【✏】えんぴつ堂#445~#472
使用の手引き… https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!
【445】
【✏】「宝くじとか高額当てたらさ、その権利渡したい奴っている?」「…権利?一円も使わず?」「ん。全譲渡」冬空。「…それはさ、逆に誰かから貰っても重いよ。プレッシャー」「確かに何か疑っちゃうな。じゃ俺が当てたら全額自分用ー」「言ってろ!俺が当てるし」売り場の列は今年も緩やかに進む。
【446】
【✏】「弱いままでいいじゃないですか!今日も明日も迷えばいい!私は素顔の貴女に仕えたい!」新人メイドは主たる私の仕事を中断し、勢い良く床に組み敷く。ヘッドドレスが髪からずれて涙の数粒が落ちたけど、その身のこなしに驚いてしまう。「オーバーワークですよ…。無理するお嬢様、大っ嫌い…」
【447】
【✏】“自分ばっかり大切にしないようにね”。淡く桜が描かれた便箋、柔らかな筆跡でその一文は綴られていた。心当たりを文字がかすめる。うるさいな、と思ったけれど、破り捨てる気にはならなかった。
高齢の親族からの、優しさとつめたさが混ざった手紙。ばつが悪くて、引き出しの浅瀬へと片付けた。
【448】
【✏】オカルトを信じない僕にも、子供時代のジャングルジムは結界を連想させた。最上段まで元気に登りたい日じゃなくて、“一階”をぐるぐる回ったり、一段目に座ってたい日。外から丸見えだと分かっていても、まるで誰にも見えず護られている気分になった。出たい時には出口から出られる、優しい結界。
【449】
【✏】私の心臓はワッフルで、お高くとまってるとか近寄り難いとか思われてるのかもしれない。でも本当は固くないし素敵なものをしまう窪みが多くいし、感受性に触れた味をトッピングして楽しんでる。「…食べてくれたって、いいのに」ドーナツショップのイートインで、入試対策ドリルに独りごちた。
【450】
【✏】枯れた花に恋をした。周りには言えなかった。僕は運動ができたから、ある日、二つ隣の家に侵入した。庭から枯れた一輪を摘み取る。誰にも気づかれる事はなかった。花盗人と被害花の関係に、僕は笑みを堪えきれなかった。まるで見えない蜜のよう。空は青く眩しく、いつも通りの快晴だった。
【451】
【✏】「ここは筐体の町。臆病な商人が、夢と商品を機会に詰める。勇気がある日は、私のようなガイドをする」熊の着ぐるみの加工音声を、排出されたての麺を啜りながら聞く。「美味しいですよ、この肉うどん」音声が止まって、震え始めた。「それ、実は…我が家の商品なんです。…妻に、伝えても…?」
【452】
【✏】「高速料金所でのバイトの時だけなんだ…。あの短時間で何故か握手を求められ、チップを積まれて上司はご機嫌。渋滞はイベント待機列。帽子を目深に名札隠して変装して、バズる前に違う地域に飛ぶ。明日発の飛行機で九州だよ…」「ヤバいモテ方っすね」「俺は都市伝説かよ!普通にモテてえ!」
【453】
【✏】可燃ゴミを出さないと魔法が使えないの。って待って!もうちょい話聞かない!?…こほん。人間界に来たあたしは魔研究に励みすぎて、ある日不衛生な生き物の侵入を…ひいぃっ!と、とにかくその影響で術公式が「ゴミ出し>魔法」に書き換わったの。何よ!適応力よ!連れてって!戦力にしてーっ!
【454】
【✏】やまない雨がなくっても、きっとあの子はやんだ事にすら気づかない。だから探そう、あの子に探そう、素敵な軒下を探しに行こう。思いきり叫べる場所、泣ける場所、取り繕わずいられる場所、虚ろなままでいてもいい場所。降りおち弾かれる雨粒の音で、もう濡れなくていいんだって気づける場所を。
【455】
【✏】学生時代、国語のテストで一番得意だったのは、指定の単語をいくつか用いて解答する記述式問題だった。ヒントの単語は、まるで暗い洞窟を照らすランプのような勇気をくれた。
そうして大人になった今、僕は指定のキーワードを含んだ、Web検索の上位にヒットさせるための文章を書いている。
【456】
【✏】祈りの形に両手を合わせれば、そこには確かに温もりが宿る。ああ、ああ良かった。まだ自分は、こうして何かを生み出せる。友人に、親に、恋人に、動物に、見知らぬ誰かに、世界で一番小さなこの熱を届けようか。
今はただ、今はまだ。瞼を閉じる。あたたかなままの掌を、自分の胸へ押し当てた。
【457】
【✏】「寄りかかって生きてきたように思うんだ。…あ、また肘ついちゃってたな。 こんな風にさ、腹も背中も体重も、気がつくと壁や棚に体重を預けてて…。まずは、どこにもつかまらずに立ってみようかなって。金のほうの自立ができるかはわからないけど。ひねくれた性格もわからないけどさ」
【458】
【✏】「思いが通じる期間というのは、きっと思うより長くない。同じ言葉を使っていても、環境や気持ちや病気や争いで…認識できなくなる事もある。誰もが恥ずかしがっているけど、分け合えそうだと思ううちに、テーブルに誘ってご馳走を並べよう。きっと、美味しいって、笑い合えると信じて──」
【459】
【✏】「アイセキデキマスガ、イカガデス?」「じゃあお願い」喫茶店の配膳ロボには店主の好みが宿る。子供の頃は恥ずかしかった相席機能。「シリトリシマス?」「はは、んな落ち込んでない」「マスターノヒミツ、キキマス?」「え!?…ちょ、ちょっとだけ」「マイド!200円ツイカー」メニューかい!
【460】
【✏】「この虫取り網で、不幸の因子を捕獲します。てや。そして、フィクションの世界に送ります。てい」…と言われても、ちびっ子が楽しく虫取りしてる様にしか見えない。「それで良いです。隠密なので」じゃあ、幸せもフィクション世界から持ってこられる?「現実なめんな」網の縁が鳩尾に入った。
【461】
【✏】まずは、今の自分を救おう。ひとまず済んだら、明日の自分を助ける準備をやってみよう。なんとかやったら、今度はあの人の力になりにいこう。大事と考えるものを想う。そうすれば、続けてみれば、目に見えないレバーが傾く。スイッチが入る。自分の手で…進む道が切り替わる音を、聞きたかった。
【462】
【✏】今年の雪は心にまでしみる。白い刺激、まるで消しゴムを強く擦るように。思い出したくない事だけ都合よく溶ければいいのに。(…あるいは、)ぼくの中にだけ降ってほしい。懸命なあの子は今人生を賭けてるから、どうか凍えさせないで。雪の後に太陽が昇るのなら、雪うさぎのようなあの笑顔の上に。
【463】
【✏】「あ、ブーツん中ゴミ入った。肩貸して」肩に手を置かれて、僕は即席の柱と化した。君は片手でブーツを脱ぎ、器用にひっくり返す。肩から髪が滑り落ちて、片脚立ちのタイツ越し、その筋肉に力がこもる。「出せた。あんがと」「ん」思わず目を逸らした。…色気って、意外と日常の中にあるんだな。
【464】
【✏】いつだって、友達がいると頑張れる。そして…友達がいると見栄も張ってる。知ってる!とか聞いた事ある!とか、早押しクイズみたく。そんな知ったかぶりをした言葉を、家で一人で調べてる。知らなかった、初めて聞いた…。それでも友達との時間は大事だった。学校の勉強より、遥かに大事だった。
【465】
【✏】「あっヤベ感想言う約束…最初の方はふわっと見た、よく分かんない世界だけど何かすごかったうん、そこから素敵すぎて脳がストップしちゃったっていうかさ!ってかごめん最近寝てなくて!また後で言葉選んで感想言っていいかな!」「わかった。ぼくの作品への感想よりきみの性格の方がわかった」
【466】
【✏】確かに最初こそ、わたくしは囚われて此処に来たのかもしれません。ですがいつの間にかこの檻が、わたくしを外の恐怖から護ってくれているように思えて…。今ではこの柵の一本一本にお名前もつけております。ねえ、冒険者様。貴方様の「救い出す」という言葉は、どういった意味なのでしょうか…?
【467】
【✏】家の床を水路に変えて、掃除機も今だけ櫂にして。電源を入れたらゴンドラのように歩いて、鼻歌を唱えばカンツォーネ。視界は広く、壁に船尾をぶつけないように、ゆっくりと、ゆっくりとオールを捌く。柔らかな風、透き通る水まで思い浮かべて。何て事ない家事の時間が、今日は小さな空想旅行。
【468】
【✏】孵りたくない。ある日、卵の殻に小さな穴があいて、外界の一部を見てしまった。脳は気づいてしまった。細胞は知ってしまった。そうしたらもう、孵りたくなくなった。そして今は、周りの卵に隠れてる。…他の卵の中の奴等も、息を潜めているのだろうか?目を閉じて、生まれていない振りをして…。
【469】
【✏】大人になろうが持久走感は続く。「一緒に走ろーよ」「いーよ」「テスト勉強した?」「全然」の気持ち。けど、変わった点もある。「…企画考えたんだけど入ってくれん?」抜かれて憧れたら声をかける。走るコースも試験範囲も変えてやる。ざまみろ、過去達。汗に笑いながら、自分自身を完走する。
【470】
【✏】復讐のために、カミソリの種を植えました。だけど花が咲くまでには何年も何年もかかって…一生許さないけれど、ふと、遠くにも思えてきました。実った刃を落として、食用花なのでハーブティーの上に浮かべて…。苦みは取り切れてないけれど、あの頃よりは広い気持ちで、この手紙を書いています。
【471】
【✏】専門家や有識者じゃないため完璧は求めないでください。個人の感想なので理論とか確実な事は分からないのでご了承ください。自己責任でお願いしま「そんなにたくさん予防線張るなよ。責めないよ。恥ずかしくないよ。間違ってたっていいよ。切り貼りの文字列は寂しいよ。君の言葉が聞きたいんだ」
【472】
【✏】子どもが初めて作ってくれた花束には、枯れた花や虫が添えてありました。ショックでその手をはたいてしまいそうになったけど…ここで冷たくしたらこの子はどうなるんだろうって。受け取ると照れながら笑っていました。花束についてはきちんと話し合いましたが、あの子の優しさは私の誇りです。