見出し画像

木造と防音材の研究概要

今まで投稿してきた内容も含めて、複数の観点から分析してきた防音材とくに木造建物において施工し、その効果を観察した内容を中心に概要を述べます。前提として市販品と施工経験がある受注生産の防音材に限定します。
*防音相談において相談者からいただいたサンプルや経験談も加えます。
*取引先の防音設計専門の建築士や提携先の建築士・職人の施工実例も分析対象となります。

分析対象の建物は主に「木造住宅(賃貸併用・仕事場含む)」「木造防音室(ピアノなど音楽室・シアター等)」です。
前者は「生活防音」、後者は「音楽教室・趣味の音楽室」が主な用途です。

防音材の分類

制振材と吸音材は今までの投稿記事で複数回述べてきましたので、また新たな情報を入手した段階で触れることにします。
今回は遮音材について分析した内容の概要を記したいと思います。

防音材は「遮音材」「制振材」「吸音材」の総称です。これらを総合的に構築するものが「防音設計」です。※防音材イコール遮音材ではありません。
遮音材だけでは防音設計は成立しません。

木造に限らず、マンションなどコンクリート構造の建物においても、「防音設計の基本は遮音材・制振材・吸音材を組合せて構築する」ことです。
その中でも、遮音材は多種多様な製品があり、選択肢が多く悩む場面が少なくないと思います。

理想的な遮音材の特徴・留意点

ここでは木造と相性の良い防音材の主役として「遮音材」について説明します。遮音材は基本的に面密度が透過損失(遮音性能)を左右することには、どの専門家も異論はないと思います。

重要事項は木造の特徴である吸音性の有る構造体・駆体(天井・壁・床の軸組及び構造下地材)と相性の良い遮音材を選ぶことです。
そして相乗効果を発揮できるような防音構造体を構築するための防音設計技術で効果の大半は決まります。
もちろん、適切な施工要領が不可欠です。

理想的な遮音材には、面密度が大きくて柔軟性が有り、制振性能を兼ね備えた製品であることが重要です。柔軟性は使用する部分や施工手順によって検討します。ただし、特定の周波数帯で振動音と同調する製品が存在するため、これに注意する必要があります。※固体伝播音の共振体となる現象です。
また、コインシデンスによって特定の周波数帯で大きな遮音低下が起きる「硬質遮音材(石膏ボード・硬質シージングボードなど)」の併用の仕方によって木造建物における防音効果は差が出ますので、防音設計においては製品の持つ特性を十分に把握したうえで設計仕様(具体的な製品選定を含む)を決めます。

ちなみに、木材製品には遮音性・吸音性があり、ラーチ構造用合板のように制振材の補完機能を有する製品は遮音材及び制振材との相乗効果が期待できます。

余談ですが、某メーカーの遮音ゴムシート(遮音材)の施工要領は、酷すぎますね。つなぎ目のシールも他の遮音材と重ねるときの注意点も抜けており、製品の性能以前の問題です。市販の防音材って、こんなに安易に販売するだけのものなのか?
壁と床の納まりの説明も良くないです。

コインシデンスと質量則の限界

前述したように、硬質遮音材にシフトした質量則による防音設計は費用対効果が低くなるだけでなく、コインシデンス現象により大幅に遮音低下する周波数帯が生じて弱点を抱えることになります。

質量則のみ考慮した防音設計は、木造にとっては過重量や必要以上に部屋を狭くするなどのリスクがあり、費用対効果の低さと合わせて得策ではありません。非常に古い設計仕様であり、木造ではお勧めできません。
また、某メーカーの軟質遮音ゴムシート製品ですが、切り口(切断面)が歪んでしまうので、突きつけても隙間ができます。
これは音漏れなど遮音欠損の典型事例になります。

結局、遮音計算式(質量則のみ)によって、面密度が確保されても、防音材の品質や施工要領に問題が有れば、500Hz以上の周波数帯の音漏れにつながり、机上の空論になってしまう。
しかも、コインシデンスなど弱点を考慮しない防音設計なんか論外です。
*なお、低周波(100Hz以下)の周波数帯は小さな隙間は問題にはなりません。適正な面密度や吸音層が確保できれば防音効果は出ます。(125Hz以上の周波数帯における遮音設計とは少し異なります)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?