製品特性と遮音効果
住宅や音楽室の防音設計において、軽視されているのが「素材の特性効果」「周波数特性と遮音性能」「建築材・防音材の組合せ方」です。
この3つの要素は、遮音設計マニュアルでは、殆ど記載がなく、防音材についても一般論的な言及しかなく、具体的な製品選定のガイドラインになっていません。
私が約28年前に、自分で設計しようと思った契機が、専門業者の防音工事の失敗事例でした。そのときに、彼らは素材の周波数特性(透過損失・吸音率など)を考慮していないことに気が付きました。鉛の遮音パネルとグラスウールだけの愚かな対策でした。
当時は、私も勉強不足で半信半疑で期待したのですが、まったく効果がなく、むしろ逆効果になる種類の音もあり、これが専門業者の実態なのかと腹が立ちました。この経験が、のちに私が防音設計の専門家として、自分独自のオリジナル仕様を開発するための反面教師になりました。
素材の特性効果
防音材や建築材の特性・防音効果を評価する指標として、透過損失と吸音率があります。これに加えて、軽視されているのが「制振性能」「絶縁効果」です。たとえば、空気音の評価である透過損失が大きな遮音材であっても、振動音の制振性能が低い素材(防音材・建築材)があります。
典型的な製品としては「硬質遮音パネル(鉛ボード・ALCなど)」「硬質シージングボード・石膏ボード」ですが、音を吸収する特性が小さいため、振動音など個体伝播音を減衰させることが出来ません。
一方、樹脂の遮音ゴムマットやアスファルト遮音材は、柔軟性があり制振性能も兼ね備えた防音材ですので、天井・壁・床など幅広く使用できます。
絶縁効果の高い高密度フェルトは、遮音材に比べて軽量ですが、振動音を減衰させることが出来ます。透過損失・吸音率のみでは評価できない製品です。このように素材の特性を考慮して目的に応じた防音構造を構築することがプロの設計・施工技術です。
周波数帯の遮音性能
他の記事でも説明しましたが、防音材に限らず、一般的な建築材にも周波数特性があり、透過損失(空気音に対する遮音性能)だけでなく、吸音性のある素材(木材など)には吸音率の特徴があります。
専門的な防音材の傾向として、市販品は概ね250Hz以下の周波数帯のうち特に100Hz以下の低周波の領域の遮音性能が低いという弱点があります。多用される石膏ボードも同様な傾向を持っています。また、2000Hz以上の周波数帯において、コインシデンスと呼ばれる遮音低下が起きる製品が多く、製品選定には注意が必要です。
防音設計の実務においては、防音材だけでなく、建築製品の遮音特性を把握しておく必要があります。
組合せによる防音効果
特に木造においては、上記の「素材特性」「遮音性能」に十分留意して設計することが費用対効果や音響を大きく左右します。
最も重要なのが、比較的薄い素材や構造で費用対効果(防音性能)の高い設計仕様を立案することです。木造においては、分厚い構造体は物理的に制約があり、小規模な音楽室では、防音構造を出来るだけ薄くすることが求められます。
防音材および建築材の組合せ方や工法によって、薄い構造でも防音効果を高めることは可能です。見えない部分の「天井裏・壁内・床下空間」「軸組み・下地構造」における工夫も合わせて重要な要件です。
約30年経過しても、防音業界は同じような課題が解決されていない、設計・施工手法もレベルアップしていないという状況があります。
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