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防音材を選ぶための重要事項

今までの投稿記事において、防音材は大別して「誰でも購入できる市販品」と「特定の事業者が契約する受注生産品」があることを述べました。
今回の両方の留意点について概要を述べたいと思います。

市販品の防音材について

市販品には試験場で計測した小さな試験体の透過損失のデータと軽量衝撃音の計測データしかありません。しかも、実際の現場で施工した結果を検証していません。検証したデータそのものが無いのです。

このため。市販品を使用した防音工事の現場は、製品の予測データと現場の効果が乖離します。
透過損失(空気音の遮音性能)についても、複数の建築材と併用して計測したデータがないので、確実な予測ができません。このため他の専門業者が防音設計すると、分厚い防音構造を造ろうとします。どうしても安全側を考慮して予測するしかないのです。

それに、市販品(遮音パネルを含む)は、硬質遮音材と軟質遮音材の防音効果に関する分析をしていないので、リスク説明など留意点がウェブサイトに掲載されていません。施工要領の具体的な説明もなく、知識と経験のない建築士には活用方法すら分かりません。

防音材の施工要領などマニュアルがないので、予測など出来ないのです。
例えば、大きな区画で施工するときのつなぎ目の処理方法や、壁と床の取り合い部(接触点)における施工要領がありません。

防音材の重要な確認事項

重要なのは製品の周波数特性(音響透過損失)と固体伝播音に対する相乗効果です。いずれも、メーカーの試験データを鵜呑みにすることはリスクが有ることを他の記事で述べました。それは現場の施工条件と試験体の使用状況が大きく異なるから、試験データと現場の防音効果は乖離するのです。

それは、基本的に市販品も受注生産品も同様です。ですが、防音職人が契約して取引しているメーカーの製品は、メーカーの担当者が私の希望に応じて実際の施工状況に合わせた試験をしてくれた製品がありますので、現場での予測が可能です。
また、私の現場で使用した受注生産の防音材の効果は、現場ごとに相乗効果を計測していますので、他の類似した現場での防音設計において効果をある程度予測することが可能です。

一方、市販品は今まで施主のご要望で複数の現場で試しましたが、固体伝播音に対する相乗効果は確認できませんでした。要するに制振性能に弱点があるのが市販品の特徴です。
ある木造住宅の相談者のご自宅で、リフォーム業者が市販品を勧めるので、リスクが有ると何回も施主に申し上げたのですが、施主が市販品を採用して施工しようとした直前に、急に私の受注生産品も同等の条件で試したいと依頼がありました。結果は、同じ厚さの防音材を使用して、現場の職人と施主が立ち会って実験したのですが「あまりに効果に差があり、急遽、私の提案に変更となりました・笑」
*実はこの現場、あまりにも施主が愚かなことを言うので辞退していたのですが、たぶん不安を感じていたのでしょう。仕方なく協力しました。

上記の笑い話は、施主が私の受注生産品より有名な大手メーカーの看板を信用したから、私が相談案件を辞退しようとしたわけですが、一応、リスクの説明は伝えました。これが気になって、土壇場になって実験してみたくなったと思われます。
こういう事例は、他の現場でもあり、工事が完了してから「私がリスクを説明した通りになって、施主が反省点を私に報告してきました。でも、私は自分の分析・知見が正しかったこと」を証明できたので満足でした。

私はメーカーの看板の大きさを全く信用していないので、自分の現場で試すか、メーカーと取引している建築士にヒアリングして判断していました。
そのヒアリングに応じてくれたベテラン建築士も現在は防音設計業務から引退しており、協力してくれたメーカーの担当者も世代交代しており、今後は、もう私の実験をしてくれるメーカーは出てこないと思います。

今まで検証した資料・実例は、貴重な私の財産となっています。
私の話が、建築士や施主などの参考になれば幸いです。

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