2024年JASRAC賞について思うこと
こんにちは!サウンドブリックスの上野です。
僕は普段映像に音楽や効果音をつける「音響効果」という仕事をしています。
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、2024年5月22日にJASRAC賞を発表しました。今回はなかなか興味深い結果だったので、この内容を見ながら思うことを綴っていきます。
JASRAC賞とは
JASRACは日本および海外の音楽について、作詞者・作曲者・音楽出版者がもつ音楽著作権を管理する団体です。
JASRACのホームページでは
「JASRAC賞は、音楽配信、カラオケ、CMなど、前年度にJASRACからの著作物使用料の分配額が多かった作品の作詞者・作曲者・音楽出版社の功績と栄誉を称え表彰するもので、国内作品の上位3作品を金・銀・銅賞、海外の著作権管理団体からの入金が最も多かった国内作品を国際賞、分配額が最も多かった外国作品を外国作品賞として表彰しています」と伝えています。
またWikipediaでは
JASRAC賞は他の音楽賞の多くが特定の利用形態における人気のみを示すのに対し、以下の内容等を総合的に集計した結果が含まれるのが大きな特徴、と記載されています。
・レコード・CD等の物理メディアの売上
・有線放送やリクエスト番組でのリクエスト数
・テレビ・ラジオ等の放送や映画等の中での楽曲使用状況
・DVD・Blu-ray Disc等のビデオソフトの売上
・カラオケでの歌唱数
・オンラインゲーム・着メロ・着うた・音楽配信といったネットワーク上でのインタラクティブ配信
・当該楽曲を使用するパチンコ・パチスロ機などでの利用度合い
売上で結果が決まると言う点は第三者の意思が介入することがないので正当な評価と言っていいのかもしれません。とはいえ、人気がなければ楽曲が利用されることもないので、賞をとるほどの曲であれば認知度は高い作品といっていいでしょう。
2024年のJASRAC賞はこのような結果になっています。
金賞は言わずと知れたYOASABIさんの「アイドル」です。この楽曲は2023年4月にテレビアニメ「推しの子」オープニング主題歌としてリリースされました。その後、海外でも異例のヒットとなり、2023年の紅白歌合戦でも披露されました。幅広い層に支持されたので、この金賞という結果は多くの方が納得できる内容だったのではないでしょうか。
金賞以外は意外な結果に
僕は音楽評論家でもないので一つ一つの曲を深掘りはしませんが、皆さんは「アイドル」以外の結果に対してどのような印象をお持ちでしょうか。僕はJ正直少し意外な結果だと感じました。なのでJASRAC賞は「アイドル」と「それ以外」というくらいの種別で考えています。
楽曲はそれぞれ素晴らしいので、もちろんそれらを否定する意思は全くありません。受賞楽曲自体、人気楽曲であることも間違いありません。また人によっては「これこそが納得の結果だ」とおっしゃる方もいるでしょう(なので、ここで綴った内容はあくまでも個人的な意見であることをご理解ください)。ただ、JASRAC賞が「JASRAC管理楽曲の中で前年度(2023年4月1日〜2024年3月31日)の著作権使用料分配額が多い楽曲」に紐づくものだとしたら、僕は予想外だったと思っています。
それぞれの楽曲の詳細につきましてはこちらをご覧ください。
ちなみにリリース時期は「アイドル」以外は前年度ではないようです。
外国作品賞の 「BITTERSWEET SAMBA」については、 ラジオ番組「オールナイトニッポン」のテーマ曲として有名ですが、リリースされたのは1965年とかなり昔の曲になるようです。「なぜこのタイミングで賞を?」と思ったら「サントリー株式会社の「金麦」のCMソングに継続して利用されたことから、初の受賞となりました」とJASRACのホームページにて説明されています。CMの具体的な回数や主要メディアがどのようになっているかまでは分かりませんが、基本的にはテレビ放送(中でもキー局)で相当数流れたものだと推測しています。このことから継続的にCMで流れる音楽の印税分配は大きいと読み解くことができるかもしれません。
また国際賞の「NARUTO-ナルト-疾風伝 BGM」については5年連続、通算7回目の受賞だそうです。もう殿堂入りと言っていいほどの快挙ですね。作曲された高梨康治さんの楽曲は僕も好きでよく使わせていただいています。ただこちらもリリースされたのは15年以上も前と昔のようです。
「BITTERSWEET SAMBA」「NARUTO-ナルト-疾風伝 BGM」はどちらも歌のないインストゥルメンタル作品です。つまり作詞印税がないのです。そう思うと、インスト楽曲が受賞するというのはそれだけ楽曲単体で多く利用されていた結果でもあり、驚異的なことではないかと思ったりもします。
また銅賞 「閃光」についてはアニメの主題歌ですが、銀賞の「可愛くてごめん」にいたってはキャラクターソングであり、主題歌ではないのです(JASRACのコメントも心なしか少なめで少し不思議な感情になります)。それでも受賞するというのはすごいことですね。いずれにしてもこの2曲はインタラクティブ配信の分配が多かったようです。
受賞作品の分配構成比
https://www.jasrac.or.jp/magazine/upload/2024_jasrac-awards_compositionratio.pdf
JASRACが受賞作品の分配構成比を公開していたので見てみましょう。
金賞〜銅賞はインタラクティブ配信が非常に大きいことがわかります。
YouTubeの「歌ってみた」やTikTokでのダンス動画など2次創作のほか、SpotifyやApple Musicなどのストリーミング再生や、Amazonプライム・U-NEXTなど動画もテレビからネット配信に切り替わるようになり、それらが主流になったことが原因ではないかと推測しています。
国際賞については特種で構成比自体はわからないですが、国別に利用地域が表記されています。だいぶ前の作品だからか、ほぼ国内の分配はないですが、海外では世界各国で広く利用されているようです。
外国作品賞は放送からの分配が多いです。こちらはラジオに加えてテレビCMで定期的に放送されたものが大きかったのだと考えられます。
ここ数年で流行ってそうなアニメは?
2022年度に放送されたおすすめアニメ一覧
https://www.anikore.jp/chronicle/2021/
2022年度に放送されたおすすめアニメ一覧
https://www.anikore.jp/chronicle/2022/
2023年度に放送されたおすすめアニメ一覧https://www.anikore.jp/chronicle/2023/
あくまで参考程度ですが、これらは直近3年くらいで放送されたアニメの一覧です。ちなみにJASRAC賞は「2023年6月、9月、12月および2024年3月の計4回の分配を集計したもの」だそうですので、アニメや楽曲の流行った時期が集計期間をまたいでしまう場合は賞を逃しやすいということになるのかもしれません。
ここ数年で「鬼滅の刃」「「ぼっち・ざ・ろっく!」「SPY×FAMILY」「呪術廻戦」など多くの人気作品が公開されました。なんのエビデンスもないのですが、個人的にはこれらアニメ作品は銀賞の「可愛くてごめん」が使われた「ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事」や銅賞 「閃光」が主題歌の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」と匹敵するかそれ以上の世間的な認知度だと思うのですが、皆さんの印象はいかがでしょうか。
2023年に流行ってそうなアーティストは?
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000148647
タワーレコードのHPより「2023年 話題のヒット曲!!」の上位部分のアーティストを見るだけでもAdo、米津玄師、Mrs. GREEN APPLE、Official髭男dismなど人気アーティストがずらっと並んでいます。テレビなどのメディア露出もある彼らですが、今回のJASRAC賞には入っていなかったことが個人的に意外…というよりも違和感に近いくらいの感覚でした(あくまで個人の感想)。
「可愛くてごめん」はキャラクターソングですが、アーティスト名は「ちゅーたん(早見沙織)」です。こちらも世間的な認知度で言えば上記アーティスト群の方が上まっているような気がするのですが…。もしかしたらそう思うのは自分だけで、世間の流行をキャッチアップできなくなっているからなのかもしれません…。どちらにしても細かいエビデンスはありませんのでご了承ください。
これらを鑑みますと、JASRAC賞はその時に流行っている旬な曲が入るとは限らないと言えるでしょう。
直近10年くらいの歴代JASRAC賞を見ていてもその遍歴は感じられます。
https://www.jasrac.or.jp/information/24/ja-31-40.html
2019年の銀賞「UFO」(ピンクレディー)なども興味深い結果だなと思います。
グラミー賞が注目するJPOPアーティスト10組とは?
ここで興味深いデータを見つけたのでご紹介します。
「てけしゅん音楽情報」というYouTubeチャンネルで解説されていたことですが、グラミー賞が注目するJ-POPアーティストとして、2024年に以下の10組を発表しました。
(引用元はこちら https://www.grammy.com/news/j-pop-artists-bands-to-know-2024-yoasobi-fujii-kaze-videos)
・Ado
・新しい学校のリーダーズ
・Creepy Nuts
・藤井風
・King Gnu
・羊文学
・米津玄師
・MAISONdes
・Vaundy
・YOASOBI
もちろん、JASRAC賞とは何の関係もないデータですが、やはり傾向がかなり違うな、という印象をもちました。こちらの10組はYOASOBI以外はJASRAC賞の受賞アーティストはいません。ただ、最近の流行のアーティスト、という意味においてはJASRAC賞の受賞アーティストよりもグラミー賞が発表したJ-POPアーティストの方がイメージが近い気がします。
これからのJASRAC賞は
さて、歴代の結果を見ていて気がついたのは、「以前まではアイドルやアーティストの曲が入っていたのに対して2024年はほぼアニメ関連楽曲のみ(「BITTERSWEET SAMBA」」以外)だったことです。
JASRACの分配額TOP10が公表されていました。
https://www.jasrac.or.jp/magazine/upload/2024_jasrac-awards_distribution10.pdf
「国内作品 【総合】」を見てみますと、5位〜10位でアニメタイアップではないアーティストが入ってきています。いわゆるアイドルソングといわれるジャンルは6位の「シンデレラガール」(King&Prince)のみとなっています。
アイドルソングやCDというのは国内のマーケットが主流だと思うのですが、今はSNSを使って世界に発信できる時代でもあり、それを踏まえた海外マーケティング戦略が必要になってきたともいえるのかもしれません。そういう意味ではインタラクティブ配信での分配が多かったり、海外での人気のアニメ作品関連楽曲が受賞したりと、2024年のJASRAC賞の結果は音楽産業の転換期を伝えていたような気もします(あくまで個人の感想)。
・日本が世界に誇るアニメ文化
・SNS戦略とインタラクティブ配信
・海外での認知向上
この辺りをうまく取り入れられたらヒット曲にも繋がりそうですし、JASRAC賞に入る鍵を握っているような気がします。
正直細かいデータ分析まではできていないのですが、なかなか興味深い結果になったので来年もまた注視していきたいと思います。
皆さんはどのような感想を持たれましたでしょうか?
以上「2024年JASRAC賞について思うこと」でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。