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"Things as it is"

 鈴木大拙さんを「大きい鈴木」と称し、自分を「小さい鈴木」と称した、法話集『禅マインド ビギナーズ・マインド』で知られる鈴木俊隆禅師の逸話を二つ紹介します。ひとつは「文法的に正しいのは "Things as they are" なのですが....」と言われようと "Things as it is" で通したこと。

 もうひとつは、哲学の教授に「悟り」という言葉が著書にほとんど出てこない理由を問われた際、そばにいた奥さんがいたずらっぽく「悟っていないからよ」と教授の耳にささやいたのを見て、あわてたふりをして「しーっ! それをいってはいけないよ」といい三人で大笑いしたという話。

 誰もが "Things as they are" が「文法的に正しい」と教わる。"Things as it is" という見方もできることは教わらないし、教えられるものでもないかもしれない。「文法的に正しくない」で済ます方もいれば、何かしらの気づきを得る方もいるだろう。月を指す指を見るか、月を見るか。

 三人で大笑いしたあと「悟りが大事ではない、ということではない。しかし、それは禅において重視しなければならないところではない」と「小さい鈴木」さんは述べたそうだ。「悟り」ありきの「大きい鈴木」さんと対比しての記述なのであろうが、月は変わらず月のままであろう。

[参考文献]『禅マインド ビギナーズ・マインド』および『禅マインド ビギナーズ・マインド2 (原題: "Not always so")』(株)サンガ