救急外来で乳酸値の上昇をみたら
救急外来で血液ガスを採取する機会は非常に多いのではないでしょうか. 敗血症やショックなど乳酸値の上昇の有無を確認することはよくあるでしょう. 循環不全や低酸素など状態が悪い患者さんでは乳酸値が上昇していることが多く, その他, てんかんなどのけいれん後などにも上昇が認められます.
乳酸値の上昇を認める病態はその他にも存在します(表). その中でも特に意識しておいてほしいのがビタミンB1欠乏です. ビタミンB1は十分な食事が摂れていなければ2-3週間程度で欠乏してしまうため, アルコール多飲者以外にも体調を崩し食事量が減ったり偏ったりすれば足りなくなることはあるのです.
救急外来では, 高齢の患者さんが非常に多いですが, 如何なる主訴で来院しようとも, 食事摂取量が低下していそうだなと思われたら常にビタミンB1の必要性は意識しておくことをお勧めします. 「ご飯はそれなりに食べている」と患者や家族が訴えても, それのみで十分栄養は摂取できているなどと判断し, ビタミンB1投与を躊躇してはいけません. 何をどの程度食べているのか具体的に確認し, 根拠をもって対応するようにしましょう. 利尿剤を内服している場合には, ビタミンB1の排泄が促進されることもお忘れなく.
ビタミンB1が欠乏して引き起こされる病態(脚気心, 胃腸脚気, Wernicke脳症など)は, ビタミンB1を投与すると比較的速やかに症状は改善します. 乳酸アシドーシスもまた同様で, 来院時pH 7.0を下回っていた乳酸アシドーシスがビタミンB1を投与後数時間で改善することを経験します. もちろん, 敗血症など他の原因や合併も考える必要がありますが, ビタミンB1は経静脈的に補うだけですので効果を見る意義は大いにあります. 意外と忘れるものですから常に意識しておきましょう.
参考文献
#1. Wardi G, Brice J, Correia M, et al. Demystifying Lactate in the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2020 Feb;75(2):287-298. PMID: 31474479.
#2. 坂本壮. ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?救急外来ここだけの話. 医学書院.
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