木造ピアノ音楽室の思い出
私の小・中学校時代は、半分が木造校舎で半分がコンクリート構造の建物でしたが、音楽室はすべて木造でした。
床や建具は全て木材で、壁の一部には穴開きボードが、天井には吸音化粧板が貼り付けられ、オルガンやピアノは、板張りのステージに置いてありました。
その音色は素朴で温かいものでした。それが当たり前のような環境に育ったので、音楽室は「木造」という意識 が常にありました。防音設計の道に入ったときから、木材の活用が音響・遮音対策の重要なポイントでした。
一方で、業界では金太郎飴のようなボックス型の防音室が主流であり、窓業者が二重サッシュにすれば防音室ができると平気で誇大広告をぶち上げる状況に腹立たしく思い、約18年前から自分で設計施工して手掛けるようになりました。
そのような時に、一人の女性プロピアニストに出会いました。
無垢の木材を再認識できた音響・防音設計
彼女は、山陰のある地方都市から深夜バスに乗って、私に会いに来てくれました。(私は当時、東京の国立駅南口直近の馴染みの店で予約席をいつも確保して打合せをしていました)お話を伺うと、東京の音楽大学を卒業されてイギリス方面に留学してからプロデビューをされたようです。
活動拠点のイギリスから帰国されて、ご実家にピアノ防音室をリフォームで造るために、音響・防音設計を依頼するための専門業者を探していたということです。その中で、私のウェブサイトをご覧いただき、「木材を生かしたコンパクトな防音設計」が気に入ったので、仕事を依頼したいということでした。
設計の方針は「無垢材の羽目板とフローリング」を使用することと、部屋を狭くしないということでした。最大の難点はD-65以上の防音性能を目指すことでした。しかも木造軸組在来工法の木造住宅を改造して造るという、非常に興味深くて難しい課題です。東京の専門業者には殆ど最初から無理だと断られていたようです。
色々と工夫しながら、石膏ボードを殆ど使用しない木材中心の内装や下地構造に私の防音材を組合せて、なんとかご予算に収めることができました。防音工事は地元の工務店が担当しました。実は彼女は、偶然にも私と同郷だったのです。なので工務店には私が同郷であることを伝え、一生懸命に施工してくれるように東京からプレッシャーを掛けました(笑)。
苦労して出来あがったピアノ防音室は、依頼者の満足できるものとなり、私にとっても貴重な経験になりました。木材の音響・防音効果を実証できた上に、杉無垢材がグランドピアノとマッチすることを確かめることができました。(※依頼者の事情で写真は掲載できません)
依頼者のご報告・感想
(以下、依頼者の生の声を、個人情報を伏せて掲載)
『苦労して出来上がった防音室は、防音リフォームを担当した職人が驚くほどのピアノ(スタインウェイ)の大音量が鳴り響く中でも、戸外では殆ど聴き取れないほどのかすかな音になり、皆さん、その防音効果にとても驚かれたようです。
無垢杉材のフローリングと出入口正面の無垢杉羽目板などで造ったピアノ室は音がよく伸び、すばらしい音環境になりました。音漏れは床下換気口(通気口)から、かすかに聴こえるレベルなので夜間でも暗騒音にマスキングされて問題ないです。スタインウェイのグランドピアノは、500Hzにおいて115~120dB程度の音が出ますので、壁の遮音性能はD-65~70程度はあると思います。
お仕事のほうキャンセルなど苦労されているようですが、プロのピアニストは私も含めてわがままな人が多いので(笑)、あまり気にしないでください。このたびは、ありがとうございました。』
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