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「映像作品に描かれている家族」日本大学芸術学部学校選抜映画専攻2022年

(1)問題



以下の文章を読み、映「像作品に描かれる家族」について考えることを述べよ。


①  アニメに登場する最も有名な家族は、おそらく『サザエさん』に登場する難野家(とフグ田家)だろう。


②  『サザエさん』の放送開始は一九六九年一〇月五日。以来、四五年にわたって磯野家は激動の日本社会とともに併走してきた。長谷川町子の原作は一九七四年を最後に発表されていないから、高度成長の終わりからバブル経溝を経て平成の世に至る約四〇年をともに過ごしてきた隣人はアニメの『サザエさん』ということができる。


③  放送開始四十五周年を記念した「みんなのサザエさん展」の公式サイトでは「21世紀に入って十余年が過ぎた現在でも、『サザエさん』は温かみのある良き日本の家族を描いたアニメ作品として、A,なお高い人気を集めています」と紹介している。


④  とはいえ、設定だけ見れば『サザエさん』一家はかなり特殊な一家だ。特に長一女一家が実家に目居する」という設定は、原作が発表された時期を考えても決して「平均的な日本の家族」のものではない。ただ、サザエが嫁ではなく娘であったことは、作品の方向性に大きな影響を及ぼしたと考えられる。


⑤  ザエが嫁でなく娘のポジションにいるため「家制度に抑議される嫁」という現実の日本鍮家族が孕んできた問題と『サザエさん』一家はまったく無関係となった。波平が体現する家父長制の厳しさは主に、いたずらっ子である長男カツオに向けられている。この結果、両親と同居しつつも、サザエとマスオの夫婦はニューファミリー的な色合いを帯びることになった。これが作品の間舞を広げ、長期散送によって生した視聴者との家族観を埋め距離を調整したのだ。伝統的価値議とニューフアミリーの巧みな折衷こそが『サザエさん』を屈託なく良き日本の家族」と呼べる存在にしているのだ。


⑥  もちろんアニメにおいて『サザエさん』だけが家族を描いたアニメではない。むしろそのほかの作品のほうが積極的に時代を反映した家族の姿を描いてきたといえる。



(『アニメの輪郭――主題・作家,手法をめぐって』書奢藤津亮太 青土社2021)


※題名欄には題名を記入すること。

※字数一〇〇〇字

※時間一〇〇分

※試験内容に関する質問には応じない。

※この問題用紙はメモに利用しても良いが、試験終了後回収する。


(2)考え方とヒント


●家族の変化


①  家族の形態の変化


・拡大家族から核家族へ

拡大家族…子供が結婚後も両親と同居し複数の核家族から成る家族

核家族…両親と未婚の子供から成る家族


・家族の機能の変化 


 かつて:

生産・消費(経済的機能)、夫婦の愛の醸成(家族の始まり、基本的な機能)、子どものしつけや養育(教育的機能)、文化や技術の継承(文化的機能)、炊事・洗濯・掃除(生活的機能)、介護・看護(医療・福祉的機能)

 休息・休養・娯楽(保養・リクリエーション的機能)


 現在:

 かつての家族の機能の大部分が外部化され、消費や夫婦の愛の醸成、子どものしつけや養育の一部しか残らなくなった。


 外部化の例:

 生産→企業での労働、子どものしつけや養育→塾や学校、

 炊事→外食・中食、休息・休養・娯楽→エンタメ産業


●多様化する家族


①  夫婦別姓


②  同性婚


③  DINKS

結婚後、子供を持たずに、夫婦とも職業活動に従事するライフスタイル。狭義には、意識的に子供を持たない共働き夫婦


●家族の抱える問題


①  相対的貧困

相対的貧困率とは,世帯の所得が,その国の「等価可処分所得(収入から税金や社会保険料を引いた実質手取り分の収入)を世帯人数の平方程で割って調整した中央値の半分に満たない状態。2022年の日本の相対的貧困率は約16%。


②  児童虐待


③  4070(5080)問題…40代50代の子供が引きこもり、70代80代と高齢になった親に依存する状態。親は自分が亡くなった後、誰が子どもの面倒を見るかと悩み、切迫した状況になっている。


④性別役割分業意識に基づく男女間の格差・不平等


⑤ヤングケアラー

(3)解答例



問い直せ「戸籍上の家族」

 「家族」とは血縁者同士が生活を共にする共同体で戸籍には同じ姓で登録されている集団。――私たちは「家族」のイメージをこのような言葉で紐づけている。

 「万引き家族」の中に登場する家族は夫婦と息子に加えて妻の妹と夫の母が同居する拡大家族だ。そこへ虐待を受けて家出した少女が新しい家族の成員として加わる。食事のシーンが多く登場し、ちょっとした諍いや愚痴はあるが基本的に仲良く助け合いながら生暮らしている。「貧乏ながらも楽しい我が家」という古き良き時代を彷彿させる圧倒的なリアリティーで生活の細部を丁寧に描く。この親子は万引きで生計を立てていて、犯罪者であるにもかかわらず夫婦の子どもに対する愛情は人一倍強い。

 ところが、夫の母親が病死し、息子が万引きで補導されたあたりから、物語は暗転する。この夫婦は夫が妻の前夫を殺害して同居を始めたこと。息子は妻がパチンコ店で拉致してきたこと等々。この5人は老母と夫を除いて血がつながっていない赤の他人同士の寄せ集めであり、「偽装家族」であったことが判明する。一方、妹の実家や女の子の両親は「戸籍上の家族」であるのにもかかわらず、親の子どもに対する愛情は希薄で、虐待を繰り返す、世間体を取り繕うために家出した子どもが海外留学していると嘘をつくといった「暴力と虚飾にまみれた家族」であった。

 この事実が明らかになったとき、私の中でゲシュタルト崩壊が起こった。「万引き家族」は一般的な家族の定義から外れている。同時に「戸籍上の家族は成員間の強い愛情で結ばれている」というイメージも反転した。それでも、「万引き家族」の濃厚な人間の生活のリアリティーは強く残った。しかし映画ではメディアや警察は「戸籍上の家族」の家族の立場から「万引き家族」の犯罪性を糾弾し、その非血縁者同士の集団をあたかもカルト宗教のようにして描く。糾弾されるのは戸籍制度という国家権力を梃に家族の血縁主義的な「家制度」の正当性をゴリ押しするメディアのほうではないか。子どもは親を選べない。親子や夫婦という権力構造のなかで弱い立場にいる子どもや妻は暴力や男性から不当な差別を受けている。血縁主義的「家制度」の下では同性婚はおろか夫婦別姓ですらも認められていない。「万引き家族」の問題提起の先には現代社会の抱える、こうした「戸籍上の家族」をめぐる問題群があるのではないか。

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(1000字)


(4)解説


指定字数が1000字と長いので、映画のストーリーを長めに紹介してもよい。


単なる筋書きの説明にとどめずに、適宜、自分の作品に対する評価や印象を織り交ぜて書くことがコツ。


「ゲシュタルト崩壊」といった効果的なワードを使うこと。


「家族」と家族との表記上の使い分けにも工夫を凝らす。


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