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「労働市場におけるジェンダー格差の解消方法」島根大学医学部前期2014年

(1)問題

次の課題文及び資料を読んで,問1~4に答えなさい。
 
[課題文]

①  さまざまな個人の選択は,制度や規範からの縛りをうけて行われます。その意味で,どのような選択であっても,働く選択と働かない選択は厳密に五分五分の確率でないことのほうが多いのです。例えば,3歳未満の子の母親がフルタイムで働くか否かを選択するにあたって,子どもが幼いうちは子育てに専念したほうがよいとする社会的通念があり,母親本人が母親としての役割期待ヘの強いこだわりがあると,働かない選択に最初から傾いて意志決定がなされます。このように,個人の選択に規範やその規範に基づく制度設計が関与してくるのは当然でしょう。ただ,社会的に望ましくないとされる選択肢を選ぶことに,不当な制裁を受けることがないような配慮が必要です。その意味でジェンダーフリーの提唱は,人びとのさまざまな生き方や選択を受け入れる,多様な社会の承認に通じるのです。

②  少子化が指摘されてもう20年にもなろうとしています。その間,合計特殊出生率は基本的に下がり続けていて,少子化が改善される見通しもあまりありません。それ以来,女性就労は,子育て,家庭との両立といった観点を中心に議論されてきました。日本の女性の就労参加は断続的ですし,妻の就労も夫の収人に左右されています。逆に,夫がいない母子世帯の場合,母親の就労参加は他国よりも高いのが現状です。夫がいれば夫に左右され,夫がいなければ働かない選択は事実上なきに等しいというのが日本です。さらに,日本の男女間賃金格差は欧米に比べても依然高く,そこには女性の断続的な働き方とパート就労の低い賃金があります。

③  どのように労働市場におけるジェンダー格差を解消したらよいのでしようか。その最も重要な鍵は,賃金格差の解消にあります。ここで提案したいのは,女性の労働を考える際に,家庭,子どもとの関係を一度きりはなして考えてみたらどうかということです。男性も女性も,働く機会,働く選択が平等に提供され,働く上に困難が伴えばそのリスクを社会で支えていく。これが女性就労参加を社会で支援する体制の基礎となるのです。

④  例えば,男も女も生涯働き続けることを念頭におきますと,子育て支援は重要な政策テーマになります。しかし,女性にとって,働かない選択が働く選択よりも有利である限り,働くインセンティブは低くなります。男女ともに同じ立場で働く社会を想定するならば,まず解決すべきことは男女賃金格差の解消です。同じ仕事にあっても報酬が異なり,さらには将来への昇進機会が異なるのは,働き続けるインセンティブを下げることになります。いくらがんばっても,一生懸命仕事をしても,女と男で異なるキャリアが準備され報酬が異なれば,当然働き方も違ってくるでしょう。…(中略)…

⑤  同じ仕事に従事しても,雇用契約の違いによって大きく報酬や待遇が異なる状況がこれ以上すすむと,労働に対するモラルは低下するでしょう。共に働き,共に生きる社会を形成するには,正規・非正規雇用間の格差を締小する上にも,男女賃金格差の解消に向けて早急に対応すべきです。格差を解消するには,底上げによってのみではなく,フルタイムの正規就労というかたちで恩恵を受け雇用保障に守られてきた既得権をより多くの「働く仲間」と分かち合い,さまざまな雇用リスクを分散することも一つの解決策だと思います。そこでは既得権を剥奪することとして抵抗もあるでしょうし,正規対非正規の亀裂を深める危険性があるかもしれません。しかし,既得権にしがみつくことが,結局,企業への負担を強いることになって突然解雇される,ということにもなりかねません。そこでは,社会的リスクの再分配政策が大切になってきます。

⑥  一家を一人の給料で支え,安定した雇用が家族の将来構想を可能にしてきましたが,そうはいかない場合がこれからますます多くなると思います。その意味で一人稼ぎ手モデルから共稼ぎモデルヘの転換が必要ですし,男女ともに,夫婦ともに働くことができる環境を整備することが不可欠です。また母子家庭については,多くの母子世帯の母親がすでに就労しているわけですから,就労支援というよりも子育て手当を含む所得保障や子どもヘの福祉・教育政策を積極的に展開していく必要があると思います。また,母子世帯のみならず,父子家庭を含めた雇用保障,子育て支援も緊急性が高いことも見落とせません。

⑦  制度上のジェンダーバイアスの解消が重要であることは確かですが,まずは男女間賃金格差の解消,平等な昇進機会の保証が最優先課題だと考えます。女性も男性もともに働く社会をめざすために,子育て支援,介護支援を整備する必要はあります。例えば,1986年に施行された男女雇用機会均等法(「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」)の基本的な考え方は,女性の雇用待遇を男性並みにしていくというものでした。そこでの男性並みというのは,いわゆる日本的慣行に則った長時間労働であり,結局は仕事も家庭もというライフスタイルを選ぶ余地を与えませんでした。その結果,結婚せずに子どもをもたずに仕事一筋の人生を選ぶか,それとも仕事をやめて家庭に入るか,の二者択―の選択を強いられることになったのです。

⑧  何を基準にして平等にするかは重要です。今までどおりの長時間労働に拘束される働き方を中核的な基準とする限り,男も女も働くライフスタイルを普及させることは難しいでしょう。家庭と仕事の両立を男女ともにめざすための子育て支援が望まれます。仕事と家庭のバランスをどうとるかは,個人やカップルによって違うでしょう。ただ,そのバランスをとるために利用できる,さまざまな支援策が必要です。なぜなら,一人が特定の役割を担うという一人一役割の構造から一人多役割構造へと移行しているからです。一人が複数の役割を担うためには,子育て,家族の介護を含めて,さまざまな主体(人や組織)からの関わりが求められています。

(白波瀬佐和子著「生き方の不平等―お互いさまの社会に向けて」岩波新書(2010)から 一部改変)

[資料]

図1は男性の年齢階級別就業率の変化,図2は女性の年齢階級別就業率の変化を表しています。
なお,図1,図2とも厚生労働省雇用均等・児童家庭局一般資料「平成22年版働く女性の実情」の中の「働く女性の状況の第2章」から一部改変して作成しています。


図1 男性の年齢階級別就業率の変化
図2 女性の年齢階級別就業率の変化

問1     課題文の著者は,労働市場におけるジェンダー格差の解消のために何が必要だと言っているのか,120字以内で述べなさい。

問2     課題文の著者は,共に働き共に生きる社会の形成のために,具体的にどのようなことが必要であると言っているのか,200字以内で述べなさい。

問3     資料の図1及び図2から読み取れることを300字以内で述べなさい。

問4     課題文の著者の主張及び資料の調査結果を参考に,男女を問わず,就労し続けるための対策について,あなたの考えを500~600字で述べなさい。
 

(2)解答例


問1 

男女の賃金格差解消が必要である。女性の労働を考える際に、家庭、子どもとの関係を一度切り離す。男性も女性も働く機会、働く選択が平等に提供され、働く上に困難が伴えばそのリスクを社会で支えていくことが女性就労参加を社会で支援する体制の基礎となる。(120字)

問2 

男女が共に働き共に生きる社会の形成のためには男女賃金格差の解消に向けて早急に対応すべきである。それには底上げによってのみではなく、フルタイムの正規就労で雇用保障に守られてきた既得権をより多くの労働者と分かち合い、さまざまな雇用リスクを分散することも必要である。また子育て・介護支援を整備する必要がある。さらに一人多役割構造へと移行し、子育て、家族の介護などさまざまな人や組織からの関わりが求められる。
(200字)

問3 

図1の男性は15~19歳から25~29歳にかけて就業率が上昇し、以降50~54歳までほぼフラットに移行し、55~59歳にかけて急激に下降している。30~54歳の就業率は、平成2年のほうが平成22年より約4ポイント高い。図2はM字状をしている。女性は山のピークが2か所ある。平成2年生まれの世代では初めのピークが20~24歳の世代であり、平成22年生まれの世代では、25~29歳の世代であり、5歳程度後ろにずれている。二番目のピークは平成2年生まれ、平成2年生まれともに45~49歳である。平成22年生まれのほうが平成2年生まれよりM字カーブの2つの山が高くなると同時に谷が浅くなる傾向にあり、かつ谷が年齢の高い方向に5歳程度ずれている。(299字)

問4 

 女性は新卒で採用されてから30歳を前に結婚や出産を機に離職し、子育てが一段落すると再就職する傾向にある。新卒で正規雇用の採用であっても、再就職はパートタイマーなどの非正規雇用のケースが多い。女性は長期にわたる安定的な雇用が保障されず、キャリアやスキルを身に着けることが困難ため男女間の賃金格差が生じる。

 男女を問わず就労し続けるためには子育てや介護などが主に女性の仕事として固定化されている状況を変える必要がある。男性は家庭の外で賃労働の一人一役割、女性は家庭で家事や育児、介護などの一人多役割といった性別分業を改めて、男女ともに労働や負担を均等に分担する一人多役割の社会構造へ移行することが課題となる。そのためには、労働環境を改善することが求められる。たとえば育児介護休業法で男性の休暇取得率を上げるために、政府が目標値を定めて、企業ごとに数値を公表することを義務付ける、リモートワークを促進して育児・介護等と仕事が両立する労働環境作りを進めるといった取り組みが必要となる。

 こうした試みを通して、人びとのさまざまな生き方や選択を受け入れる多様生担保することで仕事や趣味、家庭などさまざまな機会と場所を通して自己実現が可能な、多くの人々が生きやすい、暮らしやすい社会が形成されるものと考える。(570字)

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