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【✏】えんぴつ堂 #29~#56

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!

【29】
【✏】お礼は仕事でするなんてそんなの自己満足ではないだろうかあなたのためだけの言葉をこんどはこちらのためだけの言葉で返して欲しい外野は黙っていて部外者の声はいらないあの人の言葉だけ届きやすい場所まで取りに行くそれが怒りでも蔑みでも構わないだから

答え合わせを、させて下さい

【30】
【✏】温かい紅茶の中でだけ、育つ花があるらしい。カップに種を入れたら意外と速く、芽がにょきにょきと伸び始めた。あなたがくれた小さな種。水面のつぼみが纏う湯気と水滴は、夜明けの霧と朝露だ。花言葉はあなたの名前にしよう。今は無理でもいつかの勇気を、育てたいって気持ちが生まれたから。

【31】
【✏】時計の針から隠れるように部屋を暗くして、もぞりもぞりと寝床に入る。目を閉じて、ピストルの形にした指を頭に押し付けた。銃撃音は脳内だけで響く。羽虫のように頭に蘇ってくる今日の諸々を撃ち抜いてから、眠れ、眠れ。

【32】
【✏】傷つく程ジョークが過剰になる人ではなかったか、そう気づいた瞬間駆け出していた。胸騒ぎに追いつかれながら同じバスに乗り、車内混雑に阻まれる。先輩はスマホをただ眺めていた。どんなメッセージが妥当なのか、そういえば先輩の最寄りってどこだっけ。知らなかった、ただただ知らなかった。

【33】
【✏】潰してしまったデートの隙間を埋めるように、肉球がぽんとケージを打った。直接的な理由はキミが急患で運ばれてきたからなんだけど…。そういえばこの噛み跡もあなたのじゃなくてクランケの歯でした。さてどうしよう、語尾ににゃんとでもつけて喜ぶような彼じゃにゃいのだ。

【34】
【✏】日焼けした本というものをどう扱えばいいのだろう。綺麗ではないが、知らない仲でもない。潔癖の気が騒いで袋を用意するも、装丁の雰囲気惜しくてシースルーの袋にしてしまった。本の内容はすぐ忘れるのに。熟れすぎた物体はただ今も、筆者の主張を守り続けている。

【35】
【✏】軽くお酒を呑んで、その後にでも話しましょう。今日行った取引先の蛍光灯ね、新調してたみたいでやたら光がべたべたしたの、光が。ああ今日のアテは何を食べよう、辛いものがいいかなあ。ラジオのように唱えてヒールを地面から浮かせた。
「君とはね、お化粧してない話がしたいのです」

【36】
【✏】ひとたび天使を見かけると、人間は群がりその羽根を剥いてしまう。それは皆に共通の、善悪から遠い本能とされている。だから彼も彼女も、美しさを隠して生きる。
翼を授かるのが遅い天使もいるらしい。いちばん幸せなのは、自分を天使に憧れる人間だと信じ込んでいる天使なのかもしれないね。

【37】
【✏】本当に振り向かせたかったのは夢よりもマイクの群れなのかもしれなかった。マイクを持つ力のある者達ということかもしれないが、どちらでもいい。「あなたのように輝くにはどんなことをすればいいですか!?」ああまた始まった。最近どうも言葉が通じない、拍手ばかりする人生を選んだ人間とは。

【38】
【✏】「超欲しいものに限って非売品なんですよねえ」“友情”の入ったショーケースにハタキをかけながら、新人が独りごちた。「やっぱ今日び“友情”売れないし“愛情”の隣に置きたいですけど…あーだめか、“温度差”出さないといけないんだった」新品売るのは難しいっすよ、ぽつりと本心を響かせる。

【39】
【✏】笑顔をやめてくれ。お前は生意気顔でこの額縁の中、私が振るう怨嗟や八つ当たりや理不尽や暴力を空想上で受けていれば良かったんだ。どうかその枠を越えてくるな、自分のことを誘ったり与太話を持ちかけたり肩に触れながら話したりしないでくれ。笑顔をやめてくれ。笑顔をやめてくれ!

【40】
【✏】浴槽は巨大な瞼だ、許容量を超えれば涙が溢れる。張りすぎた湯の中で、僕らは背中だけ合わせて嗚咽を伝え合った。未来は見えない茨道。肩越しに振り返れば、俯く君の向こうに獣道。顔を洗ったら笑わなきゃいけないから、今だけはどうか見逃して、空白の時間をこの部屋にもたらして。

【41】
【✏】永遠に幸せに暮らしましたってオチの単純さについて。「そりゃそうだよ、彼女は魔法使いになりましたなんて書けないし」…魔法使いになった?「うん、きっとそういう事だよ。お姫様は巡り巡る」えーと、つまり…「ほら行こ、灰かぶり君!」こうして今日も僕らは独自の解釈で、独自にデートする。

【42】
【✏】胸の涙が熱くなったから五線譜を出したんだ、どんな旋律を吐き出すのか知りたくて。でもまあ、涙の粒はぼたり!びちょり!と汚い音で五線を喰らって巻き込んで、調和なんてなかったよ。嗚咽しながらその譜面で涙を拭ったけど、それがまた痛いの何のって……ところで君、ティッシュ、要るかい?

【43】
【✏】みんなみんな優しいから、踏み込まずにいてくれる。通過電車の側面が、人工的な風を浴びせかける。だけどきっと、こうやってずっとホームにいるのは、笑って他の乗客に手を振ってばかりなのは、歩き方を忘れてしまいそうだから。
暴かれたいと思った時が、変わりたいと思った時だ。

【44】
【✏】「ないの、ないの」街で一番の魔女ちゃんは器量も才能も道具も努力もお金も笑顔も人に好かれる心も持っています。彼女を知らない人なんていません。「ないの、ないの」でも一体どうしたことでしょう、魔女ちゃんは足元の杖に泪をこぼして泣いています。「ひとにあげる、やさしさがもうないの」

【45】
【✏】「絶好のデート日和、バッチリ憑いて参ります!」「肩が凝るやめてくれ」「えっ腕を組んでいい…?しかも腕の中で甘い口寄せを」「喚ぶな」「なーんて、透けてない人達の前でそんな事しません!こう見えて怨/OFFの切り替えは得意なんです、さあ生きましょう!」「そこは逝くじゃないのか…」

【46】
【✏】「ねえ、きみが演奏してくれている間、ぼくはどうすればいいんだろう」
「じゃあ、寂しくないように時折目を合わせてあげる。僕は準備を見られるのが恥ずかしいな、あまりチューニングが得意じゃないから」
「なら、ぼくにも手伝わせて。きみが恥ずかしくならないように」
「…嬉しい」

【47】
【✏】誰かのマスクが道に落ちてる季節だ。白すぎて使用者に馴染まなかったのか、吐き出すべきものを籠らせてしまうから疎んじられたか。口裂け女なんて怪談もあったけれど、今日びは彼女も立体タイプのものなど使ったりするのだろうか。そんな事を考えていたら連続して咳が、こぼれ、た。

【48】
【✏】何もかも深夜のせいにして、ずるずるずるときしめんを啜る。自棄、ぼやける夢、逃げていく夢。店主が見ているのであろうテレビが、何も知らない談笑を流す。知らないだろ、あの番組って、実はさ…。割り切れない感情を、もちもちもちと食いしばった。

【49】
【✏】『 早く来てね、証明写真機の中にいるから』息を切らしてカーテンを開ければ、学生鞄を抱えて目を閉じ座るあなた。こちらが少しでも遅れるといつも場所移動して困らせるのだ、詩集が手からこぼれそうじゃない。手を伸ばして表紙に触れると、不意に鼓膜が揺れた。「私の寝たふり、上手かった?」

【50】
【✏】朝はいつも忙しいから、星占いはスルーする。でも公園の中、昔おばあちゃんがおじいちゃんと出会ったっていうヤマモモの木を通る時だけは、何食わぬ顔をして木の周りを一周してから学校に向かう。
(こんなささやかな儀式、誰にも見つかりませんように。でも、だれかが見つけてくれますように)

【51】
【✏】憎むべき黒幕が闇の空に坐すなら、僕は朽ちた教会の長椅子に、その日まで静かに横たわろう。冷たく暗く固い程、君とその一行への期待は高まる。来るべきその日、君の心が強く在るなら、この力は全てあげよう。さもなければこの喉を貫こう。誰かにとってのファンタジーは、僕らにとっての現実だ。

【52】
【✏】空からマリーゴールドが降る。見て見ぬ振りをしがちな僕にも、鈍臭いキャラを通しがちな君にも降る。スマホを構える人、歓喜の声を上げる人、慌てて掃除用具を探す人々。このまま降れば夕焼けとのコントラストがきっと綺麗だ、気取った振りをした僕の脳天にも大振りな花がぼすんと命中。

【53】
【✏】近頃の飴の包装の中は小石だらけだ。初めて石を口にしてしまった時は憤慨したが(運転中でよく見えなかった)、いつしか自分も周囲もそれが当たり前になっていた。たまに甘いキャンディが入っていたらラッキーという程度だ。ある日包装を開いたら妙に鮮やかで滑らかな塊があった。
「…天然石?」

【54】
【✏】両引き窓から海が見える。かつての棟梁も窓辺のベッドで老人になった。「何か、新しい事しませんか」波が寄せる。「新しい事ねえ…」波が返す。「生涯現役って言ってたじゃないですか、俺何でもしますよ」寄せる。「……いやあ、さあ…」返す。底にある思いまできっと、水は運び合ってしまう。

【55】
【✏】転びかけた見知らぬ女性を支えてしまったのだ、ダブルアイスとミックスソフトをそれぞれに持った手で。「「……」」「す、すみません」「こ、こちらこそ…その、アイス党で…」「大丈夫です…、…べたべた…」「…」「あ、いやほんと助かりました、はは、…冷た…」「…あの、今時間あります?」

【56】
【✏】アニメのような解決はそうないのに、そのワンシーンのような出来事だけは転がっている。さっきの人は、本当にあの人だったのだろうか。似ていた。目は合わなかった。そうだとして強い関係性は別にないから、足早に離れた。…退屈だなあ。声が声にならなかったから、退屈が退屈のままだ。

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