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青春の後ろ姿のその先15 〜翼〜

 三島由紀夫の短編集『真夏の死』に収められています。短編を読むとその作家のセンスが分かるので自分に合っているかどうかの目安にしています。中学生の頃に『翼』を読んだ時、まさに電流が身体中に走る思いがしました。以来、ずっと好きなままのしょうせつです。
 電車の中で杉男と葉子という従兄弟同士の背中が触れ合う時に、背中合わせになりながら、お互いに相手に翼がある、と思うシーンは、もう何というか、恋が芸術として描かれる極致のような感じがします。きっと単に肩甲骨同士が触れ合っているだけなんでしょうけど、恋の何たるかまだ知りもしなかった頃に、淡い恋でさえ肩甲骨を翼に比喩してしまう力があることに、ただただ衝撃を受けました。
 そしてこの小説のラスト。これがまた、戦争と、葉子爆弾と、という最も破壊的な暴力にさらされた葉子の死に様が、圧倒的な美として描かれます。
 私は後に、高校生になって世界史の資料集に載っていた「サモトラのニケ」というギリシア彫刻の写真を見た時、「『翼』の葉子だ!」と思いました。
 この小説と出逢った14の夏以降、人はみんな翼を持っているんだ、自分はどんな翼だろう、と時々思うようになりました。そしてそう思うと、美や芸術とは無縁の自分自身のことさえ、何だか目に見えない翼だけは美しいと思うようになりました。

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