木造2階に大型ピアノを設置した防音室
この事例は、ヨーロッパで演奏活動していたプロピアニスト(依頼者)が、帰国されてからピアノ教室を開くための木造防音室です。木造軸組在来工法の建物ですが、元々すでにヤマハのクラシックな大型ピアノが設置されていました。
ヨーロッパで使用されていたスタインウェイのグランドピアノを持ち帰って一緒に設置して使うということで、約8帖の2階の部屋に写真画像のように壁ギリギリで配置しています。少しでも防音設計を誤るとピアノが入らないという厳しい条件で計画しました。
薄型の防音構造の設計
既存の木製防音ドアの修理と、取付けている枠材と壁のクリアランス(隙間)がわずかしか無く壁防音の厚さは最小で20ミリ、2台の大型ピアノの配置上の制約で最大約40ミリしか防音施工ができないという状況でした。
近所への迷惑にならないことを最優先して費用対効果の高い構造を設計しました。使用したのは防音材(受注生産)と木製品だけです。石膏ボードは反射音が強くなるだけでなく、音響が悪化するので使用しませんでした。
床の補強と制振対策
天井高に余裕がなく、防音工事の費用も少し足りない状況でしたので、床を構造用合板で補強して制振材を重ね、タイルカーペット仕上げにしました。仕上材を含めて約40ミリの対策です。
概ね他の専門業者の仕様の1/3の厚さです。予想以上に防音効果が出て、階下への音漏れは、ご家族及び依頼者本人が驚くほど小さくなりました。それはそうです、名器であるスタインウェイの大型ピアノですから、プロが普通に演奏すると爆音が出ますので。
やはり、構造用合板の補強という地味な対策が効果的に作用したと思います。それと相性の良い防音材の相乗効果です。
依頼者の評価
依頼者はプロピアニストであり、いままで広い部屋でピアノを演奏していたので、それと比べると無理だろうという予測はありました。
しかし、ご本人が満足できる音響・防音レベルになり、他の専門業者では、予算的にもスペース的にも相当難しい条件をクリアできたことに驚きがあったようです。ただし、2台の大型ピアノ同士の間隔はわずか数センチしかないので、ピアノ同士の反射が起きます。
そこで、ピアノの真下にポリエステルの厚いクッション(市販品)を敷いて調整することを提案しました。これでさらに音響調整がやりやすくなります。依頼者も納得されていました。
防音室の完成後に、音響チェックをして私が現場から帰るときの依頼者の表情を見れば、うまくいったことは明らかでした(笑)。蛇足ですが、依頼者は非常に綺麗な顔立ちのピアニストでしたが、非常に親しみやすい言葉遣いで、決断も早く、聡明な人でした。
ですが、リクエストされた内容は、私の担当現場の中でも5本の指に入るくらいの難しい現場でした。最初から「お金がありません」と、フレンドリーで、にこやかな表情で初対面で言われたのが印象的でした(笑)。期待を裏切ること無く約束を果たすことが出来て、本当に良かったと思います。
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