【鑑定小説】偽りの占い依存者
占い師をやっていると、時々「この人、わかってるな」と感じる相談者がいる。いや、別に占いの結果に納得しているという意味じゃない。
もっと奥深い、何というか、「占い」というシステムそのものを自分に都合よく利用してるな、という人たちだ。
あたしはその手の人を内心「🔴🔴クライアント」と呼んでいる。彼らは占いに依存しているように見せかけて、その実、まったく違う目的であたしの前に座ってる。何のために来ているかって?他人の貴重な時間とエネルギーを奪うだけ、自分がいかに不幸か、愚痴を言いたいだけ、話を聞いてほしい、自慢話したがるだけの人種だ。
最初は、そんな相談者にも真面目に対応するわ。だって、お仕事だしね。ひたすら愚痴を聞くだけの愚痴聞き屋さんも存在するんだし、ちょっとは愚痴に付き合ってもいいじゃない。でも、愚痴聞き屋さんと占い師を一緒にしてほしくはないわね。職業倫理的にもね。
「はいはい、わかります、辛いですよね、じゃあカードを引いてみましょうね」とかいって、いかにもそれらしく、彼らの愚痴に共感してみせる。
で、カードを広げてみると、まあ、大抵の場合、彼らの望む結果にはならないわけ。なぜって、運勢は彼らの都合に合わせて動かないから。
その瞬間、彼らは豹変する。「そんなはずないでしょ!」と声を荒らげ、まるで自分が神のようにすべてを知っているかのように占いの結果にケチをつける。
「あなた、本当にちゃんと見てるの?」なんて言葉を投げつける人もいるし、最悪の場合、「ああ、もういいッ!時間の無駄だったわ!」なんて捨て台詞を吐いて出ていく。
でも、こういった中傷、非難、罵声などどうってことないの。だってわかりやすい反応じゃないですか。あたしにとって一番嫌なのは「イヤミ」
直接的でなく遠回しに小バカにする含みをもった言い方。それも、自分で思いっきり勘違いしてあたしのこと一方的に決めつけて帰り際に吐く、イヤミな捨て台詞。たとえば、こんなイヤミ。
W不倫の相談にこられた御婦人。最初から「🔴🔴クライアント」とわかってたから、早く帰ってほしいとおもって、カード引いて”現実的なアドバイス”をしたのよ。そしたら、あたしのアドバイスがお気に召さなかったらしくって、相談料を投げてよこして、
「あなた、浮気されたことある?」
「いいえ」
「でしょうね!あなたの占いでよくわかったわ!」
こちらの返答を待つことなくその方は、椅子を蹴って出て行ったの。
要は、あたしには、浮気された経験がないと根拠もなく一方的に見立て、だから「あなたには浮気された人の気持ちがわからないのよ!」とあたしを責めたわけね。
自分でW不倫しておきながら、夫から浮気されたのが許せない、と。自分で何を言っているかもわからないような、そんな人から一方的に決めつけられても反論や弁明する気も起こらないんだ・け・ど!
そもそも、人の気持ち理解するために、同じような体験しないといけないんですかと。間違って殺人を犯してしまった人の気持を理解するには過失致死の経験をしなきゃいかんのですかと、
ていうか、あたしは当時浮気されるような相手がいなかったから。
そもそもパートナーがいないのだから、浮気されるわけないから「いいえ」と正直に答えたまでで。
ていうか、パートナーとして浮気するような相手は選ばないし。だから浮気される経験は一生しないだろうし。万が一、万が一パートナーが浮気をしたとしても、パートナーを責めることはない。
どころか、浮気される自分の責任と受け止めるタイプ。あたしに魅力を感じなくなった人の気持ちをムリクリに振り向かせるようとするなんて野暮なことはできないのよ。だってそこにはもう愛がないんだから。愛してるふりをされるのもイヤだし……
相談料投げつけてきたこの女がいう、浮気された人の気持ちとかと、全く違うわけ。だから、この女とは会話が一生噛み合うことがないわけよね。
こういう人たちに共通しているのは、一切の感謝がないということ。
普通、占い師に頼ってくる人って、少なくとも最初は「何か解決の糸口を見つけたい」とか「誰かに話を聞いてほしい」という思いがある。そして、少なくとも一度は感謝の気持ちを述べて帰るものよ。
だけど、「🔴🔴クライアント」は違う。彼らは、最初から解決する気なんてないの。ただ、自分の不満を吐き出すための舞台が欲しいだけ。だからあたし(占い師)はその舞台装置の一部にすぎない。
そして何より、彼らはあたしの時間とエネルギーをどんどん奪っていく。占いの結果に文句を言い、気に入らなければ次々と質問を重ねる。
その繰り返し。心の中では「そんなに話したいことがあるなら、友達かセラピストに話せばいいのに」と思うけど、言えるわけがない。
占い師という職業倫理上、どんな質問にも真摯に向き合うことが求められる。だからこそ、「🔴🔴クライアント」はあたしの弱点を知り尽くしていて、その上を堂々と土足であがりこんで歩いてくるのだ。
ただ、見抜けるようにならなければならない。占い師もプロフェッショナルだ。彼らのような時間泥棒を相手にしていては、他の本当に助けを求めている人に使うべき時間とエネルギーがどんどん削られていくからだ。
そして、これはもっと根本的な話だが、感謝の気持ちがない人間からは、何をしても吸い取られるだけなの。どんなに頑張っても「ありがとう」の一言さえ返ってこない人を相手にしていると、自分が空っぽになっていくのを感じる。だから、占い師には彼らを見抜く力が必要。
そうじゃないと、どこかで自分が壊れてしまうから。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。したがって、ここに登場した「🔴🔴クライアント」は架空の人物です。
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