【✏】えんぴつ堂 #362~#389
使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!
【362】
【✏】体温を持つパートナーロボットが普及すると、老若男女は欲や役割や願望…無数の機能を彼らにダウンロードして、各々の部屋に閉じこもった。僕は…僕は、このロボットの部品とシステムが好きで、それを話せる“誰か”と出会いたかった。微笑みの機能だけをインストールして、僕は彼女と旅に出た。
【363】
【✏】フライドポテトと参考書。試験勉強は捗るわけもなく、ケチャップに浸した五本のポテトはマッチ棒の束みたいだ。一人だから大口開けて複数食い、舌に塩がじわりと染みる。この美味しいマッチが体内で、ばーんと爆発しちゃえばいいのに。(…太るだけなんだよなぁ)バーガーショップを夜が包む。
【364】
【✏】故意に、誤ったオペレーションを与えた。可愛い衣装と武器の戦士に、適性検査落ちの私は嫉妬していた。『ごめんなさい…うまくできなくて』だから、救急車両のモニタから重体の彼女達が口を揃えて言った時、私は司令室の床に崩れ落ちた。あの傷を負わない指示を出す事が、私の本当の役目だった。
【365】
【✏】「秘密の儀式で僕のような霊を降ろす…今時のそういう人って霊に何を願うと思います?ファン登録よろしくね、ですよ…知るかよ…お前の活動…初対面だわ…」「お、おう…」こちらも呑み友欲しさに儀式をしたのだが、すっかり聞き役だ。「数増やしじゃねー!ひっく」「…うんうん、そーだよなー」
【366】
【✏】夏祭りが繰り返す。遠恋になってから、林檎飴は三個買うようになった。お互い一個ずつ味わってから、三個目の林檎に二人でかぶりつく。「…ちょ、べたついてきた。やっぱ切って食べない?」「えー、いーよ!べたべたしよーよっっ」赤いほっぺではしゃぎながら。水飴になりたいな、って思う。
【367】
【✏】隣家の子供は我が家の庭に、(おそらく外遊び中の過失で)度々物を投げ入れる。ピンポン玉、バドミントンの羽根、サッカーボール、ボウリングボール、ゴルフクラブ。そして今日仕事から帰ってみると、庭の土の上、子供本人がはにかみながら横たわっていた──。「えへ、飛んできちゃった…えへへ」
【368】
【✏】接着願望。僕はとにかく接着したくて。〈生徒相談室。ルイボスティーを好む学生は語る〉接着オフ会でも僕の願望が明らかに一番強くて、だからかな、一人あぶれてしまった…。僕は接着で僕の基礎を作ろうとしたけど、皆は既に別の物で基礎を作ってて、接着は趣味って。ずるいですよ、そんなの…。
【369】
【✏】「無事ですか!?無傷ですか!?」そう抱き止められる直前に、私は自分の両足で踏み止まっていた。確かに少しふらついたけど、この低血圧はいつもの事。「あ、すいませ…!」焦る手が身体を離れる。でも、嬉しい。こんなにも、日常茶飯事を心配してくれたから。「…ふふ、無事です。無傷です!」
【370】
【✏】大方それは運のせいだ。さもなければ天気やホルモンや場の雰囲気や民間伝承やポストの赤さのせいだ。疑わしきはこの部屋にも日々にも溢れている、共犯や相互に影響した可能性もある。
僕らは探偵ではない。容疑者は独りに絞らずいくらでも増やしてしまえ。君の心ひとつのせいにさせないために。
【371】
【✏】雨のせいで裏山探検は中止。あいつのドタキャンのせいで、テレビ接続での洞窟探索四人プレイもCPUにイラつくばかり。てかさ、もっといい冒険場所あんだけど。何だよ。あいつの裏アカ…。あいつ以外はこいつだけスマホ持ち。歪な探検隊は身を寄せて、深く狭い画面の向こうへ、スクロール…。
【372】
【✏】夢よ輝け…はまだしも、夢よ羽ばたけ!などと叫んだら本当に飛んでいってしまう。去った夢の連れ戻し方など、私は全然知らないのだ。小鳥のように儚いそれは、今は、伸ばした腕の手の甲に留まってる。見えなくたって感じてるから、目を閉じて語りかける。「…夢よ。私に向かって、さえずって…」
【373】
【✏】「もう試験始まる…あんた勉強した?」「できなかった」「?」「お前の事考えてて」「え?」「お前で一杯で手につかなかった」「…試験中意識しちゃうじゃん…」「しろよ」「えっ…」「俺はギャルゲー完徹だ、一緒に蟻地獄に落ちようぜ…」「ざっけんな外道!ノー勉!」そして、チャイムが響く。
【374】
【✏】お説はごもっともだけど、サンドイッチに正論を挟んで食べる気にはなれないよ。とはいえ正論も大事だから、バスケットの片隅にウェットティッシュと一緒に詰めた。…さて、今日のピクニック、サンドイッチの具はどうしよう?ひとりで食べちゃいたい欲求と、誰かと交換したい願いが互い違いだ。
【375】
【✏】夜見る夢って大好きなんです。もちろん、良い夢だったら嬉しいけど…怖い夢でも、覚えてなくても、何も夢を見なくったって。そのそれぞれが、あいさつみたいに誰かと話すきっかけになるから。…それに、「夢といえば…」なんて。ちょっぴり照れくさい昼間の夢の話にも、できるでしょう?
【376】
【✏】ご主人様の闇になりたい。…わたくしは一介のしもべ、影にすぎません。しかし、ある穏やかな春の日…気丈なご主人様の御心が、暗がりでずっと涙をこぼしていたと気づき、愛おしさにふるえたのです…。あの御方の奥底に潜って、一番外側の闇になりたい。やさしく、つつみこんでさしあげたいと…。
【377】
【✏】「重々しい鉄扉、怪しいモニター…」「俺達は閉じ込められた…まさかこの部屋」『そう、色々しないと出られない部屋。の隣の作業室…』「え?」『最近やらせたい事がなくなって…辛い…アイデアを下さい…あ、この扉は隣室用の沒作で、本物の扉は後ろ。奥にはお菓子と犬と仮眠室が』「「……」」
【378】
【✏】受付業が上手な人って、個人的感情をどうしてるんだろう。ベテラン先輩と立つインフォメーションセンター、棚の小さな鞄だけが、先輩のプライベートを辛うじて滲ませる。初日のあたしは目が泳ぐ。「あ、落し物…」「はいっ!承りま」「あ、いえ、ペン落としましたよ、貴方が」「う、うきゃー!」
【379】
【✏】「私、いい子の才能あるみたい。でもただのいい子って透明になって消えるから、類稀なるいい子になりたい。いつも最高に素晴らしい振る舞いを計算してる…これって悪い子かな?」「それは…」ありふれた子だよ、と言えずに口をつぐむ。君の大嫌いな言葉。君との正面衝突を避ける、僕も狡い子。
【380】
【✏】同じ謙遜するなら、頑張ってから言った方がいい気がするんですよ。マジでできないの隠してそんなでもないですーって言うより、実は努力して鍛えて磨いて研いでから「そんなでもないです」…って、カッコよくないですか?…ええ?堂々とって、それを言っちゃ終わりでしょう。ええ、捻くれですよ。
【381】
【✏】「風前の灯火」というギルドを以前見た時、メンバーは一人だけだった。「恵まれてる奴お断り( º言º)」の文面が気まずくて、参加申請できなかった。ある日、ギルドは「誕生日ケーキ」と改名していた。( º言º)は変わらずだったけど、メンバーは上限一杯で入れない。「…灯火、沢山集まったんだ…」
【382】
【✏】「わたし、土曜日は向こう見ずに過ごす事にしてるんです!」「おお。じゃどこにする?初デートの行先」「三つ…ハシゴ…」「飲み屋?いーよ」「山です。車で三座ハシゴ…てへ」「…え?」「あ、登山用具持ってないですよね!前乗りして麓にお泊まりしましょっか?きゃっ…!」「…き、きゃー…」
【383】
【✏】ルーレット台の向こう、チップを揃える掌が好き。本気。「番号は」「ディーラーさんの好きな数字」「ストレートアップにしますよ?」「いいよ。ディーラーさんが勝ったら私の事、買っ」「──No more bet.」白いボールが涼やかに鳴く。赤でも黒でも何番でも、墜ちていくのには変わりないのに。
【384】
【✏】「ちょっとコート着て、商品見ててくれます?レジは大丈夫なので」……サクラか。社員さんに言われるまま出て、ディスプレイの腕時計を一つ一つ眺める。ハイテクだ。じゃあ、サクラの木をしてる自分は、ローテク?「いらっしゃいませ!」社員さんの嬉しそうな声が響いた。客だ……レジに戻ろう。
【385】
【✏】「マルでもバツでもない、半分ずつの答えやオリジナルアイデアに溺れちゃう時期ってあんじゃん。自分スゲーって。そすると何でか、マルとバツを見下しちゃう。極端だ短絡的だって。でもさ、マルとバツがなきゃ、サンカク考えもシカク持論も出なかった訳で。それ、忘れんのはどーなんだろーな…」
【386】
【✏】ねえ神様。アタシとアイツの相関図って今どうなってんのかな。矢印の向きはそのまんま?ハートも変わらずついてんの?それとも、マネーとか悪魔のマークに変わっちまったのかなあ。ねえ神様、アタシはあんたの事大嫌いだけど。あんたがアイツを変えてくれんならって、神頼み、しちまいそうだ。
【387】
【✏】社員旅行は遊園地。自由時間、ひとり離れて観覧車に乗った。さっきまでの笑顔をオフ、テンションもニュートラル。小さくなってく人々が、園内をくるくる回ってる。
円周率より回転率を気にし始めたのは、いつ頃からだったっけ。少し気にかかるあの子を誘って、次はメリーゴーランドで回ろう。
【388】
【✏】「ディープブレスよ、ディープブレス。ね。お嬢ちゃん」初めて喪服を着た日。火葬の待合室で、微笑んでくれたご婦人の白髪。誰の友人か親戚かも分からなかったし、その言葉も今思えば当時の流行り通販や商材?なんて思うけど。心乱れるたび、私もまた小声で唱えている。「…ディープ、ブレス…」
【389】
【✏】新しいスウェットを買った!タグを切り落とし内側に手を這わせる…最高。触り心地最高。着心地も絶対最高。天の羽衣などなくても、このスウェットがあればいい。仕事で冷や汗かいた分、風呂から出たら、このおろしたての上下に身を委ねよう。そしたら酒の缶を開けて、録画した試合に興じるのだ!
お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )