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恋は渡り鳥【鑑定小説】

美土里はスマートフォンを握りしめ、今朝のチャットのやり取りを何度も思い返していた。ベッドに腰掛け、窓から差し込む朝の光をぼんやりと感じながら、彼女の心には微かな動揺が広がっていた。

5日前に芳雄と別れてからというもの、美土里の心は空っぽになったかのようだった。彼の言葉は今も耳にこびりついている。「おまえのこと、ほんとに好きなのかわからなくなったんだ……」と彼が言った瞬間、美土里の心は凍りつき、時間が止まったように感じた。それでも、彼が完全に自分を拒絶したわけではないと、心のどこかで信じたい気持ちが残っていた。

そんな時、占い師の蒼樹という人物相談を持ちかけることを思い立った。
占いなど普段は気にも留めない美土里だったが、今はすがるものが必要だったのだ。蒼樹は、どこか冷静で理知的な雰囲気を漂わせる人物だった。彼の語り口は落ち着いており、自然と美土里の心を引き込んだ。

「お二人の相性は、魂レベルで深く結びついています」と彼は言った。
「今回の別れは、人生の中の一部分に過ぎません。いわば、別れたくても別れられない二人ですから、次の人を探すより、ひとときの休憩くらいに思って、長い目でご覧になってはいかがでしょうか」
その言葉に、美土里は胸の奥が温かくなるのを感じた。蒼樹の言葉は、彼女の心の空白を少しだけ埋めてくれるように思えた。

蒼樹はさらに続けた。「芳雄さんは、非常に頭が良い方ですね。頭の中でいろいろなことを考えているため、常に思考がぐるぐると回ってしまうのでしょう。休まる時がないと言ってもいいでしょう。ある意味で、美土里さんと距離を置くことで、彼のヒートアップした頭を冷やす冷却期間とも言えるかもしれません」

「冷却期間」と聞いて、美土里は少し心が痛んだが、それでも芳雄の性格を考えると納得がいった。彼は感情よりも理性を優先するタイプであり、それが彼を魅力的に思わせる反面、時には彼女を遠ざけることもあったのだ。

「復縁の可能性はあります」と蒼樹は断言した。
「期間は少しかかるかもしれませんが、復縁はあり得ます」
この言葉は美土里にとって希望の光だったが、それと同時に、その光が届くまでの長い道のりを示唆していた。

「彼から連絡があるでしょうね。ですが、『好きかどうかわからなくなった』という言葉は少し不可解です。おそらく、彼が直接別れを切り出したわけではなく、迷いがあるのだと思います。『好きなことが明確にわかったら』また連絡が来るでしょう」

蒼樹の言葉に、美土里は思わず頷いていた。芳雄が完全に心を閉ざしたわけではなく、彼の中にはまだ迷いがある。彼女にとって、その迷いこそが希望の糸口だった。

「一年は見てください」と蒼樹は続けた。
「イメージとしては、渡り鳥がまた帰ってくるような感じです」
その比喩は美土里の心に静かに染み込んでいった。渡り鳥が季節を超えて戻ってくるように、芳雄もまた彼女の元に戻ってくるかもしれない。美土里はそのイメージを胸に抱き、辛抱強く待つことを自分に言い聞かせた。

美土里は、芳雄が彼女にとってどんな存在であるかを思い出した。
「彼は自分にないものを持っていて、わたしの世界を広げてくれる存在です」と蒼樹に伝えた。
「彼の優しさや楽しさも好きでした」
その言葉を口にすることで、美土里は再び彼への想いを確認している自分に気づいた。彼女の心はまだ彼に向かっている。それは揺るぎない事実だった。

占い師との短いチャットが終わり、美土里はスマートフォンの画面を閉じた。彼女の心には、蒼樹の言葉が静かに響いていた。
今は何も変わらないかもしれない。しかし、彼女の中で何かが動き出しているのを感じた。それは、芳雄を待つことへの決意、そして自分自身と向き合うための新たな一歩だった。

美土里は窓の外に目を向けた。青く澄み渡る空に、自分自身の未来を重ねてみた。確かに、その未来はまだ不確かで、どこかに隠れているようだったが、彼女はその空をじっと見つめることで、少しずつ自分を取り戻していくように感じていた。

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