128.重症度を正しく見積もるために
ミュージカル好き救急医の独白 vol.128
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
新型コロナウイルス感染症の第5波は徐々に収束しつつあるものの, まだまだ患者数は多く, 自宅療養者も多い状況です. コロナは急速に悪くなるから大変, 自宅で様子をみているうちに具合があっという間に悪くなり亡くなるケースも...そんなニュースも流れていますが, それならば一体全体どうしたらよいのでしょうか.
救急外来では肺炎など『息苦しい』ことを訴え来院する患者さんが多く来院します. そんなとき我々救急医はどのような点に注意して, 帰宅, 入院の判断をしているのでしょうか. 本日はその辺りのお話を.
今回のミュージカル
メリリー・ウィー・ロール・アロング(MERRILY WE ROLL ALONG)
2021年5月に新国立劇場(中劇場)で行われたミュージカル. 平方元基さん(1985年12月1日生まれ), ウエンツ瑛士さん(1985年10月8日生まれ), 笹本玲奈さん(1985年6月15日生まれ)という同級生3人, そして昆夏美さん, 今井清隆さん, 朝夏まなとさんといった実力派のキャストで日本初演を迎えました.
平方さん演じるフランクが名もなき作曲家からブロードウェイで大成功をおさめるストーリーですが, そこまで上り詰めるにはいろいろなことが...フランク, チャーリー(ウエンツ瑛士), メアリー(笹本玲奈)が20年前に一致団結し走り始めてからなぜこのようなことになってしまったのかを逆再生で描いています. あのときこうしていれば..., あんなこと言わなければ..., 自分とは全く異なる環境ですがいろいろと考えさせられるミュージカルです.
これからどのようなことが起こるのか, 人生は予測不可能なことは多いですが, 肺炎の一般的な経過は決まっています. そして重症度の評価もある程度確立しています.
ってことで, 今回は肺炎患者において悪化してから慌てるのではなく, その前にどこに注目するべきなのか, そんなお話を.
救急外来あるある
74歳の女性(CSさん)が呼吸困難を主訴に救急外来を受診しました. 2日前から発熱, 咳を認めているようです.
研修医:「今日はどうされたのですか?」
Pt.CS:「なんか息苦しくて...」
研修医:「酸素の濃度(SpO2)を測らせて下さい.」
Pt.CS:「あ, はい. 」
研修医:「95%ありますね. 大丈夫そうですね. 一応レントゲンを確認しましょう.」
..........
研修医:「レントゲンも大丈夫そうですね. 解熱薬を出すので様子見て下さい.」
Pt.CS:「あ, はい...」
Dr.S:「ちょっと歩いてみましょうか. 」
..........
Dr.S:「息苦しいですか?酸素の濃度もう一回測りますね.」
Pt.CS:「はい, ちょっと苦しいです.」
Dr.S:「ですよね...(SpO2:92%)」
研修医:「...」
肺炎の重症度
目の前の肺炎の患者さんの重症度を評価する際に, どこに注目して判断すればよいのでしょうか. 肺炎と聞くと, コロナによる肺炎を今では真っ先に考えるかもしれませんが, コロナ以外にも肺炎球菌やレジオネラといった菌でも肺炎は起こり, また, 誤嚥性肺炎といった口腔内の菌が問題となることもあります. 原因のウイルスや菌によって入院の判断が異なることもありますが, 一般的には患者さんの全身状態によって入院か, それとも外来で治療可能かを判断します.
肺炎球菌など病院外で起こる肺炎を一般的に市中肺炎と呼びますが, その重症度はバイタルサインで概ね判断可能です. 意識状態, 呼吸数(酸素濃度), 血圧などに着目し判断します.
誤嚥性肺炎は脳卒中や認知症などで寝たきり, 嚥下(飲み込み)に問題がある方が起こすのが一般的ですから, 普段から抱えている病気の重症度なども考慮し重症度判定します. 食事がきちんと摂れなければ薬を飲むのも大変ですしね.
COVID-19の重症度分類
コロナによる肺炎の場合には重症度分類が示され, 軽症・中等症Ⅰ(呼吸不全なし)・中等症Ⅱ(呼吸不全あり)・重症の4段階に区分されています. 中等症ⅠかⅡかがしばしば問題になり, 93%<SpO2<96%であれば中等症Ⅰ, SpO2≦93%であれば中等症Ⅱとなり, 中等症Ⅱでは酸素投与が必要となります.
重要な点は酸素飽和度よりも症状を重要視することです. 例えSpO2が95%あったとしても, 患者さんの呼吸困難症状が持続している場合には注意が必要となります.
COVID-19重症度分類(医療従事者が評価する基準)
普段の動作でSpO2が低下しないか評価しよう
救急外来を呼吸困難(呼吸が苦しい, 息苦しい)を主訴に来院した患者さんにおいて, 帰宅可能か否かを判断する際には, 必ず安静時だけでなく, 動いてもらい評価します. 具体的には, 普段独歩可能な方であれば, 歩いても症状が再燃しないか, その際のSpO2が低下しないかを確認します. 杖歩行の方の場合には杖を使って, 車椅子の方は自身で移乗してもらい動いてもらいます. 動く方が当然酸素の必要量は増しますからね. これを怠り, ストレッチャーや車椅子上での安静時のみの評価で判断してしまうと, 帰宅後に動いたら苦しくて, 再度来院する際には状態がかなり悪化...ということがあるのです.
コロナで自宅療養している方においても, ベッドで寝ているときに指にサチュレーションモニターを挟んで数値をみるだけでなく, トイレや台所に移動しある程度自宅内で動いた後に測定してみるとよいでしょう. それでも症状の増悪がなく数値が下がっていなければ過度に心配しすぎる必要はありません. 安静時には95%あっても, 動くとなんだか息苦しくSpO2が低下する場合には, それを伝え受診や診察のタイミングに役立てるとよいでしょう.
♪ 過ぎた日に別れをつげて
僕らの旅は旅は 始まる
めくるめく 景色の中を
僕らの夢を夢を 探しに
出かけよう 出かけよう 出かけよう ♬