【R1-066-068】 20歳代男性の熱中症の対応
【R1-066-068】
問題 66-68 連問:次の文を読み, 3つの問いに答えよ. 25歳の男性. 夏季の空調設備のない屋内で球技試合中に倒れ込み,呼び掛けに反応しないため搬入された. 既往歴に特記すべきことはない.
現症:意識レベルJCS100, 直腸温41.2°C, 呼吸数40/分,脈拍144/分・整,血圧 90/52mmHg. 四肢に強直性痙攣があり,持続している.
血液所見:赤血球510 万/μL,Hb 15.1g/dL, Ht 49%,白血球 15,000/μL,血小板 5万/μL,PT-INR 1.92.
血液生化学所見:クレアチニン 3.8mg/dL,総ビリルビン 2.7mg/dL,AST 468U/L,ALT 622U/L,CK 16,550U/L.
問題 66:この病態に最も影響する環境要因はどれか. 1つ選べ.
a. 標高
b. 気圧
c. 風速
d. 湿度
e. 日照時間
問題 67:この患者に冷却を行う. 冷却を中止する指標となる中心部体温はどれか. 1つ選べ.
a. 36°C
b. 37°C
c. 38°C
d. 39°C
e. 40°C
問題 68:この病態の冷却に関して正しいのはどれか. 1 つ選べ.
a. 補液と安静で対応できる.
b. 体腔冷却が最も迅速である.
c. 非ステロイド性抗炎症薬を用いる.
d. 体外循環で冷却するには熱交換器を用いる.
e. 体表冷却では温水より冷水の噴霧が有用である.
解説
熱中症であることは即座に判断できると思います. 重症度に寄与する因子はなにか, そして一般的な管理が問われています.
熱中症の定義
暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称. 「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで, 他の原因疾患を除外したもの, と定義されます.
熱中症のリスク
湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature;WBGT)が暑さの指標として推奨されています. WBGTは, 気温だけでなく, 湿度, 輻射熱からなり, 表の様に算出されます.
WBGTが28℃を超えると危険とされます. WBGTは, 環境省熱中症予防情報サイトから確認することが可能です. 今日は危険な日なのか否か, 確認する癖を持っておくとよいでしょう.
環境省熱中症予防情報サイト↓地方, 都道府県, 地域をタブから選択すればすぐにWBGTがわかります.
https://www.wbgt.env.go.jp/graph_ref_td.php
熱中症の重症度
◯日本救急医学会熱中症分類2015
熱痙攣, 熱失神, 熱疲労, 熱射病と以前は分類されていましたが, 現在は表の様にⅠ〜Ⅲ度に分類されます. 名前による重症度の認識の誤りや, 重要なことは早期認識であり, 重症化させないことが重要であるため, このような分類になったのでしょう.
救急外来へは, Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ度の順に多く, 重症の熱中症よりも軽症の患者の方が多いの現状ですが, 対応が遅れれば重症化してしまいます. Ⅲ度熱中症は可能な限り迅速に体温を下げつつ全身管理が必須となるため, 人を集めて対応する必要があります.
体温は腋窩温や皮膚温, 口腔温ではなく, 膀胱音や直腸温など深部体温を確認しましょう. 低体温のときも同様ですが, 腋窩温に1℃足すなどはせず必ず深部体温を測定することをお勧めします. 正常体温の場合には腋窩温と深部体温は1℃程度の差ですが, 熱中症や偶発性低体温症の場合には, 原因や発汗などの影響で単純に計算できるものではありません. ”深部体温”を正確に把握し, 対応しましょう.
◯より重症な患者さんを判断するために
熱中症の重症度スコアとして熱中症分類修正版が報告されている. 意識障害の程度や腎機能, 肝機能, DICの程度に応じたもので, 4点以上で予後不良と報告されており, Ⅲ度と判断した症例の中でも特に注意すべき患者さんを診察時から判断できる. 治療自体が変わるわけではないが, 早期に危険なサインに気付くことは診療の場を決めるうえでも大切であり頭に入れておくとよいでしょう.
熱中症の治療
軽症であれば経口補水液, 飲水が不十分であれば細胞外液の投与で対応可能です.
重症熱中症の特徴である意識障害などの中枢神経症状, 腎機能障害, 肝機能障害, DICなどの多臓器不全を認める場合には, 積極的冷却を行い全身管理が必要となります(熱中症重症度スコアの項目です).
根本的な治療は, 速やかに有効な冷却を行うことですが, 確固たる冷却方法は確立されていません. Cold water immersionといって, プールなどを利用し全身を冷やすことも有効性は示されていますが, 本邦では普及しているとは言えないのが現状です.
◯目標体温
深部体温が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり, 38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう(問題67はcが正解).
◯体表冷却
最も一般的な冷却方法です. 気化熱を利用します. ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ, 扇風機などで扇ぐとよいでしょう.
答え:d(問題66), c(問題67), d(問題68)
参考文献
日本救急医学会熱中症に関する委員会;熱中症の実態調査 - 日本救急医学会 Heatstroke STUDY2012 最終報告 - . 日救急医会誌. 2014 ; 25 : 846-62.
神田潤, 三宅康史, 門馬秀介, 他:熱中症重症度スコアと予後の関係. ICUとCCU 38:411-417, 2014.
神田潤, 三宅康史, 樋口遼, 他:重症熱中症の障害臓器と転帰の関係. ICUとCCU 40:789-796, 2016.