エリア名をデザインする(後編)
前編に続きエリア名のデザインについて、AkeruEを事例に紹介します。ギリシャ語をベースに空間の機能と特徴を表す各エリア名を考えるにあたり、一番最初に考えたのがメインゾーンのコスモスとアストロでした。いずれも宇宙(コスモス)そして天体(アストロ)を表す言葉ですが、AkeruEにおいては、子供の体験が異なります。
ASTRO
ASTRO(アストロ)は、様々な美術展示、科学展示そしてSTEAM展示と呼ぶ作品が展示されているエリアの名前としました。ASTROは「星々の」「天体の」を意味する。または英語でastronaut(宇宙飛行士)の略語。
子供たちが宇宙飛行士さながら、様々なSTEAM作品や原理展示の「惑星」を行ったり来たりしながら、その関係性や意味を探求してもらいたい。星座は実際の星と星の間に線は見えないけれど昔の人は想像の中で物語や繋がりを考えられました。現代は、情報を調べれば何でも分かる時代だからこそ、自分なりに意味や繋がりを見つけて欲しいと願ったASTROです。
COSMOS
同じく宇宙を意味するCOSMOS(コスモス)は、子供たちが自分で作品を考え、作り撮影したり展示したりするエリアに名付けました。
企画当初、ここは「公園の砂場」がメタファーでした。子供たちが自分の作りたいものを、それぞれ自由につくる。でもその作り方は、隣のお兄さんが作ったものを真似することから最初は始まったり、だんだん自己流が芽生えて、もの凄い対策となったりと砂場はとてもクリエイティブな場所。一つ宛の作品としても成立しつつ、同時に俯瞰すると全体として作品にもなるまるで大きな宇宙(コスモス)のように調和の取れたシステムをこの施設の目玉としようと決めました。
コスモス(cosmos)とは、一般的に、宇宙を秩序ある、調和のとれたシステムとみなす宇宙観である。「秩序、整列」を意味するギリシア語のκόσμοςという言葉に由来し、カオスと対をなす概念である。(Wikipediaより)
2階のカオスと対を成す言葉であることも重要で、カオスから生まれる創造性と子供の内発的な(ビッグバン)から生まれる作品(星)が宇宙の秩序のように見える。共に一つの大きな作品を創る。そんな総合芸術の舞台を目指そうと名付けたのがCOSMOSです。実際の空間ができて子供たちの作品が並んび繋がりが見えた際は、まさにコスモスの誕生を目の当たりにした瞬間でした。
PHOTON
そして、もう一つの創作の場、映像やアニメーションをつくれるエリアを企画し、映像は「光」を扱うことから、その粒子である光子(こうし)を意味するPHOTON(フォトン)と名付けました。
光子とは、光の粒子である。物理学における素粒子の一つであり、光を含む全ての電磁波の量子かつ電磁力の媒介粒子である。(Wikipedia)
↑PHOTON(アニメーション・クリエイターになれる空間)
さらにこの3階の入り口は、WORMHOLEという(公式ではなく、オペレーション上の)愛称をつけて、「あっち側とこっち側」を行き来する空間としました。ここを通過することで子供たちが別世界へ行くような感覚になってもらうことを狙っています。
ワームホール (wormhole) は、時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのような抜け道である。(Wikipedia)
↑WORMHOLE(別世界、別宇宙への導入部としてのワームホール)
さて、このネーミングですが、普段は様々なブレストやワークショップ、アイデアを量産した上で、集約させていきますが、エリア名は、一晩で「エイや!」と考え抜きました。個々に独立した特徴や機能、意味をもちながらも全体としてエコシステムをつくりたかったので、ネーミングは同時に立ち上げ整える必要があったのです。
↑エリアのネーミング発案時に全体像を描き起こしたスケッチをプロジェクトのスタッフが整えてくれたイラスト。エリアの関係性やつながりを表現した。(初公開)
もし、この中で一つでもNGが出た場合は、全体のバランス崩れたり繋がりが失われる可能性もあったので、ハラハラしましたが無事に全て採用されました。(ほっ。)AkeruEを独特なネーミングとして際立たせるために、各エリア名は造語や新語としないように心がけました。子供たちがエリア名を目にして「カオスってなだろう?コスモスってどういう意味なんだろう?」と興味をもって調べ、その意味を知った際にそれぞれの空間の意図を感じ取ってくれる時が来たら本望です。(そのために、ここに書き残していたりして。)
エリア名をデザインする際のポイント
空間に名前をつけたり、エリア名をデザインすることは、すなわち全体コンセプトをデザインすること。あえてエリアごとに名付けするメリットは、その後の企画や設計の詳細化でチーム全体の共通認識を高め、また通称として使い分けることで、プロジェクト自体を円滑に進めるコミュニケーション手段にもなり得ます。「アトリエ」「カフェ」「ライブラリー」と行ったエリア名の採用は、機能を限定しすぎるデメリットがある一方、カオス、テクニートといった場には、機能を限定しないので、活用の余白や多目的空間を可能にし、個性はもちろん拡張性や柔軟性を引き出す効果あります。そして全てが出揃い空間が仕上がって、それぞれのエリア名が連なり合った時、施設全体のコンセプトに厚みが生まれます。(コンセプトムービーでどうぞ)
遊び心をもって、渾身の施設名を考えるのはもちろん、エリア名まで徹底して考えることで、その後クリエイターに想いが波及して、施設ロゴだけでなくエリアごとのロゴやサインの開発に展開したり、出口エリアに「Eureka」という場をメンバーが新規に企画してくれたりとプロジェクトが活性化していきました。運営においてもスタッフ間でエリア名で確認しあったり(よって各所3〜4文字の名を推奨)、慣れれば業務コミュニケーションも円滑化するので、大変お薦めします。
エリア名のデザインのポイントは、世界観のテーマを絞る(ex.自然・宇宙など)、言葉のルールを揃え(ex.ギリシャ語由来)全体の相関性やつながりを考える。機能で名前をつけない(カフェなど)、エリアの目的に合わせて、それぞれに意味や全体としてストーリーのある名付けに挑戦してみましょう。
自前ではなかなか難しい施設のコンセプトづくり、各エリア名を含む場のネーミングから空間企画設計、運営まで一気通貫した空間プロデュースはロフトワーク LAYOUT ユニットに是非ご相談ください。
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