机上の理論を補正するのが防音設計の本道である
木造住宅でもマンションでも机上の理論に過ぎない簡易計算式(質量則)だけで防音設計を論じるのは素人です。実際の現場では、実験室のようなデータ通りの効果は出ないし、まして実物実験の検証もしていないような計算式を振り回して設計するのは論外です。
ところが、現実の専門業者や音楽室を設計する建築士は、その理論式や計算式を多用します。ですが、マンションの二重天井の防音設計も木造防音室も過大な構造体を構築したり、過剰な防音材を投入するなど、現実的な費用や建物の耐久性を軽視しています。
ピアノ室においては木造の特長を台無しにするだけでなく、費用対効果も音響効果も低い音楽防音室を造っています。取引先の建築士も防音性能にこだわりすぎて、音楽室の目的や木造の長所を見失っています。
質量則の理論式の欠点
ネット上に出てくる遮音性能の計算式は、構造体の面密度だけを考慮して計算する理論式であり、素材の持つコインシデンスや遮音特性(周波数帯別の特性)を無視していますので、例えば石膏ボードを重ねて重くするだけの計算で構築すると、素材の持つ弱点はあまり解消されずに構造体の自重ばかり大きくなり、普通の木造住宅では長期荷重など耐久性に問題が生じます。
このため、実際の防音設計では重い防音材だけでなく、吸音層を構成する軸組や吸音材、構造体の振動を制振する補強・制振層を合わせて構成します。とくにグランドピアノやチェロのような固体伝播音をかなり発する楽器の対策には重要になってきます。
木造やマンションの天井に荷重量な構造体を構築してもリスクが有り、空間を無駄に狭くするだけの資産価値の低い生活空間になってしまっては本末転倒です。生活空間を豊かにする、あるいは必要な防音機能をバランス良く成立させるのが防音設計の技術だと私は思います。
机上の理論は現場の検証・体験で補正する
防音材を試験的に組み合わせて実験すると、相乗効果が得られることが体験できます。私は自宅マンションと担当した現場で体感しました。この経験をもとに机上の理論を補正し、独自の防音設計を作りました。
取引先の建築士に自腹で測定費用を支払い、担当した現場の精密測定を実施し、取引先や相談者からも事例情報や製品情報を貪欲に集め、建築以外の分野から専門の防音材を取り寄せ使いました。この中から選びぬいたのが、ホームサイトに掲載している受注生産の防音材です。市販の防音材との違いを自分で施工してみて学びました。
ネットで防音業者などを検索すると、訳のわからないような業者が沢山出てきますが、どんな分野でも、よくあることです。何を信じるかは、施主や依頼者の選択眼や運にかかっています。
私が警鐘を鳴らしても、相手の心に届くかどうかは分かりません。専門業者や建築士でも理解できないようことを、一般の人たちに理解していただくことを期待しても無理があります。
大きな制約は新築業者と理解のない施主
新築業者の中には既製品の防音材以外は使えないといい、非協力的な対応をされることは珍しくないです。防音材はみな同じだと思っているからです。防音設計という存在そのものを知らない住宅業者も少なくないです。
施主も新築業者を説得できなかったり、めんどうな調整を嫌がり、新築業者に丸投げしている人も居ます。これでは良いものは造れないでしょう。
私の案件は、理解のない新築業者や施主との意見調整が出来なくて辞退することがあります。先日の理解のない施主をサポートして良い方向に転じさせた良心的な建築士も居ますが、これはレアケースです。
日本の新築業者のレベルが低いことも問題ですが、施主も自ら勉強すべきだと思います。一生の買い物ですから、時間をかけて調べるべきです。
今年は、建築士からの要望で契約した件や、新築業者が防音工事を拒否した件が多かったです。前者は問題がないのですが、後者は新築の段階でのオプション対応を新築業者がどこまでやってくれるかで費用対効果が決まります。施主の誠実さや理解が現場の出来を左右します。
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