占いに依存させてしまう占い師の罪【占い師:蒼樹のエッセイ】
これは、かつて占い師をしていた女性から聞いた話だ。
四半世紀も前、某デパートの片隅に設けられた占いコーナーで、彼女は日々、客の運勢を占っていた。恋愛運、金運、健康運、さまざまな悩みを抱えた人々が、彼女に助言を求めてやって来た。それが仕事だ。しかし、ある日、自分がしていることに、深い疑問を抱かされる瞬間が訪れたという。
当時、彼女の占いコーナーに毎日のように通ってくる一人の中年女性がいた。上品で裕福そうな佇まいのその女性は、夫がいながら、別の男性に心惹かれている、と悩みを打ち明けた。
不倫だと言えばそれまでだが、彼女の悩みはもっと純粋なものだった。まるで中学生が初恋を友達に打ち明けるかのように、はにかみながら「この人と付き合えるかしら?」と問いかけてくるのだ。占い師も最初は「可愛らしい」と感じ、相性を占ってみた。しかし、結果は芳しくなく、彼女に「相性はよくない」と伝えた。だが、女性はそれで満足せず、翌日も同じ質問を持ちかけてきた。
それが、日々繰り返された。まるで壊れたオルゴールのように、同じ質問と不安が続く。「この人と付き合えるかしら?」。
彼女は疲弊し、ついには「占いじゃ無理ですから、告白してみたら?」と突き放すように言ってしまった。すると、その瞬間、女性は涙をぽろぽろと流しながら、こう呟いた。
「こんなこと、誰にも言えなくて……占い師さんだけが頼りだったんです」
その言葉は、占い師の胸に深く響いた。――この人は、ずっと孤独だったんだ、と。
占い師として、相手の悩みに耳を傾けることが仕事だが、その瞬間、彼女は自分がしていることに恐怖を覚えた。
占いは人を導くものであるべきだが、この女性のように依存させてしまうことがあるのではないか?占いの結果に縋り、現実を見失い、そこから逃げ出そうとしている――そう考えると、占いという行為が持つ魔力に戦慄したのだ。
思い返せば、占いを通じて金銭的に頼られたことも少なくなかった。最初は同情し、金を貸したこともあったが、返ってくることはほとんどなかった。借金の返済期限が迫ると「今は厳しい」と言い訳をし、最終的には「ないものはない」と開き直る。そうした人々に、彼女は何度も裏切られ、傷つけられてきた。
そしてあの中年女性の「誰にも相談できない」という言葉は、彼女の中で再び別の記憶を呼び起こした。かつて、金を借りに来た人々が「他で借りられるなら、あなたに頼んでいない」と言い訳をしたあの瞬間を。
人は時として、困難を他者に押し付ける。占いであれ、借金であれ、その根底にあるのは同じ、自己の問題を他人に預けるという行為なのだ。
その後も、占い師としての仕事を続けながら、彼女はある確信に至った。占いは確かに、人に希望や癒しを与える力を持つが、最終的には現実と向き合うための一歩を踏み出させるものでなければならない。
依存に陥れば、現実との接点を失い、もはや占いも意味をなさなくなる。そして、運命は自らが変えられるものではない、過度に期待すれば、その分だけ現実を見失う危険があるのだと。
それ以来、彼女はどこかで占いを恐れつつも、その力を慎重に使い続けたという。
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