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ふたりだけの庭で逢いましょう #3

 それはまず、母が亡くなったことで田舎に行く機会が無くなったということに始まった。年を重ねるごとに記憶も薄れていった。
 高校の頃に祖母が亡くなった。祖母は、昔僕が遊んだ竹林の中に倒れていたということだった。忌引をとって学校を休んで、当時住んでいた博多から久しぶりに田舎に行った。
 ハンミョウも出迎えなかったし、僕には竹林のさざめきもよく聴こえなくなっていた。祖母の亡骸の枕元でひとしきり泣いた。ひとり実家に住むことになった叔母も、僕が東京で大学院に通いながら非常勤講師をしている頃亡くなった。僕は連絡を受けたが、もう田舎には行かなかった。東京から鹿児島の南端まではあまりにも遠かったし、大学院での発表もあったし、講師なのに忌引をとるのも違和感があった。要するに面倒になっていたのだ。
 そうして、父が亡くなった二十四の時に、母の育った実家は処分され幾ばくかの現金になった。しかしそのお金はついに僕の手元に入ることはなかった。姉が僕の分を預かったまま、一昨年亡くなったからだ。姉が急死した時、お金だとか証券といった動産はすっかりなくなっていた。
 「世界」は、亡き者たちと共に跡形もなく消えてしまって、僕の記憶の中にだけ、小さないくつかのかけらとなって残ることになった。そのかけらたちも、遠い記憶の堆積の中に埋もれ、今さらたぐり寄せたり掘り起こす気には到底なれないほどになっていた。ただ不安気に、心細そうに、おぼろな面影だけが、なんとなく頭の片隅で揺らいでいた。

つづく


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