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新築木造の防音効果の考察

過去数年間(2021~2023年)の新築木造建物の「住宅と音楽防音室」の防音効果を分析・考察してみました。
*リフォーム物件は、見えないブラックボックス的な要因が多いため客観的な分析が難しいので、今回は除外しました。

主な観点は「構造的な軸組・面材補強」「壁・床下の断熱吸音材」「木材と防音材の相乗効果」です。
考察の根拠となる分析資料は、担当現場における提携先の測定データ及び依頼者(施主)のご報告内容ですので、第三者の測定専門業者による精密測定と比較すると多少の誤差が出ます。
主に傾向を分析して、今後の防音設計に生かすための考察であることをご理解ください。

なお、過去約20年間の担当事例も比較対象として考慮していますので、木造軸組在来工法における分析としては、今回の考察は概要のまとめになります。書籍や既往の事例報告にはない生の体験報告と現場担当建築士の調査結果ですので、貴重な資料と言えると思います。

構造的な軸組・面材補強

木造住宅の生活防音と木造音楽室における防音効果を分析すると、壁と床の軸組補強と合板等による面材補強によって、概ね中低音(約500Hz以下の周波数帯)についてプラス効果となる傾向があります。
これは剛性がアップすることによって壁面や床面の制振性能が向上することによって、遮音性能と振動抑制効果が高まったと考えられます。

例えば、足音やピアノなどの振動音は、大引または床梁の間隔を通常より狭くすることによって抑制効果が高まり、壁面も同様に軸組の間隔を調整することによって制振性能が大きくなる分、透過損失など総合的な遮音性能が高まると考えられます。
これらの手法は、木造に慣れた職人であれば問題なく施工できるので、防音専門業者よりも経験的に理解している内容です。
このため、防音工事を特殊なものとして捉えるのではなく、木造の伝統的工法や木材を生かす設計仕様を重視することで確実に実現できます。

また、面材としては一般的な構造用合板の厚さ・素材(樹種など)を考慮することにより、音響調整を含めて共振抑制などの補強は比較的簡単に出来る内容です。木造軸組在来工法にマッチした工法と言えると思います。

壁・床下の断熱吸音材

最も失敗の多い事例が断熱材の選定です。通常のグラスウールやロックウールを使用すれば問題は殆ど起こらないのですが、高気密断熱だけに特化した発泡断熱工法を適用すると吸音性能が大幅に低下する分、遮音性能が低下します。

また、専門的な吸音材は防湿フィルムに包まれていない裸の製品が一般的であり、概ね密度は60kg/m3以上となります。
製品選定を間違えると防音効果が伸びないだけでなく、余計に構造体の厚さを大きくすることになり、費用対効果が悪くなりますので、要注意です。

吸音材の製品データは、背後に空気層がある場合と無い場合では効果が異なるので、建物の構造や内部空間の奥行き(厚さ)に応じて確認する必要があります。一般的に厚さ10センチから20センチ程度の壁は内部に空洞を生じないように吸音材を充填することが重要です。

なお、ピアノ防音室の床下空間においては、必ず吸音性のある断熱材を使用して反響を抑える工法が必要です。

木材と防音材の相乗効果

ネットを検索したり、書籍など文献を探しても出てこない情報が「木材と防音材の相乗効果」に関するものです。

大半が専門家の経験値による補正によって防音効果が左右されるため、実績のない専門業者には設計仕様として確立されていない分野です。
しかも、防音材の組合せや一般建材との構成の仕方は、建物構造や用途に応じて調整するものであり、金太郎飴のような仕様では対応できません。

防音設計の仕様や詳細な施工要領によって、必要となる構造体の厚さは異なります。できる限り薄い防音構造で必要な性能を確保するためには、多くの実例分析が必要なのです。
非常に手間のかかる分野であり、今まで防音業界が軽視してきた内容です。

一般的に合板類は遮音材として分類されますが、使い方によっては制振材としての機能を発揮することが出来ます。針葉樹の無垢材は吸音性のある音響材としても効果的であり、総合的な防音効果にもプラスに作用します。
木材・木製品と相性の良い防音材を使用することによって、比較的薄い防音構造を実現する事が出来ます。

未だ、この分野は、研究の余地があり、今後の製品開発にも期待したいものです。間伐材や廃材を活用したリサイクル製品も出始めています。
木造建物は、やはり木材・木製品の活用が重要であり、職人の得意な伝統的工法を活かしていくことが、快適な木造住宅や木造音楽室づくりに繋がっていくと思います。

防音職人は今年の夏で独立開業20年となりますので、今後は今までの担当事例の分析に力を入れたいと考えています。ホームサイトとセットになる情報サイトについては、分析事例や設計・工法に関する投稿記事を適宜リンクして、トップページをわかりやすく改変する予定です。
なお、防音設計の基本事項は次のサイトにも掲載していますので、参考にしてください。→防音設計の常識


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