土壌
少し前の朝、窓を開けたら「におい」がした。嗅いだことはあるのだが、どこで嗅いだかは思い出せなかった。「におい」に慣れたのか、それともしなくなったからか、すぐに忘れた。昨夜歩いていて、同じ「におい」がマスク越しに漂ってきた。近所の大きな家が取り壊され、土が掘り起こされ、整地されている。においの元は「土」で、嗅いだのは「山」でのことだったのである。
どれくらいの期間「土」は深呼吸するのを我慢していたのだろう。離れた周辺までにおいを漂わせるほどなので相当長い間だったのだろう。息を吹き返した、土の中の無数の微生物。さて、我々はどうだろう。どれほどの衣服を纏っているのだろう。肉体だけではなく精神も含め、素っ裸になった日のことを憶えているだろうか。我々も無論「自然」である。時には「いのち」の洗濯を。