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【✏】えんぴつ堂#418~#444

使用の手引き… https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!


【418】
【✏】ライブに行くとね、体の内側が入れ替わる気がするの。うん。自分で取れないパーツがぱきって外れて新しい部品をもらえるの。うん。──めったに自分から話さない、君の声に熱がにじむ。観客達に混ざりあい、手を繋ぐ僕らは駅へと流れる。終演後の熱帯夜、感想のコーレスを静かに交わして。

【419】
【✏】電車が動き出す前に、早く気持ちを伝えなきゃ。ドキドキするけど、一人きりだけど、座ったままじゃ届かない。これから、長い長い道のりが始まるんだから。…胸に手を当ててきゅっと握り、意を決して立ち上がった。後ろに座るその人に、思い切って言葉を紡ぐ。「座席、倒していいですかっ…!」

【420】
【✏】ロックグラスを掲げたまま、兵舎の隅で同期の五人は立ち尽くす。誰一人として祝辞も乾杯も言い出せない。明日の戦線に出れば、一人も戻れない事が分かっているからだ。それでも我らは進軍せねば。半ば無意識に、震えるままに伸びた五つの手が、無情にも互いのグラスを鳴らした ──最期の乾杯。

【420】
【✏】朝目が覚めると布団の上、小さなプラスチックブロックが積もっている。埋められているような気分だ。色付き透明ブロックには、思い出や妄想が入ってる。
眠気の中、僕だけが見えるそれを落とす。床に落ちれば耳障りな音と共に消える。全部消したら起き上がれる、こんな作業を起床と呼んでる。

【421】
【✏】利用規約を指で飛ばして、知らない地名を知ってるフリして。あまりつまびらかにしたくないようなことこそが、人生の小さなパーツになってしまっているのだろう。
夜闇に灯す白い吐息は、スマホが流行るずっと前から人類史に映えていた。今日の心象風景を、きらきらさせているのは誰だろう?

【422】
【✏】深淵を伺う時、深淵はきみの前に覗かれた人をまだ想ってる。きみの事を見ているのは、空にある星のひと粒だ。その星をとらえるのは、遠い異国の草原に佇む獣だ……ああマジックミラー、眠ることも振り返ることも忘れて、目標をぼくらは見つめる。熱く、熱く。星座にならない、まっすぐな星線…。

【423】
【✏】「“お飾り”とか言うけど、飾りだって人が作っていて…。はやく指をかけて開きたくなる包装って、あると思うから」リボンを結いながら呟くバイトは、社内の誰より精巧なラッピングを施す。下働きとしてプレゼントを包むのが、彼の幸せなのだろうか?「…縁結びは、できないですが」頼んでねえよ。

【424】
【✏】「習得とは、技術を皮膚の内側に招く事だ。小さなスキルだっていい。新しい技と組み合ううちに、震える足から染み渡り。やがて心よりも強くなって、お前自身を守ってくれる」……師匠の言葉が、日常のかたちの雲に溶けていく。その言葉が鮮烈なうちに掴み取って、ぎゅっと皮膚の内に押し込んだ。

【425】
【✏】どっかの研究所のAIによると、現代人に必要なのは「演技力」らしい。そりゃそうだ!お前みたいに素顔でズバズバ、とっくに知ってる事を言われちゃムカつくから間違いじゃないんだろう。だけどこの夜、僕はシャーペンを握りしめてる。君への感情は演技じゃないという旨の、告白文を書いている。

【426】
【✏】「新西口改札の鬼ってのがいて」「怖っ…」「旧西口と東口のチームには一回も勝ててないんだけど」「弱っ…」「駅エレベーター前に陣取っててさ」「ごくっ…」「お年寄りの荷物持つのにハマってるみたい」「優しっ…」「新西鬼の話?隣の駅のレディース総長と入籍するって」「「めでたっ…」」

【427】
【✏】何かを身につける。そうすると少しづつ、できなかった自分とは別人になっていく。嬉しくって、自分自身への優越感があり、それでいて泣き出す直前みたいな高揚。振り返れば線路沿いに、できなかった自分が立っている。目を瞑ってから前を向いて、未来だった景色を浴びた。
「──できた……」

【428】
【✏】「レモン羊羹!!!」何て罪深い写真!!まっきいろで、みずみずしくって、嫌な事なんて吹っ飛ぶようなエネルギーの塊!!実際さっきまで何を悩んでたか、羊羹を切ったようにすとんと忘れてしまった。「ありがとう、カタログギフト…」番号を葉書に書き込む。甘い香り(幻)にうっとりしながら…。

【429】
【✏】テーブル席なんて座るんじゃなかった。あなたがくれた鞄を向かいの椅子に置いたら、感情がもっと絡まった。このドタキャン野郎。「…すみません。席、カウンターにしてもいいですか」長身の店員に、泥みたいな勇気で声をかけた。意外と好みの顔。もう、この人とでもどうにでもなれれば良いのに。

【430】
【✏】「人生の寄り道、一コ終えてきた」「おっ!本筋戻んの?」「まさか。そんなん体が吸って吐いて、巡ってるだけで十分だ」「でも仕事は、生計は…」「それも正面固定じゃ滅入るだろ。たまに脇に置いて、また別の寄り道するよ」そう、人生は道草でできている。王道を進んでいるように見えるだけだ。

【431】
【✏】全く“ありがとう”を言わない人がいる。全部“ありがとう”で済ます人もいる。仲が縮まった気もするし、只の儀式の言葉にも聞こえる、まるで包装紙みたいな文句だ。今さっき貰った、参加賞の景品のラッピングの様な…。…あれ、あの時の自分、どんな顔してお礼言ったっけ?そもそも、言ったっけか?

【432】
【✏】ルールを破る時ほど、覚悟を持ってた方がいい。知らずに破ってましたってのが一番ダサい。誰が見ても良くない決まりも、それを踏み越えようとするのなら、生み出した人の願い事に楯突くことになるのだから。そいつが愚かで視野狭窄でも、同じ願いを遵守した人もいる。覚悟を。負けないように。

【433】
【✏】カラオケで誰も知らないような曲を入れて、歌いながらあいつは涙まで流し始めた。僕らの間に無音の気まずさが駆け抜けて、スマホを出す奴とか、トイレやドリンクバーに行くって立つ奴が出た。みんなあいつと近くなかった。右往左往に濁った部屋には、もうすぐ誰かが入れた定番曲が流れ始める。

【434】
【✏】ベランダに出てシャボン玉を吹く。漂う行先も気にせずスマホを取ろうとして苦笑した。思い切って電源から切ったじゃないか。徳用シャボン液を買ったから、容器を一個倒すくらいじゃ子供時代みたく動揺しない。シャボン玉を吹く。気分転換っていうのは、合間にシャボンみたいな時間を挟む事だ。

【435】
【✏】世間は今日も文化祭だ。ショーやライブは公演数が多すぎてプログラムに載りきらない。バックヤードでは誰かが声を抑えて泣いてて、施錠された扉が並ぶ。僕はまるで模擬店のような飲食店の割引券を握りしめ、アプリで出会った店番のあの子に声をかけようとしていた。よかったら一緒に、回らない?

【436】
【✏】「俺らの制服も、多分凄い会議ーとか土下座ーとか通ってさ」「土下座…?」「人のパワー超詰まってんの。でも俺らバカだから、キョドるとそゆの忘れて脳内でパラメ0にしちゃ…おわ次移動!」一緒にされたのは癪だが、着衣の重みがじんと増した。忘れられない事の欠片は、10分休みに転がってる。

【437】
【✏】出社しようと外に出てぎょっとした。天まで伸びる透明な柵が、歩道も車道も横切って彼方まで続いてる。皆気づかず、私にしか見えない柵をすり抜ける。檻?装飾?しがらみ…?
足を速めたら柵は消えた。疲れのせいかファンタジーか。(…またあれ、出るの?)人生にはいつだって、案内役が不在だ。

【438】
【✏】あぶくの夢を見た。海中を漂う自分の体。唇から零れた気泡が、黄と金の水面を目指して舞い昇る。不思議なほど丈夫なあの泡は、一生かけても割れないのかもしれない。そんな奇妙な発想に背筋がこわばった。もうすぐ体が泡に追いつく、そこで覚醒した。普段通りの部屋と朝。「…逆、人魚姫…?」

【439】
【✏】「ホント何でFC先行で取れないの…」「応募人数が収容人数を超えたから」「それは分かる!分かるが!」「だからこうして一般スタンバイしてるんでしょ。後二分」「ギャー!」…ありがと。チケットは絶対欲しいけど、もっと素敵な存在もあるよ。興味無いって言いながら、今も隣にいてくれるから。

【440】
【✏】伏線を張りながら生きてるようなコなんです。見てや構ってより
「私を読解して」
「私を解釈して」
「私を考察して」
って…でも現実、応答の声はないし、当人も臆病ですぐ走り去る…まるで何かの物語や登場人物にでも変身し損なっているような…しかもそのコだけでなく…蔓延っているような…。

【441】
【✏】全能感には簡単に浸れる。指先一つで望む相手に情報を流せる。全能感は簡単に消える。手の中の機器の電池残量に慌てふためき、充電器を求めて鞄をかき回す。やっべ、これ多分家のコンセントに挿しっぱだわ。スマホは板に。解答送信は未遂に。斯くして、ありふれたカンニング作戦は霧散した。

【442】
【✏】土壇場で発揮する思いやりも、決して偽物ではないけれど…親しいきみや親密なきみが相手なら、もっともっと深い行動を取りたい。好きなもの、抱えたもの、持病、こだわり、家族構成、価値観。内緒話をした声、絆を深めた日…。きみが未来へと羽ばたく助けになれるよう、時折そっと、思い返そう。

【443】
【✏】花を飼っている。一つ目は、引っこ抜かないこと。二つ目は、花の気持ちを考えて水を注ぐこと。100均で売ってた観察日記の「観察」を「更生」に書き換えて、そよ風に吹かれながら記録をつける。花。強い植物。自然を作る緑色。…三つ目は、迸る感情を、頭の中の支柱へと冷静に巻きつけること…。

【444】
【✏】「この(1)の解法ってさ」「なんもわからん!これはマカロン☆」サクッ!時が冷酷に止まった。マカロンを齧りウィンクした友人のキメ顔…。「…じゃあ(2)は」「それも知らん!これはマカロン★」サクッ!…そいつの側、安物の菓子箱はもう空だ。…くそっ、ちょっとやってみたくなるじゃないか…。

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