巡礼
連なる山々を歩くことを「縦走」というのだが、ひとつの山の頂に到着すると、次は下りが待ち受ける。下った先にそびえるのは次の山。大した標高差でなくとも、後半の登り返しはきつい。しかし、一歩一歩進んでいると、いつの間にか山頂に到着している。「いつの間にか」の「間」を永遠のように感じることがあるが、気づくと山頂なのだ。頭の中はもう次の下りと上りしかない。そうこうしているうちに、いつの間にか下山し帰りの電車に揺られ「本当に俺はここにいたのか」と思いつつ、撮った写真を見ている。
何回も立ち止まらされては辺りを眺め、景色を写真に収めているのだが、ほとんど覚えていない。記憶に残らない夢のようである。そんな夢が不意にフラッシュバックする。それがきっかけとなり、山のことを考えはじめるといつの間にか山にいる。未踏の山か、未踏のルートを選ぶので、どこでも登り始めは緊張する。人とすれ違うことはほとんどないが、無数の生命に囲まれているからか孤独を感じることは少ない。頭が空になるほど満たされていく無辺の空間。すぐそばにある「大自然」。坐ればいつでも山になる。