上からなぞりながら適宜質問に答えていく, このような形で行っていました. 参加者は希望する研修医で強制は一切しませんでした. 時間も私が確実に開催できる時間として20時開始と遅めで設定していたため, はじめは3名ぐらいに向けて行っていたと記憶しています. 月に2回程度行いながら徐々に参加人数は増え, 数ヶ月後には10人以上となったため, 部屋を借りて行うようになり, そのタイミングでwordを配るのではなく, keynote(Macユーザーの私はPowerPointではなくこちらに手を出しました)で資料を作成するようになりました.
成長するのは自分自身
初めのうちは救急外来当直中に質問されることや, 指導する内容に向けて, 研修医のためにと思って勉強会を行っていましたが, すぐにこれは自分のためだと気付きました. 勉強会で最も成長するのは自分自身なのです. わかりやすく伝えるためには, 自身で教える内容を十分に理解し, それを相手のレベルに併せてかみ砕き説明する, さらに興味を持って貰うように話し方に工夫も必要となります. また, 飽きさせないための工夫も必要です. さらに, 研修医からの鋭い質問もあるため, その都度必死にこちらも調べます. 会を重ねる毎に自身の知識の定着が以前と比べると変化があることが実感できたのです.
その後コツコツ続け, 数年後には院外の研修医や看護師, 技師, 救急隊の方も参加していただけるようになり, 30名程度の規模で開催するようになりました. その間いろいろなことがありましたが, いまでは全国の先生方へ話をする機会もいただけるようになり感謝しています.
この勉強会が元となってできあがったのが, 『救急外来ただいま診断中』です. 話をいただいてから2年半の時間がかかってしまいましたが, 出来上がった本を手に取ったときには感動しましたね. 2015年12月初版ですが, ありがたいことに現在第6刷と多くの方に読んでいただいております. そろそろ...