専門家が見落とす重要事項とは(木造防音室)
私の本業である「防音設計・防音工事」における専門家(自称を含む)と呼ばれるエンジニアは、東京など首都圏に集まっています。
文字通り「枠を当てはめて狭く専門事項を囲い込み、設計・工法等を論ずる或いは実行する人たち」と言えると思います。
そこには、自分の専門事項から外れた事を軽視したり、経験不足を補完する努力を怠る傾向があります。
典型的なのが「新築木造住宅および木造防音室」の生活防音の現場です。
木造における視点・重要事項
現在の木造住宅や木造音楽室の建物構造・工法には弱点もありますが、古い伝統的な技術を継承している一般的な建築工法がたくさん残されています。古い技術でも、木造建物の寿命や耐久性などを考える上で、不可欠な設計仕様・工法があり、これは必ず継承していく必要があります。
木造防音室などの防音設計・工事を実行する際に、とても大事な視点になります。
例えば、「木造を最初から遮音性が低いと断じる論点」「建物構造の安全性・耐久性や寿命を考えない工法」は、とてもリスクがあります。
自分の専門事項を深く掘り下げる一方で、大事な音響や建物の耐久性(耐用年数・耐震性など)を担保しない設計施工の手法は、本当に木造防音室の専門家が提案すべきものなのか。少なくとも木造の専門家とは呼べないと思います。
通気層と防音構造は区分して共存させる
木造建物は通気層(壁内・床下など)を適切に設けることで木部の寿命を伸ばす工法が基本です。これを潰したり遮断すると、建物の寿命が短くなります。
防音構造は、天井裏・床下および壁内の空気層を含めて設計・施工することが可能です。防湿・断熱および吸音・減衰機能を担保する工法が、木造音楽室など防音室においても重要になります。
通気層や換気するための空間から滲み出す湿気は、室内側で遮断できますので、防音構造と区分して、従来通りの工法で構築できます。
むしろ、床下の換気・通気を遮断すると、室内の床にガラリを取付けて換気することになり、音漏れの原因になります。
同様に外壁内部の通気胴縁による通気層は、そのまま活かす必要があります。壁面も防湿シール出来ますので、問題ありません。
壁・天井などの構造的補強と防音効果
他の記事でも触れましたが、天井・壁・床は構造的な補強を、軸組・下地において行うと、防音効果にプラスに作用します。
振動音だけでなく、壁の防音材の遮音性能もアップします。逆に不安定な下地構造は大きなマイナスとなり、防音効果を大きく下げてしまいます。
天井については、重い遮音材などを面的に施工する場合は、野縁のピッチを455ではなく、303ピッチで入れる必要があります。経年変化で天井面が歪むだけでなく、地震のときに壊れやすくなりますので、軸組補強は大事です。
また、防音ドア周りは、避難路にもなりますから、構造的な補強は不可欠です。不安定ですと、楽器演奏時にドアが共振することもありますから、軸組補強は重要です。
このように、一見防音設計とは無関係に見える事項も、実は木造にとっては、重要事項になっています。木造の工法を正しく理解することが、よりよい音響・防音設計につながるのです。